クロノは目の前にするエーターナール、そして傍らに浮遊している道化た男を睨みつけた。
「大聖師――あいつがやったのか」
「うん」
クロノはイオから話を聞かされた。
ゴルベガスが大聖師達に強襲されたこと、監視者と呼ばれる情報員がいたこと。
そして、ラナンのことも……一方のイオは勇者ソルとガルアに言われた大聖師のことを考えていた。
おかしい……勇者ソルは大聖師に世界ごと消されてしまったのではなかったのかと。
「どうしたんじゃイオ?」
「いや何でもないよ」
イオは考えるのを止めた。
今は考えている余裕はない、とりあえずは仲間や人々を避難させるのが先決だ。
ここはあの赤い悪魔のような風貌に変容したガルアに任せるべきだと考えた。
「ふむ……」
全てを聞かされたクロノはラナンの眠る顔を見る。
それは孫を見る祖父の眼差しのようであった。
このような雰囲気でも彼のキャラは変わらない。
「よく眠っておる。静かにしていれば可愛いんじゃがのう」
「クロノ……彼女は……」
「死んだんじゃろ?」
とぼけた性格はあくまでも表上だけ、心はラナンの死に顔を見て激情の炎を燃やしていた!
「弔い合戦じゃ! ラナンだけでなく、ワシの弟子達も含めてな!!」
クロノは巨大なエーターナールを見て印字を組んだ。
次に指で六芒星を描き! 声を張り上げる!
「出でよ! クロウザース!」
小さな六芒星はやがて大きくなり、そこから巨神が現れた!
「ガルア援護するぞ!」
――魔那人形『クロウザース』召喚!
色はサンライトイエローとディープロイヤルパープル!
賢者が扱うには似合わない鈍重な重鎧の見た目!
ゴツゴツとした角ばったデザイン! ギョロリと覗かせるモノアイは青く輝く!
高価な金属である貴重なサンライトゴールドは黒曜石よりも固い!
魔力の倍加効果があるクリスタルパープルは魔那人形の動力を高める!
更には手に持つ鉄球『魔導棘付き鎖鉄球』はこの世で最も固いオリハルコン製!
操縦方法は魔導遠隔操作式を採用!
「ク、クロノ……これは……」
「ワシが極秘開発したオリジナル魔那人形『クロウザース』じゃ! 今のうちにイオは皆をここから避難させい!!」
「わ、わかった!」
クロノは両手を振りかぶると、
「ちェりや!」
シャドウピッチングを取熟す!
――魔導棘付き鎖鉄球!
クロノの動きとシンクロし、魔導棘付き鎖鉄球が放たれた!
向かうべき先はエーターナール!
「んっ!? 何だ突然!」
大聖師がクロウザースの登場に気付くのが遅すぎた。
覚醒したガルアに気を奪われ過ぎていたのだ。
「受け止めろ! エーターナール!!」
――グルオオオオオオオオッ!
エーターナールは咆哮を上げ、魔導の鉄球を両手でガッシリと受け止めた。
「キャッチ! こんなものは返してやれィ!!」
すると――
――ギュ"ラ"ラ"ラ"……
鉄球は電光を帯びながら回転する!
「ななっ!?」
「魔導回転! これが回転の力じゃアアアアア!」
――ギュ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"!
魔導棘付き鎖鉄球の回転がエーターナールの両掌を摩耗させていく!
火花が飛び散り、金属が焼ける匂いがした! 遠隔操作する大聖師はその回転を止められずにいた!
「ちくしょう! あの鉄球を放せば直撃が――」
大聖師はジルを見た。
「早くガルアを倒して援護しろ!」
創造主に命令を受けたバグチェッカーは動けないでいた!
いや動けないが正しい!
「う、うぬゥ……」
「何をやっている!? さっさと戦わないか!」
ジルは恐怖で動けない!理性で動けない! 理屈で動けない!
逃げることも手向かうこともできず、スイッチが止まっていた!
云わば『蛇に睨まれた蛙』状態となっていた!
「フリーズしたか!?」
「ち、違います……私は……」
「壊れた人形はいらない!」
大聖師は右手を天に掲げ光弾子を練り出した。
「だ、大聖師様!?」
「二人とも消えちまえ!」
――エターナル・オメガ!
光の球体がジルとガルアに直撃した。
地上にいるイオ達は、傷ついた仲間と住民達を避難させながらその光景を見守る。
「ガルア!」
イオは叫んだ。あの光弾子は開発室で見た記憶がある。
大聖師が放とうとしたものだ。
サファウダの記憶が教えるには全てを消し去る無属性の光。
流石のガルアも――
「消し飛ばしてやったぞ! 最初からこいつを使えば――」
「隙だらけだぞ」
イベントが発生し『煉獄の魔装』を纏ったガルアが飛び出した!
――怒!
まずは大聖師の顔面! 紅の一撃が放たれ、
「ぐはアッ!?」
サイネリア色の頭巾は吹き飛んだ!
――烈!
怒涛の攻撃は止まらない! 大聖師は紅の連撃を浴び、
「グボオオオッ!」
白いマントは引き裂かれ真紅に染まる!
「あ、あの顔は!」
イオは驚いた!
ボロボロになり姿を現した小男に見覚えがあったのだ!
サファウダとの美しい思い出、辛い思い出、悲しい思い出の中にいつも彼はいた!
その名は――!
「ソル・アルバース!」
小柄な体躯ながら鍛練された肉体であった。
髪は短髪で色はダークパープル、主人公らしく整った顔立ちであった。
幼稚な言動、行動で道化じみていた大聖師は勇者ソル・アルバースその人である。
「うぐう……ぐっ……ガハッ!」
血を吐いたソル。目にする赤き悪魔を見てニタリと笑う。
「フフッ……流石はアレイクだ。全身を武器化する呪われた装備品」
一方、地上にいるイオは混乱していた。勇者ソルが何故あそこにいるのだ。
インストールされた記憶によると、彼は大聖師に消されたはずだ。
この場にいるはずがない存在に困惑するしかない――
「ボクが持っているサファウダの記憶は……」
勇者ソルはサファウダ国を裏切り魔族に寝返った。
サファウダにインストールされた記憶は大方正しい。
「こいつらを殺してレベルアップだ!」
「魔物は何匹殺しても罪に問われないから最高だな」
ソルが闇堕ちした理由は人間の汚い部分を見過ぎたからだ。
魔物は人間達に戦闘経験を積むため、己の快楽のため、あるいはストレスを発散するために蹂躙される。
人間に殺された魔物の屍、そこにはどう見ても無害であろう妖魔の子供の姿があった。
「…………」
魔竜王ルビナス打倒のために冒険を続ける勇者ソル。
「本当に守るべきものは違うのではないか」と――
これこそが自立した思考、所謂『バグ』の発生であった。
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