「罪なき村人達を……己の生まれ故郷を滅ぼすとは、悪鬼に魂を完全に売り渡したようだな」
俺の目の前にいる男は二振りの剣を持っていた。
右手にはレッドゴールドに輝く直刀。
左手にはブラックゴールドに輝く曲刀。
相反する武器を持つ男は赤いマントを羽織り、黒い髪は天を衝いている。
「お前は……」
「拙者は勇者トウリ・エンメイ」
トウリと名乗った男は村人の遺体を見ていた。
「罪なき村人にまで手をかけたか」
「ま、待て……」
――サンダークラッカー!
雷属性の魔法『サンダークラッカー』だ。
電撃の球体が俺を襲い全身に痛みとしびれが同時に襲う。
「ジル! この男は拙者が斬るのだ!!」
目の前の男の後ろにはジル……。
仲間だった魔法使いがいた。
「トウリ、あなたのレベルではまだ一人では無理だ。ここはパーティで協力して倒さなければならない」
「無理だと……」
トウリは二刀の剣が怪しく光る。
魔法か何かを込めているようだ。
「雷と炎で悪を滅さん!!」
直刀は青白く輝き……。
――雷鳴の一閃!!
曲刀からは赤い炎が包み込んでいる。
――紅鶸色の斬撃!!
魔法剣での二刀流?!
初めて見る攻撃方法だ。
「ハァ――ッ!!」
「ぐッ?!」
俺に雷炎の一撃が襲った。
兜は裁断、盾は裂かれ、鎧は砕け散った。
これほどの攻撃……今まで受けたことなど……。
「見たかジル! 拙者の力を!!」
「これは想定外……まさか短期間でここまで強くなっているとは」
俺はトウリの攻撃を受け倒れた。
だが、辛うじて意識はあった。
アレイクを杖代わりに俺は体勢を整えようとするが……。
「うぐっ……」
やはりダメージが大きい。
そのまま立てず膝をついてしまった。
「こやつまだ生きておるか」
「トウリ、トドメを刺すのです。勇者ならば悪落ちした戦士を倒さねば先へ進めない」
「言われなくても」
トウリは再び剣を構えた。
剣を大バサミのように交差させている。
俺の首を裁断するつもりなのだろう。
「待って!」
誰かが後ろから走って来た。
あの顔は見覚えがあるミアだ。
「コイツはイグナスの仇! 私が倒します!!」
手にはナイフが握られていた。
スコルピオナイフ……魔法使いや僧侶でも扱えることが出来る武器だ。
刃の先端には、昆虫系の魔物であるガギサソリの猛毒が塗られている。
まともに一突きされれば終わりだろう。
「ミア、お主に手を汚させるワケにはいかぬ」
トウリは震えるミアを制した。
俺はイグナスの仇といえど、手を汚させることは出来ないのであろう。
だが、ミアの決心は固いようだった。
「ダメ! 絶対コイツは……ガルアは私が!!」
そうは言ってもミアの手は震えている。
今までの冒険では魔物ばかりで人を相手にすることはなかった彼女だ。
ましてや人を殺めることなど……。
「ガルア、何でイグナスを……! 彼はあなたに酷いことをしたのかもしれない……でも……でも……」
「言い訳はしない……刺すなら刺せばいい」
俺は覚悟した。
ミアがイグナスを好いていたのは知っていた。
殺されても仕方がないのは事実だ。
「潔いことだ」
傍にいるジルは無表情。
感情の変化がなかった。
「刺せ、イグナスの仇を討つのだ」
「待たれよ! ミアにそのようなことを――」
「トウリは黙っていろ!!」
――驚いた。
ジルがここまで感情的になるのを初めて見た。
「殺れ! 愛するイグナスを殺した男だ!!」
「早くしろ……それで気が済むのなら」
俺は静かにミアを見据えた。
彼女は俺を刺そうと近付くも震えていた。
「……」
「何をしている! お前はこの物語のヒロインなんだぞ、イグナスの仇を取れ」
「わ、私……やっぱり……」
「上手い具合にイベントが進んでいるというのに……どけっ!!」
「きゃっ!」
ジルはミアを突き飛ばした。
鬼の形相だ。
何故か焦っている様子だ。
「キサマのような不必要なデータは早めに削除せねばならん。バグったキャラが勝手なことをし過ぎては大聖師様がお怒りになり、この世界も……私も何れ消されかねん!!」
ダイセイシ……ジルがどうしてその名を口にするのだ。
それにバグだの、世界が消されるだの、どういう意味なのだ。
俺が疑問に思っている間、ジルは杖をかざし何やら魔法を唱え始めた。
――紅蓮の力よ……地獄の炎を召喚し……灼熱で滅さん!!
「クリムゾン――ッ!!」
――ミョルニルサンダー!!
ジルが魔法を繰り出した瞬間、雷光が俺達を照らした。
ミョルニルサンダー……。
この呪文を唱えられるのは、知っている者で一人しかいない。
「ぐう――ッ?!」
青白い雷光の狙いはジルであるが間一髪で避ける。
「バグった展開にしてあげるよ。上手いことイベントは起こさせない」
ミョルニルサンダーを繰り出したのはイオだ。
その周りにはラナンやフサーム、ハンバルがいた。
「お、お前は何者だ」
「魔王ドラゼウフさ」
「なっ……貴様が……バカな人間の女が魔王だと?!」
イオが自らを魔王ドラゼウフであることを名乗るとトウリもミアも驚いた顔だ。
本物のドラゼウフは既に倒されたことを知らない二人。
ましてや、ドラゼウフと名乗るのが人間の女なのだ。
「それよりキミは誰なんだい? えらく世界観が違う雰囲気だけど……」
「拙者は勇者トウリ・エンメイ!」
「ふーん……キミが今度選ばれた勇者なんだ」
イオとトウリが会話している間、ラナン達が俺に駆け寄った。
「派手にやられたな」
「早く手当しなきゃ……ハンバルお願い」
「うむ」
ハンバルは回復魔法リカバルを唱えてくれた。
傷は僅かに塞いでくれたが体は動けないでいる。
肉体的というよりも精神的なものが大きい。
「大丈夫?」
「……」
ラナンが心配そうに語りかけるも俺は答えられずにいた。
目の間に村人達の遺体があるからだ。
一方、イオは構えるトウリ達の前に一人向かっていった。
「よく来た勇者よ。ボクが王の中の王、魔王ドラゼウフだ。ボクは待っていた。キミのような若者が現れる事を……」
「と、突然何を言う……」
「もし、ボクの味方になれば世界の半分を勇者にやろうと思うんだが……」
「戯れを申すな!!」
トウリと名乗る勇者は飛びかかっていった。
冒険の序盤に魔王が現れたのだ。
ここでイオを倒せば世界に平和というものが訪れるのだろう。
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