二刀流で飛びかかるトウリ。
イオは構えようとしない、静かに立ち尽くしていた。
「拙者の魔法剣二刀流で滅してくれるッ!!」
「へぇ……魔法剣二刀流ねェ。やってみなよ」
「言われなくて……もッ?!」
トウリは武器に魔法を込めようとするも反応しない。
おそらくは……。
「バ、バカな……拙者の剣に魔法を込められぬ!!」
「魔法剣は燃費が悪いんだ。レベルに見合わない技で少ない魔力を消費したようだね」
イオは剣を抜かないままトウリに近付く。
まだ戦闘の経験が足りないのだろう。
トウリは自慢の魔法剣が発動しないことに動揺している様子だ。
「キミの敗因は魔力の無駄使い。初期から強力な技を大聖師に実装されたみたいだけど、レベルが不足しているようではね」
「だ、黙れ! ならば拙者の剣で貴様を……」
「だからさっきも言ったでしょ。キミはレベルが不足しているって」
――ビッ!!
居合一閃、イオは剣を抜き放った。
初撃が全く見えない神速の剣。
これが魔王……いや元勇者の太刀筋か。
「ぐはッ?!」
哀れトウリは体を横一文字に裂かれ倒れた。
一瞬の出来事だ。
俺達は呆然とイオの強さに驚くしかなかった。
「ト、トウリ!」
「ここは『負けイベント』だ。少し手加減してあげたから辛うじて生かしてある」
「こ、この出来損ないが!!」
ジルは杖を構え魔法を唱えるようとするが……。
「早く治療して上げないと、そこの世界観が違う勇者さんが死んじゃうよ」
「ぬ、ぬう……」
斬られたとはいえトウリの息はまだあった。
イオの言う通り早く治療をしなければ命が危うい。
「この壊れたデータどもめ……何れ必ず削除してやるから覚悟しろ!」
「ハイハイ――楽屋ネタはいいから早く消えなよバグチェッカーさん」
「ちっ! ミア、撤退するぞ!!」
「え、ええ……」
ジルは倒れたトウリを抱え、ミアはジルの傍に寄り一塊になる。
俺はミアと目が合ったが視線を逸らしていた。
スコルピオナイフを持つその手はまだ震えていた。
――エアルート!
瞬間移動呪文『エアルート』だ。
ジル達はそのまま何処かへと飛び立っていった。
冷たい夜風が流れる。
辺りには村人達の遺体が残ったままだ。
「にしてもよ……これお前が殺ったのか?」
フサームは村人達の遺体を見ていた。
そうだ……俺が俺自身で生まれ故郷の人達を殺したのだ。
「魔王様に叩き起こされて教えられたが、村人全員が魔物ってのは本当か? どう見たって目の前の死体は人間のなりをしてるぜ」
そう述べると、フサームは遺体に近寄る。
自分のしっぽを触って来た道具屋の娘のものだ。
無念そうに見開いた目をフサームはそっと閉じさせた。
「人間にも魔物を怖がらないヤツがいると思ったのによ」
フサームの言葉が引っ掛かった。
村人全員が魔物……?
そういえばイオがそのようなことを言っていた。
「あいつが村人を魔物へと変えたんだろう。魔物へと変貌した村人が襲ってくれば当然返り討ちにする。そして、村人が死ねば人の姿に戻るように細工したんだろうね。何も知らない第三者が見れば、呪いの装備で狂った戦士が村人達を虐殺したかのようにしか見えなくさせるために」
「よく理解出来ないのですが……」
俺もフサームも理解出来ずにいる。
ただ……例外は二人。
ラナンとハンバルは、何か知っているかのような表情をしていた。
「何か知っているのか」
「いえ……」
俺はラナンに尋ねるも答えようとはしない。
口では否定しても、仕草、声のトーン……。
きっと何か知っているはずだ。
「何を隠しているんだお前達は……」
ラナン達の思わせぶりな態度。
あることを俺に隠しているかのような態度に疑念を持つ。
――ゴオオオォォォ……
俺が深く問い詰めようとした時だ。
タイミングよく空から轟音が聞こえた。
「な、何だ……?!」
「こちらが行かずとも来てしまったか」
イオが空を見上げる方向を見ると、巨大な人型が空を舞っていた。
その大きさは巨人と同じ。
体は銅製なのだろうか、赤みのある暗い黄茶色をしている。
サイクロプスのような赤い一つ目で俺達を見つめている。
「あ、あががっ……ハンバル! 何だよあの魔物は?!」
腰を抜かしているフサーム。
初めて見る銅色の巨人に驚いていた。
「あれは魔物ではない。魔那人形だ」
マナゴーレム?!
あれがイオの言っていた戦闘兵器なのか。
「イオ、お主のミョルニルサンダーじゃろ。凄まじい音と光で、引き籠もっていた洞窟から飛び出てきたぞい」
声が聞こえた。
老人の声だ。
「久しぶりだね。完成したのは本当だったようだね」
「これでもまだ試作型じゃがな」
魔那人形は地に降り立った。
砂埃が舞い上がり、俺達の全身に風が当たる。
――パカッ……
魔那人形の胸が開くと老人が現れた。
小柄な老人だ。
白い髭を蓄え、茶色のウィザードローブを着ている。
「それよりコレはどういうことじゃ」
「クロノ、ここの人達も一緒さ」
「フム……弄られたか」
クロノ……。
そうかこの老人がイオのパーティメンバーだった賢者クロノか。
***
クロノと出会ったのも束の間。
村人達の遺体一人一人に黙とうを捧げる。
俺が殺してしまった村人達へと……。
「あやつがお前が言っていた戦士か」
「うん……彼も『バグ』を起こした人物だ」
「原因は?」
「イグナスって勇者が戯れに、仲間に呪われた装備品をつけたり外したりを繰り返したものだから『バグ』を起こしたんだと思う」
「なるほどの」
後ろでイオとクロノが会話していた。
『バグ』という聞き慣れない言葉が聞こえて来る。
村人達の突然の変貌、イオ達の会話。
俺は混乱していた。理解が現実に追いつかないでいたのだ。
「ガルア……」
ラナンが俺に優しく語りかけてきた。
魔族の女である彼女……。
不思議とその声を聞いて心が落ち着いた。
何故だろう。
これまで敵として戦ってきた魔族、魔物。
今ではラナン達といる方が何故か気持ちが安らぐ。
それはもう二度と帰らないことを悟ってしまっているからだろうか。
「村人達の墓を作ってやらんといかんな」
ハンバルが村人達の遺体を見て言った。
トロルの彼が死んだ人間達の墓を作ることを提案するとは思わなかった。
「ハ、ハンバル……」
「話から察するに、お前は自分の身を護っただけだ。やらねばお前が殺されていた」
確かに仕方がなかったのかもしれない。
村人達は誰かに操られ、魔物に変えられてしまっていた。
倒す前にもっと何か別の方法があったのではないか。
そう思うと自分への怒りと後悔。
そして、その何者かに対して憎悪しか出ない。
――ダイセイシ。
村の長老が言っていた言葉だ。
長老だけではない、ベルタもジルもその言葉を述べていたのだ。
ダイセイシとは一体何者なのだ。
「ん……お、おい! ちょっと待てよ!?」
フサームが驚いた様子を見せる。
それは俺とて同様だ。
何故なら……。
「む、村人達の身体が?!」
異変が起こった。
村人達の遺体が粒子状に分裂し始めたのだ。
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