ラナンの瞬間移動呪文エアルートで、俺達はイオの屋敷に降り立った。
幸い周囲は何事もなかったが、屋敷周囲の魔物達が慌ただしくしていた。
ゴルベガスから見えた赤い炎の数々――これが何を意味するかは分かる。
屋敷を警護するフサームがオークと何やら話していた。
「フサーム大変だ! 敵襲だよ敵襲!」
「て、敵襲だァ!?」
「いきなり街を襲撃してきたってよ!」
「マジかよ! ん……!?」
俺はフサームと目が合った。
「お前、サディドリームに行ったんじゃなかったのか」
「それがな……」
「なるほどね、察したぜ」
俺の傍にはミラとトウリがいた。
二人を見ながらフサームは曲刀を抜いた。
「そいつらの助命を願いに来たんだろうが――」
「今はそれどころじゃないだろ? ゴルベガスが襲撃されている」
「知ってたのかよ」
「街のあちこちで火の手が上がるところを見たからな」
「それなら話が早い。お前もさっさと戦闘準備をしろ、腰に差しているものは飾りじゃねェはずだ」
フサームはそう述べると、他の魔物達を従えて市街地へと向かった。
屋敷の外に残されたのは俺達だけ、ラナンは無表情のまま視線を俺からずっと逸らしている。
ミラとトウリも同様だ。
重い空気感が流れる中、
――ギィ……
と屋敷の扉が開いた。
「思ったより早く来てしまったか」
イオが現れた。
黒い革の鎧に赤いマントを羽織っている、最初出会った時と同じ姿だ。
そして、腰に帯びるのは刃が黄金に輝く光の剣。
魔王を名乗りながらも、その姿は紛れもなく街を守らんとする勇者だ。
世界から落ち延びて来たキャラ達を引き従えている、各々が武器を手にしていた。
「ジェイド頼んだよ」
「任せておけ! 久々の戦闘で血がうずく!」
――オオオオオオオオ!
けたたましい雄叫びを上げ、ジェイド率いる一団は市街地へと向かう。
イオはその姿を見送ってから、傍にいるクロノやハンバル、そしてサッドに何やら話しかけている。
「クロノ、魔那人形を出せるかい?」
「80%の完成度じゃが動かせるぞ」
「80%なら上出来だ」
イオは戦闘準備に入るためか、光の剣を抜いた。
「ハンバル、サッド、君達はボクの戦闘を支援してくれ」
「元々はあなたを護衛するのが私の役割、回復はお任せ下さい」
「ラストバトルは唐突にと言ったところですかな」
サッドの皮肉にイオは笑って答えた。
「フフッ……一応ここがラストダンジョンだからね」
話を終えたところで、イオはようやく俺達がいることに気がついた。
「ガルア、君は確かサディドリームに行ったはずじゃ……」
「その前に聞きたいことがある」
俺はアレイクを抜くと切っ先をサッドに向けた。
「お前も監視者なのか?」
「監視者? お前こそ何を言っているのだ」
「マージルが大聖師の情報員だったぞ」
「なんだと……」
サッドは眉をしかめている。
マージルが監視者という名の情報員なら何か関係がある。
俺はそう思ったからだ。
だが、サッドは首を振り、
「あいつが……まさか! マージルは優秀な部下だ」
何も知らないといった具合だ。
一方のイオは俺の言葉に懐疑的で訝しんだ表情をしている。
「彼は黒魔道士の塔というダンジョンで仲間にした魔物だ。懸命にボクやサッドのために働いてくれている」
「偶々その黒魔道士の塔とやらにいたのか?」
「どういう意味だい」
「あんたを監視するために作られ、配置された可能性は?」
その言葉を聞いてイオははっとした顔になった。
魔物を仲間に引き入れる能力を手にして軍勢を大きくしたが、その中に大聖師がイオ達を監視するために作り出した魔物がいるとは疑いもしなかったのだろう。
彼女の心の底には勇者としての魂が流れている。仲間を疑うなど微塵も思わなかっただろう。
「そんな……」
「能力の隙を突かれたな」
ずっと黙っていたクロノが口を開き、ハンバルやサッド、そしてラナンを見た。
「ま、待て……そうなると誰が敵か味方かわからんようになるぞ」
ゴクリと唾を飲み込んだクロノ、即座に状況を理解したようだ。
「ここにいる魔物は、ほぼイオの能力で仲間にしたヤツらじゃ……!!」
クロノの一言で、俺達はヤツの掌で遊ばれていたことに気付いた。
大聖師は俺達の存在をどこかで楽しんでいたのだ。
☆★☆
市街地でフサームとジェイドは部隊を率いて魔物の軍勢と戦っていた。
見たこともない未確認の魔物達、その一匹一匹が強く手強い。
「なんつゥ強さだ!」
「想定外だな」
それもそのはず。
大聖師が作り出した魔物は本来であれば『隠しダンジョン』で登場させる予定の魔物。
そして、調整ミスにより没となった屈強な魔物や、過去の物語に登場した魔物達だ。
「こ、このエテ公!」
「武闘家みたいな技を使いやがって」
「ウッキィ! 当たり前だのクラッカー! オラは大聖師様の作品『拳花幻想奇伝』に登場したからネ!!」
手練れの冒険者の前に、黄金の毛並みに輝く魔物がいた。
黄金猿……大聖師が削除した作品『拳花幻想奇伝』に登場する魔物である。
中華ファンタジーをコンセプトに製作。この猿の魔物は人間のような拳法を使うのが特徴である。
――梅花古狼火!
「うぎゃあ!」
「ぐわァ!?」
得意とするのは『呪術功夫』という魔法拳。
この特技はガルアの世界観でいう魔闘技である。
「歯ごたえのない敵ネ!」
冒険者達は黄金猿の火炎の斬撃により寸断された。
切断部からは火が出現し、その亡骸はたちまち黒い塊となる。
梅花古狼火を見たフサームは親友の事を思い出す。
「ドビーダス……」
「キキキ! ゴルベガスまるごと超決戦! この戦いで勲功を上げ、オラは次の物語で――」
「その技を使うな!」
梅花古狼火。
親友ドビーダスの技、即ち大聖師が教えた技である。
力に溺れ狂ったドビーダス――そのことを思うと怒りが湧く。
ヤツが技を教えなければ、ドビーダスは道を踏み外すこともなかったのではないかと。
――カムイ!
フサームはイダテにより強化した脚力で、電光石火の斬撃を放つ。
コボルトの伝統技『カムイ』狙うは急所である首筋である。
「生意気な犬っころネ! 今度は朱雀炎舞陣でまとめて――」
「遅い!」
――ブッ!
一瞬のことであった。
黄金猿の首筋からは花のように血が噴き出し、
「キギィ!? そ、即死技――」
己が倒されたことを納得いかないまま事切れた。
戦闘を終え息を乱すフサームにジェイドは駆け寄る。
「一旦下がるぞ、押され始めている」
「ああ……」
闘いは過酷さを極めていた。
強力な魔物の軍勢に生き残ったデータ――もとい魔物や人間は苦戦。
人々は逃げ惑い、町は阿鼻叫喚の巷と化していた。
「SLGだ!」
その風景を見て笑うのは大聖師。
街の様子を空中に浮かびながら観察していた。
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