クロノが操る銅の巨人、魔那人形。
右腕がまるで投石器の様に飛び出した。
「当たれ! 弾け飛ばんかい!!」
「むぐッ!?」
巨大な拳がシキナミに直撃する。
シキナミは両腕をクロスしてガードするも、剛拳の一撃で破壊された。
「な、何という豪力! 吾の腕を破壊するとは!」
「今度はワシの魔力を込めたヒートビームで……」
「そうはさせぬ!」
シキナミは即座に反撃した。
魔那人形の懐に飛び込み回転蹴りを放った。
「つァッ!」
「ぐわあああ!」
「ク、クロノ!」
吹き飛ばされた魔那人形。
地面に倒れた銅の体からは黒い煙が出ていた。
「トドメを刺してくれる!」
シキナミが追撃の踏みつけ攻撃を加えようとするが……。
――ミョルニルサンダー!!
イオがミョルニルサンダーを唱えた。
白い雷がシキナミを襲う。
「ぐおッ!」
「ボク達がいることを忘れるな」
「バグキャラどもが――」
シキナミは憤怒の表情だ。
そして、一旦後退して腰をゆっくりと落とす。
俺達は全員構えながら警戒する。
「大聖師様に与えられし、もう一つの力を見せてくれる!」
シキナミの口がパカリと開いた。
すると――
「まとめて消えるがいい!」
――スオオオォォォ!
口には光の粒子が集まっている。
ラナンとフサームはその光りを見て言った。
「な、何あれ……」
「俺が分かるわけねェだろ!」
ハンバルはイオの盾になるように両手をかざす。
「いざとなったら私がマジレクトを使います」
「無駄だよハンバル。あれは無属性攻撃だ」
「無属性?」
ツ……。
珍しくイオの額から汗が流れていた。
俺は彼女を横目で見ながら訊ねる。
「どうした?」
「『闘気』だ。一流の聖騎士が使うと言われる無属性の戦闘法だ」
俺も話だけなら知っている。
闘気……生物がもつエネルギーを具現化して戦う戦闘法。
その技をあのシキナミが使うというのか。
「全員削除する!」
集中された光の粒子は既に球体となっていた。
少しづつ、少しづつその球体は大きくなる。
このままでは全員が――
――ヒートビーム!
その時だ。
クロノの魔那人形が立ち上がり胸部から赤い光線を放った。
シキナミの光子弾が放たれる寸前、顔面にその光線が当たった。
その赤い光線は熱を帯びているようで、シキナミの鋼の顔が少し溶けていた。
「ぬがァ!?」
「ワシの魔力とサファウダ国の魔導科学合わさった火の一閃じゃ! 熱かろう、痛かろう!」
「おのれイイイィィィッ!」
怒りに震えるシキナミ。
破れかぶれでこちらに突進してきた。
一歩、一歩の踏み込みが、固い土の地面に足型がつくほどであった。
魔那人形を操りながらクロノが話しかけてきた。
「来たな……おいっ! そこの戦士!」
「俺か?」
「お前しかおらんだろうがい! さっさとこの魔那人形の頭に乗れ!」
「どういうことだ」
「あの固い体を斬れるのはアレイクしかないからじゃ!」
「その魔那人形ではダメなのか」
「これは試作品じゃ。武装がショボくて、ロケットパンチとヒートビームはそれぞれ一回づつしか使えん!」
シキナミは怒りに任せて突進してくる。
それも再び開く口には光の粒子が集まっていた。
「肉片も骨も残すものか! 己らをゼロ距離から葬ってくれるゥ!!」
時間がない――確かにその通りだ。
それに今ある武器も魔法も決定打とならないのなら……。
俺は黙ってクロノの魔那人形の頭の上に飛び乗った。
「俺がやるしかないらしいな」
「よっしゃ行くぞ! 最大出力で飛ばすぞい!」
――シュウウウン!
魔那人形の足から音が聞こえる。
かなり速い動きで起動している。
風魔法の類か?
「落ちるなよ! 小僧!」
「言われるまでもない」
俺はアレイクの柄を持つ……。
まともな武器はこのアレイクのみ。
自分より大きな魔物とはこれまでも戦ってきた。
経験は十分――しかし、相手の敏捷性は高い。
「ワシが足止めして隙を作ってやる!」
「ぐぬッ!」
魔那人形がシキナミに突進し掴んだ。
シキナミは抵抗するも振りほどけないでいる。
「ぬ、ぬゥ! この世界勘違いの魔導人形が!」
「それはお前も一緒じゃろう! 欧風文化にオリエンタルな雰囲気は似合わんぞ!」
「老いぼれが貴様から滅殺してくれるゥ!」
シキナミの口には、既に光の粒子が集まり球状の物体が出来上がっている。
このまま至近距離から放出させるつもりだ。
「今じゃ! カッコよくキメてやれィ!!」
「何ィ!?」
俺は既に天高く飛び上がり剣を上段に構えている。
狙いはシキナミの頭部だ。
「破亜亜亜亜亜亜亜亜!!」
気合一閃。
俺は上空から縦一文字にシキナミの頭部を斬撃する。
――ズッ……
「ぬぐおおおッ!?」
頭部にアレイクの赤い刀身がめり込み……。
――ズズッ……
「よくぞ……吾を……打ち倒した……」
鉄の固い胴体を裂き。
――ズドン!
「あ、あっぱれなり!」
シキナミを一刀両断した。
「ハァハァ……」
呪われたアレイクを使用した影響で体にダメージを負う。
だが不思議なことに――
(倦怠感が少なくなっている)
これまでと違い強い疲労感や倦怠感に襲われない。
どういうことだ……俺自身も不思議だ。
ラナン達が俺の元へと寄って来る。
「ガルア大丈夫?」
「ああ……」
ラナンが心配そうな顔で俺を見つめる。
フサームといえば驚いた顔だ。
「その剣の切れ味すげえな」
「バカを言うな。一応使うたびに生命力が削れるリスキーな武器なんだぞ」
「そ、そうなのか」
イオとハンバルといえば、倒れたシキナミを確認していた。
「黒曜石で出来た体のようですな」
「手強い相手だった。ボクのミョルニルサンダーや魔那人形の攻撃に耐えるほどに……」
――パカッ……
魔那人形からクロノが現れた。
汗を拭うとイオに言った。
「魔那人形……やはり完全再現にはならんか」
「サファウダの記憶を手掛かりに作っただけだからね。これから要改善点が多い」
二つに切り裂かれたシキナミを見るイオの目はどこか冷たい。
だがそれと同時に、何かを決意した強い信念の炎も宿している。
***
その頃、シテン寺院では大聖師の前に訃報が届いていた。
「シキナミが敗れました」
「へっ……」
報告するのは魔法使いのジル。トウリの治療は既に完了。
彼自身はミラと共にレベルアップのためにフィールドという修行場へと向かっている。
「あ、あいつは魔王ドラゼウフのデータの一部を入れたり、無属性攻撃のコマンドを加えた自信作なんだぞ」
「イオ達に倒されたようでして……」
「あ、あのメスキャラめ! 今度捕まえたら僕無しでは生きられない体に改造してやる!」
「あまりそんなことを言うと――」
「うるさい! うるさい! うるさーい!」
バタバタと手足を振る大聖師。
それを見たジルは話を変えることにする。
とんでもないバグが発生したことが判明したからだ。
「それよりも大聖師様」
「なんだ?」
「シキナミから送られたデータでとんでもないことが……」
ジルは大聖師に紙の束を渡した。
そこにはイオやラナン、フサームやハンバルといったキャラのデータが書かれている。
生命力や魔力、所有する呪文や特技などが詳細に記されている。
中でもガルアのデータだけには付箋が貼られていた。
「ガルアのデータに注目して下さい」
「あの戦士がどうした」
「ステータスをよくご覧下さいませ」
「ほげっ!?」
大聖師はジルから渡された紙の束を地面に落とした。
能力表がおかしなデータを記していたからだ。
「HPが『9999』!? この物語ではHPの最大上限が『999』のハズだろ!!」
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