Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep43.託されたクエスト

公開日時: 2023年3月18日(土) 12:30
更新日時: 2024年5月6日(月) 09:17
文字数:2,943

「ジ、ジル」

「そこにいる小娘と老いぼれは……」

「だ、誰が老いぼれじゃ! ワシは賢者クロノ・マクスウェルじゃぞ!!」

「賢者? それは作られた設定だろうが」

「な、何を言っとるんじゃ、この若造は」


 サファウダは表情が曇っている。

 それにこのジルという男は何者なんだ?


「なるほどな……大聖師様が先程からお怒りになっている理由がわかった」

「お願い。ここは見逃して」

「ダメだ! お前は特別らしいが勝手な行動は許されんことだぞ!」

「私は……」

「そこの二人には消えてもらう」


 ジルという呼ばれた男が何やら手から紫色の炎を練り出した。

 見たこともない魔法だ。

 危険――長年の冒険で獲得した危機感がボクとクロノに構えを取らせる。


「イオ!」

「う、うん!」


 ボクは自然とアレイクを手にした。

 それを目にしたジルは笑っている。


「そんな出来損ないの武器を持ってどうする」

「やめて! この人達は……」

「ゲームオーバーになったキャラにコンテニューはない!」


 ボク達を本気で消す飛ばすつもりだ。


「削除する!」


 いよいよジルが魔法を唱えようとした時だ。


「ジルウウウウウゥゥゥ――ッ!!」


 現れたのは大聖師。

 ボク達をようやく見つけ出したようだ。

 それもそのはず、これだけの大騒ぎになればバレるものさ。


「大聖師様!?」

「次回作のキャラ達が消滅しちゃうだろうがァ!!」


 そうボク達の周りにはガルア、君を始めとした次の作品の登場人物達がカプセルの中にいる。

 ここで消滅させてしまっては大聖師の壮大な構想が水の泡と化す。大聖師は必死だった。


「見張り役のお前が暴走してどうするんだ!」

「そ、それは……」

「うるさい! うるさい! うるさーい!」


 大聖師とジルが言い合っている。

 サファウダはその隙を見て、ボク達に言った。


「外の世界に行って下さい」

「そ、外の世界?」

「こんな不思議空間から抜け出す方法などあるのか」

「大丈夫です。大聖師が編み出したこの秘術さえ使えば――」


 サファウダは亜空間を出現させた。それは黒い渦だった。


「ワープゾーン……ここへ飛び込みなさい、この先はあなた達がいた外の世界へと繋がっています」

「でも……」

「イオ! この美人さんの言う通りにするんじゃ!」

「まだシンイーを助け出していない!」

「残念じゃが置いていくしかない」

「ク、クロノ! 君は仲間を見捨てて逃げ出せというのかい!?」

「今は非常事態じゃ!」


 クロノはボクの手を掴み、無理矢理にでもワープゾーンという亜空間に飛び込もうとした。

 ボクは必死に抵抗した。シンイーもサファウダも見捨てることなんて出来なかった。


「ダ、ダメだ! それにサファウダも――」

「私は外の世界へ行くことは出来ません」

「行くことが出来ない?」

「私は外の世界へいけないのです」


 一方、大聖師はこちらの様子に気付いたようだ。

 手をバタバタと振り、足は地団駄を踏んでいる。


「そ、それはワープゾーンじゃないか! どこでそんなものを覚えやがった!」

「イオ、迷っているヒマはありません!」

「で、でも」

「手荒なマネはしたくなかったのですが……」


――ストームボーグ!


 サファウダは風属性の魔法を唱えた。

 ボクとクロノに烈風が浴びせられ、吹き飛ばされる。

 向かう場所は彼女が出現させたワープゾーンだ。


「ぬおっ!? 魔法を詠唱なしで繰り出すなどありえるのか?!」


 大聖師に向けて放ったものであるが、威力は抑えられている。

 そういえば、サファウダが使う呪文はどれも詠唱なしで繰り出すことが出来る。

 その代わりといっては何だが、ボク達が使用するものと比べれば攻撃力はない。


「さようならイオ」


 サファウダは笑っている。

 ボクは届かないと理解していても手を伸ばす。


「サファウダ――ッ!」

「世界にバグを引き起こして下さい。どんな小さなことでも構いません……あなたが勇者以外のキャラを演じ混乱を起こしてもいい、消されたハズの人や魔物、アイテムも見つけてもいい」

「ボクは――」


 亜空間にボクは吸い込まれていく。

 だんだんと黒い塊に体が呑まれていった。


「勇者よ。世界に光りを取り戻して下さい」


 サファウダの最後の言葉だった。

 よくある台詞、冒険の前に皆から言われた言葉だ。


「イオ、会えてよかった。あなたの雰囲気はソルによく似ています」


 サファウダは優しく笑っていた。


          ***


「俺が作られただと?」

「君だけじゃない。勇者イグナスも僧侶ミラも、君が出会った人や魔物、これまでの出来事は大聖師が作り上げたルートを進んでいただけだ」


 洞窟には冷たい空気が流れた。信じられない話だった。

 この世界は大聖師と呼ばれる創造主に作られた世界であること――それにこの俺も。


「ボクはサファウダにインストールされた記憶を元に消された断片を探す旅に出た。誰も寄り付かない洞窟に配置されたグレーターデーモン……設定だけの囚われた聖女を護衛するホーリートロル……ボク達は彼らを見つけ仲間に引き入れていった」

「サッドやハンバルも?」


 俺はハンバルを見た。

 見た目は普通のトロルであるが、知的な雰囲気や回復魔法などが使え特別感があった。


「ラナンも同じさ。君が倒れて運び込まれたあの洋館――あそこは元々大聖師がイベント用に作った建物なんだ。彼女はそこに住んでいた」


 ラナンが俺を見て言った。


「そう『濡羽色ぬればいろの魔女』という妖魔がね」

「濡羽色の魔女?」

「私の名前」


 イオが少し笑う。


「あんまりだから、ボクが彼女にラナンと名付けた」


 そうするとラナンは寂しげな顔をした。


「『濡羽色の魔女』……特に何もイベントが作られず、ただ生み出され、誰もいない洋館に一人ぼっちだった」


 彼女達は作られた存在、完全に消し損ねた物語の登場人物。

 誰も来ないダンジョン、何も起こらないイベント――

 役割だけを与えられ放置された彼女達は孤独だっただろう。


「そんな夢みたいな話……」


 フサームはまだ現実を受け入れられていない様子だ。

 確かにイオの言葉には信憑性がある。

 俺の村で起こった不可思議な現象等々――


「回想話も終わりだ」

「な、何を……」


 イオは俺の額に手を当てる。


「君には特別にサファウダの記憶をあげる」


 跳ね除けようとも思ったが――何故か俺は抵抗しなかった。


――インストール!


 イオがそう唱えると何かが俺の脳裏に刻まれた。

 それはサファウダという国の物語。

 魔竜王ルビナスの登場。ソルなる勇者と女王サファウダとの出会い。

 そして、最後のビジョンが映った。それは白い光だ。


『全て消えてしまえ!』


 人の声が聞こえた。

 全てが光に包まれ消えていく。

 人も魔物も動物も何もかも……。


「こ、これは……」

「これが過去の物語の顛末さ」


 刻まれるサファウダ戦記の物語。

 これは夢なのか幻なのか……俺に古のビジョンが刻まれた。


「共に大聖師のシナリオを終わらせよう。世界を救うにはボク達が自立した意志『バグ』を持たなければならない」

「バグ……」


 この世界が大聖師のシナリオ通りに進んでいるのならば抗おう。

 キャラが意志を持つことがバグなら引き起こそう。

 俺がそう決意した時だった。


――ドン!


 大きな炸裂音が外から聞こえ、その音と共に洞窟が揺れた。


「きゃっ!」


 その揺れでラナンがつまづきそうになった。

 俺は咄嗟に彼女の手を取り助けた。


「大丈夫か?」

「え、ええ……」


 ドスの効いた声が俺達に聞こえてきた。


「吾は『動く仁王像』! 貴様らを滅する妖術人形なりィ!」

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