Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep10.リザードファイト

公開日時: 2023年2月24日(金) 12:30
更新日時: 2023年3月1日(水) 17:48
文字数:2,624

 ゲルドッツォとの戦闘が始まった。

 杖を振り上げ、片手を俺達へと向けている。


「魔法を発動するのか!」

「そうみたいね」


 俺とラナンは身構える。


「父より受け継ぎし強大な魔力を見せてやろう!」


――全てを凍てつかせよ……血も心臓も……フリーズミスト!!


 魔王ドラゼウフの骸を凍り付かせた水属性の氷結呪文。

 まともに当たればダメージは免れないだろう。


「俺が前に出る! 援護を頼むぞ!!」

「わかったわ」


 繰り出した冷気を暗黒の盾で受け止める。

 これで水属性のフリーズミストのダメージを軽減できる。


「炎と雷の輝き――」


 ラナンは詠唱している。

 おそらくはバーストアローを発動してくれるのだろう。


「ぬゥ?! 人間よ、それは暗黒の盾ではないか!!」


 前衛に出る俺を見て、ゲレドッツォは暗黒の盾を指差した。

 どうやら、この盾の存在を知っているようだ。


「クカカカ! その手に持つはカタストハンマー!!」


 次はカタストハンマーを見ている、この武器の事も知っているようだ。

 それもそうか、元々呪われた武具は魔族が生み出したもの。

 魔物であるゲレドッツォが知っていても不思議ではない。


「ハァッ!!」


 俺は構うことなく攻撃を加える――が。


「その武器は元々力自慢のオーガ一族が使うものよ! 非力な人間が扱える代物ではないわ!!」


 そう述べるとひらりと身を躱し、ゲレドッツォは空中に浮いた。

 風属性の補助魔法『ブクウ』一定時間内飛翔する呪文である。


「ホッホッ! 人間よ、大凡おおよそそこの女魔族の誘惑魔法テンプテーションにかかったのであろう。魔族の手先として操られ哀れなものよ!!」


――風の精霊よ……汝らの力を借り、風の魔弾を繰り出さん……エアパルト!!


 ゲレドッツォは挑発すると、フサームを倒したエアパルトを発動させた。

 空気の弾丸が襲う、俺は咄嗟に暗黒の盾で防ぐが。


「ぐッ?!」


 なんと暗黒の盾は砕け、俺の体に強い衝撃が加わる。

 火と水以外の属性の場合、2倍のダメージが返ってくる。

 素早さは落ちるも、ブラッドアーマーがなければ骨という骨が砕けていただろう。


「リザードマンめ」


 盾は砕け、脳震盪に近い状態になりかけるも何とか俺は体勢を立て直した。


「ぬお?! まだ生きておるか、我がエアパルトの一撃を食らって――」


 ゲレドッツォがそう話した時だ。


「爆炎の矢を放たん……バーストアロー!!」

「ほふっ?!」


 空中にいるゲレドッツォにラナンのバーストアローが直撃した。

 爆炎と共に黒煙に包まれている。


「ゲ、ゲレドッツォ様!?」

「ま、まさか……そんな」


 ハンバルと交戦するリザードマン達は、ゲレドッツォがやられたことに気付いた。

 各々悲壮な表情を浮かべ、うなだれている。

 あいつらにとっては、強大なカリスマだったのだろう。


「空中に飛ぶなんて狙って下さいって言ってるようなものよ」


 ラナンは黒煙を見ながらそう呟いた。

 ――ゲレドッツォもこれで終わっただろう。


「クカカカカカッ! 汝らに我を滅することは出来ぬぞよ!!」


 バカな……あの声は。


「我の父は魔王ドラゼウフ! 母はリザードマン系S級クラスの魔物リザードマンクィーンのリーカ! 我こそが新魔王軍を率いるべき真の後継者なりィ!!」


――オオオオオオオオッ!!


 リザードマン達の歓声が上がった。同種族として誇らしいのだろう。


「来たれよ! この頭から生える龍角にかけて!!」


 確かに、ヤツの頭から山羊のような角が生えていた。

 まさか本当に魔王ドラゼウフが、その魔物と情事を結び誕生したというのか。


「汝らに闇の裁きを! 新魔王の威光を見せてしんぜよう!!」


 片足立ちとなり、怪しげなポーズを極めている。

 モンク僧が行う拳法のような構えだ。


(どこまでも人間のマネを……)


 服はバーストアローに焼かれ、被っているミトラは消し飛んでいた。

 杖は折れ投げ捨てると、虚空を拳や蹴りで突いている。

 武術の型演武のような動きだ。


「我が拳法で聖を打ち滅ぼさん!!」


 何が拳法だ。どこまでも可笑しなリザードマンだった。

 それにしても、あの魔法といい拳法といいどこで覚えたのだろうか。

 形はどうあれそれなりに様になっている。


 そして、胸部にあるあの鉄の塊……。

 胸当てを装備しているのか。

 フサームの曲刀は折れ曲がるハズだ。


――ゲレドッツォ様! ゲレドッツォ様!


「ぬゥ……こやつら急に!!」


 リザードマン達の勢いが増した。

 ハンバルが一人食い止めているも押され始めている。


「ハンバル! 何とか堪えてくれ、フサームの気は失ったままだ」

「言われなくともわかっておる」


 ハンバルは一匹のリザードマンを、張り手で突き飛ばしながら答えた。

 リザードマンの数は少ないものの、こちらに攻められては挟み込まれる。

 それに気を失っているフサームの命も危ない。


「少しくらいのダメージならば……!!」


 俺はゲレドッツォに突撃する。

 ブクウの効果が切れたところを見ると、あいつ自身大した魔力は持ち合わせていないと思った。


「破唖ッ!!」


――ゴガッ!


 鈍い音が鳴った。

 今度は命中出来た、カタストハンマーでの会心の一撃を放った。

 しかし……。


「無駄なりィ!!」


 土属性の補助魔法『プロテクト』をゲレドッツォは発動させていた。

 淡い黄色のオーラが包み込み、防御力は増大していたのだ。


「如何にカタストハンマーと云えども、我が防御力を凌駕することは不可能!!」

「……!!」

「北天爆裂拳!」


 ゲレドッツォは両手を固め打ち込んだ。

 ホクテンバクレツケンなる技を繰り出してきたのだ。


「アタタタタタッ!!」


 ゲレドッツォの怪鳥音と共に拳の連撃が襲って来る。

 俺は避けられず、まともにヤツの拳を受けてしまった。


「ぐゥ!!」


 鎧に衝撃が伝わるが何とか堪える。


「我が拳は魔拳なりィ! これぞ新魔王の……」


――ビキィ!


 ゲレドッツォが自慢げに言った時だ。

 装備している胸当てにヒビが入っていた。


「ぐへッ?!」


 それと同時にゲレドッツォは吐血した。

 カタストハンマーの一撃が防御力を通過してダメージを与えたようだ。


――フリーズミスト!


「ひ、ひうッ!?」


 その隙を突いて、ラナンがゲレドッツォに冷気をぶつける。

 爬虫類系のモンスターであるリザードマンの弱点だ。


「ゲレドッツォの魔法を発動しないわ! きっと魔力が尽きているのよ!!」


 ラナンが俺に呼びかけた。

 確かに……先程からゲレドッツォは拳技しかしない。

 残りの魔力が少ない証だ。


「次代の魔王軍を担う我に対するここまでの非礼! こうなれば魔の子らを呼び寄せるしかないわ!!」


 追い詰められたゲレドッツォは口笛を吹いた。

 魔王城に響き渡る高音――これから一体何が起こるのだ。

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