ダイセイシ……ベルタやジルが言った言葉だ。
イオの話では『この世界は何度も何回も組み換え、作り変えられたもの』とのことだ。
では、ダイセイシなる人物はこの世界を作り出した神なのであろうか。
「ダイセイシとは神なのか?」
「いや、アイツは人間だよ。人間なのは間違いない」
ますます分からなくなった。
世界を創造したのであれば、ダイセイシは紛れもない神と呼ばれる存在だ。
「ま、魔王様」
フサームが恐る恐るイオに語りかけた。
彼もまた俺と同様の心境だったのだろう。
「我々が住むこの大陸も、国も、世界も誰かに作られたって突然言われましても……」
混乱する俺とフサーム。
イオは取り出した青い魔導書……いや『サファウダ戦記』を開きながら言った。
「先程言った通り、この世界の前の世界『サファウダ戦記』もそうさ」
そこには絵や文字が書かれている。
武器の製造法や武技や呪文の仕方が書かれていた。
一枚一枚めくる。
そうすると見たことがある剣が見えた。
「そ、その武器は?!」
「君が腰にぶら下げているアレイクだよ」
イオは目を細めた。
だが、どこか悲しげ顔にも見える。
赤い刀身の武器アレイク。
彼女が勇者だった時に入手した武器で、俺に渡した曰く付きの刀剣だ。
「この剣を手に入れたのが始まりだった……ボク達の物語が狂い始めたのは」
イオも、その仲間であるクロノも視線を落としていた。
彼女達に一体何があったというのだろうか。
俺もフサームも、事の真相を知らない者達は静かに耳をすませた。
また、何かを知っているラナンやハンバルは黙ってイオを見つめていた。
***
ボク達のパーティからダミアンが抜け、次の場所……そうゴルベガスに向かう途中だった。
パーティはそこにいるクロノ、そして武闘家のシンイーを含めて3人さ。
「順調にいけば次はゴルベガスか」
「魔王城も近くなるってワケじゃの」
既に知っているだろうけど、ゴルベガスは魔王城に近い。
物語も終盤という感じだろうけども、あの街はご存じの通りカジノなどの遊び場が多い歓楽街だ。
魔王城の近くに、おかしな街があると思うだろうけどそれもそのハズ。
あそこは物語とは脱線した遊び場を設けることで、ボク達を足止めするために作った街。
プレイヤーに道草を食わせるのが大聖師の目的だ。
作り出した物語にスパイスを入れようとしたんだろうね。
――どうしてわかるんだって顔だね。
まあ話の続きを聞きなよ。
「ゴルベガスには腕利きの冒険者がいるらしい。ダミアンの代わりに強い戦士を仲間に入れなきゃな」
「ワシはちょいとカジノで遊びたいの」
「何言ってんだい! さっさと魔王城までいってドラゼウフをブッ飛ばすんだよ!!」
シンイーはダミアンの代わりとなる戦士のことで頭が一杯だった。
彼女は真面目な性格で親や友人を魔王軍に殺された……という設定だからね。
「す、すまぬ。ところでイオよゴルベガスの前に行きたい場所があるとな?」
「うん……最近冒険者の間で噂になっている祠に行きたくてね」
「祠だって? また何でそんなところに行くんだい」
冒険の途中で立ち寄った街で、噂になっていた祠があった。
冒険者の一人が中に入ると中には何もない。
ただ、どこか体を貫くようなイヤな雰囲気がするという。
「一度そこに立ち寄って確かめようと思うんだ。何か強力なアイテムが隠されているかもしれない」
こうしてボク達は謎の祠に立ち寄ることにした。
人気のない祠で魔物が住みついていないか警戒はしたが何もなかった。
「何もないところじゃの」
「イオ、さっさと出ようよ。ここには何もないよ」
「いや待って……あの床だけおかしい」
祠の奥に空のように赤い床面があった。
ボクが床面を調べると……。
――ギィ……
床面が扉のように開いた。
そこに隠し階段があったんだ。
階段奥から赤い闘気が流れる……何とも不思議な雰囲気だ。
「降りよう」
「ちょ、ちょっとイオ!」
「大丈夫かの?」
「行こう……何かがある」
ボクは導かれるように階段を降りた。
誰かに呼ばれている――きっと何かがボクが来ることを待ち望んでいる。
そして、アレイクはあった。
赤い刀身であるが神秘的かつ妖美……見るものの心を奪う剣だった。
「こ、これは!」
「剣じゃと? 何とも奇怪な」
「怪しすぎるね、呪われた武器じゃないかい?」
「……」
ボクは黙って手に取った。
すると……。
――人間か……ソル以来だな。
不思議だった。剣に触れた時、誰かがボクに話しかけてきたんだ。
「クロノ、何か言った?」
「ワシは何も言っとらんぞ」
「おかしいな……誰かがボクに話しかけてきたような……」
「もうどうだっていいじゃないか、さっさと出ようよ」
シンイーはそう言ったけど、ボクはどうしてもこの剣のことが気になった。
「でも、この剣……」
「イオ、私達は魔王ドラゼウフを一刻も早く倒す使命があるんだよ!」
確かにシンイーの言う通りだ。
冒険の寄り道をしたが、何も起こらないイベントに足止めされるワケにもいかなかった。
諦めて物語の通常ルートを進めようとした時だった。
――勇者、偽りの正義の称号を持つものよ。
ボク達は突然の事に驚いた。
部屋にボク達以外の人間はいないのに女の人の声が響いたんだ。
――我が名はアレイク。
「な、なんじゃこの声は?!」
――魔竜王ルビナスに作られし魔剣。
「ま、魔竜王ルビナス?」
――己と敵の魂を捧げよ。さすれば『煉獄の魔装』を授けよう。
一方的な話が終わると剣は床から抜け、ボクの手に剣は握られていた。
「うっ……?!」
キミも分かっているだろうけど、アレイクは持ち主の生命力と精神力を削る魔剣だ。
ボクは握っただけで全身に倦怠感と熱を感じた。
その場でよろめき倒れてしまった。
「イ、イオ!!」
「大丈夫か?!」
倒れるボクをシンイーが介抱してくれた。
彼女は握っているアレイクを苦々しく見つめていた。
「こいつはどう見ても呪われた装備品だ……クロノの爺さん、早くケンバヤをかけて!」
「言われなくても分かっておる」
直ぐにクロノがケンバヤを唱え事なきを得た。
何という武器だろうか。
リスキーソードといった呪われた武器を間違って装備したことは何度かある。
……がここまで『死』を意識したのは初めてだった。
「ハァハァ……」
「大丈夫かい?」
「う、うん……何とか」
――トッ……
靴音が聞こえた。誰かが後ろにいる。
ボク達が音の方を振り向くと男がいたんだ。
「こんなところに置き忘れたか……消し忘れたデータ。確かエンディング後、開発室に持ち込めなかったので急造したこの祠にしまわれたんだっけか」
そいつはサイネリア色の頭巾を被り、体を包み込む白いマントを羽織る小柄な男だった。
ボクが持つアレイクをチラチラ見ていた。
「ムム……しかし困ったな……君達がここに来てしまうとは……『バグ』は想定外のイベントを引き起こす」
男は一人腕を組みながら悩んだ顔をしていた。
これが大聖師との最初の出会いだった。
この世界の創造主である男の唐突な登場と出会い。
ボク達が進むべき物語もまた狂い始めた。
いわゆる『バグ』というものが発生してしまったんだ。
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