ゲルドッツォとの戦闘が始まった。
杖を振り上げ、片手を俺達へと向けている。
「魔法を発動するのか!」
「そうみたいね」
俺とラナンは身構える。
「父より受け継ぎし強大な魔力を見せてやろう!」
――全てを凍てつかせよ……血も心臓も……フリーズミスト!!
魔王ドラゼウフの骸を凍り付かせた水属性の氷結呪文。
まともに当たればダメージは免れないだろう。
「俺が前に出る! 援護を頼むぞ!!」
「わかったわ」
繰り出した冷気を暗黒の盾で受け止める。
これで水属性のフリーズミストのダメージを軽減できる。
「炎と雷の輝き――」
ラナンは詠唱している。
おそらくはバーストアローを発動してくれるのだろう。
「ぬゥ?! 人間よ、それは暗黒の盾ではないか!!」
前衛に出る俺を見て、ゲレドッツォは暗黒の盾を指差した。
どうやら、この盾の存在を知っているようだ。
「クカカカ! その手に持つはカタストハンマー!!」
次はカタストハンマーを見ている、この武器の事も知っているようだ。
それもそうか、元々呪われた武具は魔族が生み出したもの。
魔物であるゲレドッツォが知っていても不思議ではない。
「ハァッ!!」
俺は構うことなく攻撃を加える――が。
「その武器は元々力自慢のオーガ一族が使うものよ! 非力な人間が扱える代物ではないわ!!」
そう述べるとひらりと身を躱し、ゲレドッツォは空中に浮いた。
風属性の補助魔法『ブクウ』一定時間内飛翔する呪文である。
「ホッホッ! 人間よ、大凡そこの女魔族の誘惑魔法にかかったのであろう。魔族の手先として操られ哀れなものよ!!」
――風の精霊よ……汝らの力を借り、風の魔弾を繰り出さん……エアパルト!!
ゲレドッツォは挑発すると、フサームを倒したエアパルトを発動させた。
空気の弾丸が襲う、俺は咄嗟に暗黒の盾で防ぐが。
「ぐッ?!」
なんと暗黒の盾は砕け、俺の体に強い衝撃が加わる。
火と水以外の属性の場合、2倍のダメージが返ってくる。
素早さは落ちるも、ブラッドアーマーがなければ骨という骨が砕けていただろう。
「リザードマンめ」
盾は砕け、脳震盪に近い状態になりかけるも何とか俺は体勢を立て直した。
「ぬお?! まだ生きておるか、我がエアパルトの一撃を食らって――」
ゲレドッツォがそう話した時だ。
「爆炎の矢を放たん……バーストアロー!!」
「ほふっ?!」
空中にいるゲレドッツォにラナンのバーストアローが直撃した。
爆炎と共に黒煙に包まれている。
「ゲ、ゲレドッツォ様!?」
「ま、まさか……そんな」
ハンバルと交戦するリザードマン達は、ゲレドッツォがやられたことに気付いた。
各々悲壮な表情を浮かべ、うなだれている。
あいつらにとっては、強大なカリスマだったのだろう。
「空中に飛ぶなんて狙って下さいって言ってるようなものよ」
ラナンは黒煙を見ながらそう呟いた。
――ゲレドッツォもこれで終わっただろう。
「クカカカカカッ! 汝らに我を滅することは出来ぬぞよ!!」
バカな……あの声は。
「我の父は魔王ドラゼウフ! 母はリザードマン系S級クラスの魔物リザードマンクィーンのリーカ! 我こそが新魔王軍を率いるべき真の後継者なりィ!!」
――オオオオオオオオッ!!
リザードマン達の歓声が上がった。同種族として誇らしいのだろう。
「来たれよ! この頭から生える龍角にかけて!!」
確かに、ヤツの頭から山羊のような角が生えていた。
まさか本当に魔王ドラゼウフが、その魔物と情事を結び誕生したというのか。
「汝らに闇の裁きを! 新魔王の威光を見せてしんぜよう!!」
片足立ちとなり、怪しげなポーズを極めている。
モンク僧が行う拳法のような構えだ。
(どこまでも人間のマネを……)
服はバーストアローに焼かれ、被っているミトラは消し飛んでいた。
杖は折れ投げ捨てると、虚空を拳や蹴りで突いている。
武術の型演武のような動きだ。
「我が拳法で聖を打ち滅ぼさん!!」
何が拳法だ。どこまでも可笑しなリザードマンだった。
それにしても、あの魔法といい拳法といいどこで覚えたのだろうか。
形はどうあれそれなりに様になっている。
そして、胸部にあるあの鉄の塊……。
胸当てを装備しているのか。
フサームの曲刀は折れ曲がるハズだ。
――ゲレドッツォ様! ゲレドッツォ様!
「ぬゥ……こやつら急に!!」
リザードマン達の勢いが増した。
ハンバルが一人食い止めているも押され始めている。
「ハンバル! 何とか堪えてくれ、フサームの気は失ったままだ」
「言われなくともわかっておる」
ハンバルは一匹のリザードマンを、張り手で突き飛ばしながら答えた。
リザードマンの数は少ないものの、こちらに攻められては挟み込まれる。
それに気を失っているフサームの命も危ない。
「少しくらいのダメージならば……!!」
俺はゲレドッツォに突撃する。
ブクウの効果が切れたところを見ると、あいつ自身大した魔力は持ち合わせていないと思った。
「破唖ッ!!」
――ゴガッ!
鈍い音が鳴った。
今度は命中出来た、カタストハンマーでの会心の一撃を放った。
しかし……。
「無駄なりィ!!」
土属性の補助魔法『プロテクト』をゲレドッツォは発動させていた。
淡い黄色のオーラが包み込み、防御力は増大していたのだ。
「如何にカタストハンマーと云えども、我が防御力を凌駕することは不可能!!」
「……!!」
「北天爆裂拳!」
ゲレドッツォは両手を固め打ち込んだ。
ホクテンバクレツケンなる技を繰り出してきたのだ。
「アタタタタタッ!!」
ゲレドッツォの怪鳥音と共に拳の連撃が襲って来る。
俺は避けられず、まともにヤツの拳を受けてしまった。
「ぐゥ!!」
鎧に衝撃が伝わるが何とか堪える。
「我が拳は魔拳なりィ! これぞ新魔王の……」
――ビキィ!
ゲレドッツォが自慢げに言った時だ。
装備している胸当てにヒビが入っていた。
「ぐへッ?!」
それと同時にゲレドッツォは吐血した。
カタストハンマーの一撃が防御力を通過してダメージを与えたようだ。
――フリーズミスト!
「ひ、ひうッ!?」
その隙を突いて、ラナンがゲレドッツォに冷気をぶつける。
爬虫類系のモンスターであるリザードマンの弱点だ。
「ゲレドッツォの魔法を発動しないわ! きっと魔力が尽きているのよ!!」
ラナンが俺に呼びかけた。
確かに……先程からゲレドッツォは拳技しかしない。
残りの魔力が少ない証だ。
「次代の魔王軍を担う我に対するここまでの非礼! こうなれば魔の子らを呼び寄せるしかないわ!!」
追い詰められたゲレドッツォは口笛を吹いた。
魔王城に響き渡る高音――これから一体何が起こるのだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!