Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep45.HP9999

公開日時: 2023年3月19日(日) 15:00
文字数:2,951

 クロノが操る銅の巨人、魔那人形マナゴーレム

 右腕がまるで投石器の様に飛び出した。


「当たれ! 弾け飛ばんかい!!」

「むぐッ!?」


 巨大な拳がシキナミに直撃する。

 シキナミは両腕をクロスしてガードするも、剛拳の一撃で破壊された。


「な、何という豪力! 吾の腕を破壊するとは!」

「今度はワシの魔力を込めたヒートビームで……」

「そうはさせぬ!」


 シキナミは即座に反撃した。

 魔那人形マナゴーレムの懐に飛び込み回転蹴りを放った。


「つァッ!」

「ぐわあああ!」

「ク、クロノ!」


 吹き飛ばされた魔那人形マナゴーレム

 地面に倒れた銅の体からは黒い煙が出ていた。


「トドメを刺してくれる!」


 シキナミが追撃の踏みつけ攻撃を加えようとするが……。


――ミョルニルサンダー!!


 イオがミョルニルサンダーを唱えた。

 白い雷がシキナミを襲う。


「ぐおッ!」

「ボク達がいることを忘れるな」

「バグキャラどもが――」


 シキナミは憤怒の表情だ。

 そして、一旦後退して腰をゆっくりと落とす。

 俺達は全員構えながら警戒する。


「大聖師様に与えられし、もう一つの力を見せてくれる!」


 シキナミの口がパカリと開いた。

 すると――


「まとめて消えるがいい!」


――スオオオォォォ!


 口には光の粒子が集まっている。

 ラナンとフサームはその光りを見て言った。


「な、何あれ……」

「俺が分かるわけねェだろ!」


 ハンバルはイオの盾になるように両手をかざす。


「いざとなったら私がマジレクトを使います」

「無駄だよハンバル。あれは無属性攻撃だ」

「無属性?」


 ツ……。


 珍しくイオの額から汗が流れていた。

 俺は彼女を横目で見ながら訊ねる。


「どうした?」

「『闘気』だ。一流の聖騎士が使うと言われる無属性の戦闘法だ」


 俺も話だけなら知っている。

 闘気……生物がもつエネルギーを具現化して戦う戦闘法スタイル

 その技をあのシキナミが使うというのか。


「全員削除する!」


 集中された光の粒子は既に球体となっていた。

 少しづつ、少しづつその球体は大きくなる。

 このままでは全員が――


――ヒートビーム!


 その時だ。

 クロノの魔那人形マナゴーレムが立ち上がり胸部から赤い光線を放った。

 シキナミの光子弾が放たれる寸前、顔面にその光線が当たった。

 その赤い光線は熱を帯びているようで、シキナミの鋼の顔が少し溶けていた。


「ぬがァ!?」

「ワシの魔力とサファウダ国の魔導科学合わさった火の一閃じゃ! 熱かろう、痛かろう!」

「おのれイイイィィィッ!」


 怒りに震えるシキナミ。

 破れかぶれでこちらに突進してきた。

 一歩、一歩の踏み込みが、固い土の地面に足型がつくほどであった。

 魔那人形マナゴーレムを操りながらクロノが話しかけてきた。


「来たな……おいっ! そこの戦士!」

「俺か?」

「お前しかおらんだろうがい! さっさとこの魔那人形マナゴーレムの頭に乗れ!」

「どういうことだ」

「あの固い体を斬れるのはアレイクしかないからじゃ!」

「その魔那人形マナゴーレムではダメなのか」

「これは試作品じゃ。武装がショボくて、ロケットパンチとヒートビームはそれぞれ一回づつしか使えん!」


 シキナミは怒りに任せて突進してくる。

 それも再び開く口には光の粒子が集まっていた。


「肉片も骨も残すものか! 己らをゼロ距離から葬ってくれるゥ!!」


 時間がない――確かにその通りだ。

 それに今ある武器も魔法も決定打とならないのなら……。

 俺は黙ってクロノの魔那人形マナゴーレムの頭の上に飛び乗った。


「俺がやるしかないらしいな」

「よっしゃ行くぞ! 最大出力で飛ばすぞい!」


――シュウウウン!


 魔那人形マナゴーレムの足から音が聞こえる。

 かなり速い動きで起動している。

 風魔法の類か?


「落ちるなよ! 小僧!」

「言われるまでもない」


 俺はアレイクの柄を持つ……。

 まともな武器はこのアレイクのみ。

 自分より大きな魔物とはこれまでも戦ってきた。

 経験は十分――しかし、相手の敏捷性は高い。


「ワシが足止めして隙を作ってやる!」

「ぐぬッ!」


 魔那人形マナゴーレムがシキナミに突進し掴んだ。

 シキナミは抵抗するも振りほどけないでいる。


「ぬ、ぬゥ! この世界勘違いの魔導人形が!」

「それはお前も一緒じゃろう! 欧風文化にオリエンタルな雰囲気は似合わんぞ!」

「老いぼれが貴様から滅殺してくれるゥ!」


 シキナミの口には、既に光の粒子が集まり球状の物体が出来上がっている。

 このまま至近距離から放出させるつもりだ。


「今じゃ! カッコよくキメてやれィ!!」

「何ィ!?」


 俺は既に天高く飛び上がり剣を上段に構えている。

 狙いはシキナミの頭部だ。


「破亜亜亜亜亜亜亜亜!!」


 気合一閃。

 俺は上空から縦一文字にシキナミの頭部を斬撃する。


――ズッ……


「ぬぐおおおッ!?」


 頭部にアレイクの赤い刀身がめり込み……。


――ズズッ……


「よくぞ……吾を……打ち倒した……」


 鉄の固い胴体を裂き。


――ズドン!


「あ、あっぱれなり!」


 シキナミを一刀両断した。


「ハァハァ……」


 呪われたアレイクを使用した影響で体にダメージを負う。

 だが不思議なことに――


(倦怠感が少なくなっている)


 これまでと違い強い疲労感や倦怠感に襲われない。

 どういうことだ……俺自身も不思議だ。

 ラナン達が俺の元へと寄って来る。


「ガルア大丈夫?」

「ああ……」


 ラナンが心配そうな顔で俺を見つめる。

 フサームといえば驚いた顔だ。


「その剣の切れ味すげえな」

「バカを言うな。一応使うたびに生命力HPが削れるリスキーな武器なんだぞ」

「そ、そうなのか」


 イオとハンバルといえば、倒れたシキナミを確認していた。


「黒曜石で出来た体のようですな」

「手強い相手だった。ボクのミョルニルサンダーや魔那人形マナゴーレムの攻撃に耐えるほどに……」


――パカッ……


 魔那人形マナゴーレムからクロノが現れた。

 汗を拭うとイオに言った。


魔那人形マナゴーレム……やはり完全再現にはならんか」

「サファウダの記憶を手掛かりに作っただけだからね。これから要改善点が多い」


 二つに切り裂かれたシキナミを見るイオの目はどこか冷たい。

 だがそれと同時に、何かを決意した強い信念の炎も宿している。


          ***


 その頃、シテン寺院では大聖師の前に訃報が届いていた。


「シキナミが敗れました」

「へっ……」


 報告するのは魔法使いのジル。トウリの治療は既に完了。

 彼自身はミラと共にレベルアップのためにフィールドという修行場へと向かっている。


「あ、あいつは魔王ドラゼウフのデータの一部を入れたり、無属性攻撃のコマンドを加えた自信作なんだぞ」

「イオ達に倒されたようでして……」

「あ、あのメスキャラめ! 今度捕まえたら僕無しでは生きられない体に改造してやる!」

「あまりそんなことを言うと――」

「うるさい! うるさい! うるさーい!」


 バタバタと手足を振る大聖師。

 それを見たジルは話を変えることにする。

 とんでもないバグが発生したことが判明したからだ。


「それよりも大聖師様」

「なんだ?」

「シキナミから送られたデータでとんでもないことが……」


 ジルは大聖師に紙の束を渡した。

 そこにはイオやラナン、フサームやハンバルといったキャラのデータが書かれている。

 生命力HP魔力MP、所有する呪文や特技などが詳細に記されている。

 中でもガルアのデータだけには付箋が貼られていた。


「ガルアのデータに注目して下さい」

「あの戦士がどうした」

「ステータスをよくご覧下さいませ」

「ほげっ!?」


 大聖師はジルから渡された紙の束を地面に落とした。

 能力表がおかしなデータを記していたからだ。


「HPが『9999』!? この物語ではHPの最大上限が『999』のハズだろ!!」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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