アビス城。ここは魔竜王ルビナスが住むラストダンジョンである。
ソルは騎士型魔那人形『リッタール』に乗り単騎突入。
いよいよ、ルビナスとのラストバトルが始まった。
「来たかソル、魔族に逆らう愚か者よ」
目にするのは巨大な龍型魔那人形であった。
ルビナスの姿は誰も見たことがない。
この龍型魔那人形から降りた姿を魔物も含め誰一人として見ていない。
「魔竜王たる所以を見せてやろう!」
いよいよ、ラストバトルが始まった。
互いの機体に武装される刃と刃、魔導兵器と魔導兵器による死闘。
そして、遂に勇者ソルは魔竜王ルビナスを倒すことが出来た。
「私が……や、破れるとは……」
壊れた龍型魔那人形から女が這い出た。
ルビーレッドの髪を持つ女の魔族であった。
勇者ソルは混乱していた。ルビナスは女だったからだ。
この物語は勇者ソルが、ルビナスを倒すことでエンディングを迎える。
筋書きでは、ルビナスが女であると驚きつつも打ち倒してしまうというもの。
だが、勇者ソルはとどめを刺さなかった。
「どうした……何故とどめを刺さない……」
これまで言葉を発しなかったソル。ここで初めて自我を持ち台詞を話した。
「僕は君を殺せない」
ソルはルビナスを助けてしまった。
起こるはずがないシナリオ改変が起きてしまったのだ。
***
「勇者が乱心を起こしたらしい」
「どういうことだ?」
「魔物と一緒になって戦っているとよ」
勇者ソルはルビナスの部下になった――という噂が流れている。
あの後、勇者ソルは人間から土地を奪われた魔物のために戦うようになった。
体に装備するのは魔族が作りし呪われた装備品。
手にするのは、ルビナスに与えられし魔剣『アレイク』である。
「お前に『アレイク』を授けよう。己と敵、仲間の命と魂を捧げることで最強の魔装となる」
「命と魂?」
「アレイクは進化する兵器――特に仲間の魂を吸収すれば発動は早まる」
――デロデロデーン!
ソルは手に取った時に頭に何か嫌な音が鳴った。
呪われた武器である証拠であるがソルは構わなかった。
人間に愛想が尽きかけた彼にとって、その異音は何故か心地よかった。
「ソル、お前には期待している」
ルビナスはそっとソルの手を握った。そこに魔軍を従える魔族の姿はなかった。
***
アレイクを手にしてからのソルは無双を繰り広げる。
屈強な騎士も、巨大な魔那人形も一撃で葬り去った。
だが、体と心には負荷がかかる。呪われた装備品の副作用によるものだ。
それでも構わない。ソルは魔物達のために、そして彼女の喜ぶ姿が見たかった。
ソルはいつの間にか、ルビナスを一人の女性と見るようになったのだ。
そして、魔軍はいよいよサファウダ国の領内へと侵攻。
大規模な戦争になると思われたが、魔物達は強大な力を持つ一人の人間に倒されていく。
それは遂にルビナスにも及ぶ。
「魔竜王ルビナスが女だったとは」
「き、貴様は……」
「私はサファウダ国の勇者!」
勇者ソルが乗っていた騎士型魔那人形『リッタール』の後継機『リッタールⅡ』。
そこに搭乗しているのは勇者を名乗る男。男に敗れたソルは動けないでいる。
如何に強力な武器を持とうとも、強大な力を持つ魔那人形の前では無力であった。
「可哀そうだが死んでもらうぞ!」
「や、やめろ」
「闇落ち勇者はそこで見ておけ。この光の戦士が世界に平和をもたらせる瞬間をな」
いよいよ剣を突き入れようと構えるリッタールⅡ。
愛する者が目の前で殺される――ソルが絶望に打ちひしがれた時だった。
「哀れなものですね勇者ソル」
声がした。
顔を上げると、そこには女王サファウダがいた。
冒険へ旅立つ時に会って以来だ。肩には彼女が飼っている小竜が乗っている。
「裏切り者め」
「サファウダ様……」
「あなたがクリアしていれば私は幸せになる予定だった。それがこんな――」
「幸せになる予定?」
「正常ルートをたどれば、私とあなたは結ばれるはずだったのよ」
ソルは混乱した。
幸せになるだの、正常ルートだの、何を言っているのだろうと。
「エンディングよ」
サファウダの肩に乗る小竜が口を開けた。
口からは青い粒子が見えた、何かの息吹を放出させようとしている。
ルビナスは最後の力を振り絞り、半壊になる龍型魔那人形を起動させる。
「ソ、ソル……!」
「まだ動けるか! 魔竜王ルビナス!」
――ドッ……
全てが消えた。
敵も味方も――理解るのは大陸は消え海の上に立っていること。
ソルは赤い『煉獄の魔装』にその身を変え、ルビナスの亡骸を抱えていた。
Fin……。
『クリアおめでとうソル』
「誰だ!?」
画面が切り替わった。
白い空間の部屋で何者かに声を掛けられたのだ。
『自我を持ったキャラが作り出したシナリオは実に楽しかった。まさか物語がここまで改変されてしまうなんてね』
「お前は何者だ」
『私の名はゲームツクール。君に頼みたいことがある――』
***
俺とソルは空中で対峙している。
少し冷静になった――それはヤツを追い詰めたという心のゆとりだ。
「僕は負けるわけにはいかない」
正体を現したソル、道化た雰囲気は完全に消えていた。
「僕は新しい物語を作り続ける!」
ソルは印を組むと叫んだ。
「ターンは経ち充電は完了した!」
――エレクトロニクス・プロミネンス砲!
エーターナールの口から再び破壊光線が放出された。
狙いは回転を続けるクロウザースの鉄球だ。
「ククク! その回転のエネルギーを逆に利用させてもらうよ!」
「な、何を……」
――ビギュラ”ラ”ラ”ラ”ラ”ラ”ラ”ラ”ン!
破壊光線は回転により弾き飛ばされる。
ランダムに飛んでいく破壊の光は四方八方に飛び地上を破壊していった。
それは戦場となったゴルベガスも同じだ。
廃墟と化した街が次に向かう先は死の大地、これではイオ達は――
「イ、イオ達が!」
「ご協力ありがとう。後は僕が掃除しておくよ」
「貴様!」
「目の前の敵に気を囚われすぎだ」
――ゴッ!
後ろから衝撃が走った。
エーターナールに背後から近づかれ鉄球をぶつけられた。
大地に叩きつけられた俺は近くから声が聞こえた。
「ガ、ガルア……」
クロノの声だった。
先程の無差別の破壊光線による爆風でダメージを負ったらしい。
彼が倒れたことにシンクロして、クロウザースも動かなくなっている。
つまり鉄球の回転も止まっていることを意味する。
「魔導遠隔操作式の弱点は操縦者が丸裸ってところかな」
――エターナル・グミンズ!
ソルは光子弾を連続で打ち出し、クロウザースを破壊した。
「さあ、エンディングだ」
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