「もうすぐ終わる――とはいえガルア、君は倒そうと思っても倒せない存在」
「倒せない?」
「そうさ。君の生命力はバグっているからね」
「バグ?」
言葉の意味を理解出来ないでいるとクロノが説明してくれた。
「お主の生命力が神がかっているからじゃ」
「クロノ!」
「どんなに鍛え上げようとも最大値は『999』……しかし、お主はその上限を超えた数値を持っておる」
「それはどういう……」
ソルが嘲笑しながら答えた。
「フフッ……出来損ないの勇者が、お前に呪われた装備品をつけたり外したりするからデータが突然変異を起こしたんだよ」
「まさか……」
「君自身も不思議に思わなかったかい? 戦闘を繰り返しダメージを受けても無事な自分の体が」
確かに言われてみればそうだった。
戦いを繰り返すほど自分の体力が向上していた実感がある。
クロノが続ける。
「イオはイグナスを調査するうちにお前の存在を知った。『サファウダ戦記』に書されていたアレイクの特性――あの魔剣を覚醒させ、大聖師に対抗できるのは無限大の生命力を持つお主以外に――」
「うるさい!」
――エターナルレイザー!
閃光の矢がクロノを貫いた。ラナンと同じように――
「サファウダ戦記なんて僕は作っていない」
「クロノ! 大丈夫かクロノ!」
「どいつもこいつも出来損ないのバグキャラめ! あの名も無き魔族もそうだ! 僕の命令に背き、勝手な行動ばかり繰り返しやがって!」
ラナン――気付くと俺の体は勝手に動いていた。
「ソルウウウウウウウウゥゥゥッ!」
「その名で呼ぶな! 僕は大聖師だ!!」
ソルはエーターナールへ向かうと、
「僕が生体ユニットとなり動かす! 無限大の生命力を持つ君に対抗するには『即死効果』を持つ攻撃方法を繰り出すしかない!!」
その大きな胸部へと体を同化させていく。
「リセマラードを発動する!」
――スオ"オ"オ"オ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"!
エーターナールの全身が白く輝く。
「全て消えてしまえ!」
その声は俺がイオにインストールされた何者かの声。
そうか――あれは勇者ソルの声だったのか。
***
気付くと俺は死の大地に立っていた。
目の前には無惨にも粉々になったエーターナールがあった。
どうやら俺はソルを倒したらしい。
「リセマラードまで効かないなんて――」
目の前には血だらけになったソルがいた。
「お前は……どうなっているんだ……?」
ソルはそのまま光を失った。
何もない大地、この戦いで全てが消えてしまった。
――彼を許して下さい!
女の声が聞こえた。赦しと哀願の声だ。
そうか、このアレイクに彼女の意志が宿っているならば。
Fin……。
***
「これは!」
画面が切り替わった。俺は白い空間にいた。
周りを見ると何もない、それに『煉獄の魔装』も解かれている。
『クリアおめでとうガルア』
「誰だ!」
『私の名前はエピックビルダー』
そこにいたのは大聖師、つまりソルと同じ格好をした男がいた。
ただし被っている頭巾は黄色く、緑のマントを羽織っている。
「エピックビルダーだと?」
『2流のクリエイターであるソルをよくぞ倒した。ゲームクリアおめでとう!』
「何を言っているんだお前は――」
突拍子もない男の言葉に俺は戸惑うばかり。
エピックビルダーと名乗る男は笑いながら答えた。
『ハッハッハッ! 混乱するのも無理はないね。平たく説明すると私は世界を作る創造主だよ』
「創造主だと?」
『そう創造主だ。全ての世界も生き物もアイテムも私が作り出した』
「創造主とやらはソルではないのか」
『彼は私の力と知識を分け与えられただけだよ』
――フッ……
エピックビルダーは突然ゴブリンの姿になった。
『私は物語作りが好きだ。キャラ、魔物、装備品、魔法、想像を巡らせることは楽しい』
――フッ……
次に変身したのはエルフの女の姿だ。
『マップやダンジョンを作るのは骨が折れるが、出来た時の喜びといったらない』
――フッ……
続いてドワーフの姿になった。
『物語が出来上がった時の爽快感は最高だ。だけど私は物語作りに飽きてしまった――』
――フッ……
最後に変身した姿はありふれた英雄の姿だ。
『そんなときに出会ったのがバグだ』
――フッ……
エピックビルダーは元の姿に戻った。
『その最初がソル、彼は私の用意したルートを悉く無視してシナリオを進めた。自分で考え進むキャラの行動は、他のキャラにまで影響しシナリオを変えていく。タイトルを変更せざる得ないほどの感動的な現象』
つかつかとエピックビルダーは近付いて来る。
『そこで君に頼みたいことがある。私の力と知識を与えるから物語を作ってみないか?』
「なんだと……」
『彼はバグり過ぎて精神がどこか壊れていた。物語作りを任せたのはいいが打ち切りのような終わり方だったり、投げ出したりと私を一向に満足させてくれない。それにデータの消し忘れがあったりとミスが多すぎる』
ソルはこのエピックビルダーに頼まれ数多の世界を創造してきたのか?
でも物語は全て中途半端なもの、このエピックビルダーを喜ばせる物語を作ることが出来なかったようだ。
『彼は私がイライラしていることに気付いたようで、今度の物語はなるべく長引かせて頑張った。でも結局はイオのようなバグだらけとなり制御が不能となった』
エピックビルダーはパチンと指を鳴らした。
『でもこれ幸いだ! 彼の失敗に私は便乗することにしたのだよ!』
「便乗?」
『次のバグキャラに面白いゲームを作ってもらう』
――スッ……
俺は背後に気配を感じた。
振り返るとそこにはサファウダの姿があった。
イオにインストールされたビジョンだけの存在、実際にこうして会うのは初めてだ。
『暴走したソルが殺さずに生かしてしまった彼女に協力してもらった!』
「フフッ……生かしてしまったのではありません。彼の持つ良心が私を殺さずにいてくれたのです」
『そうだった! そうだった! 君が本来であればヒロインだったからね!』
やはりか、道理でおかしいはずだ。
サファウダは俺を見て妖しく微笑んだ。
「イオにインストールしたデータは偽物よ」
「知っている」
「知っているですって?」
「サピロスの記憶が俺に教えてくれた」
俺は気付いていた。
イオとラナンから送られた情報には相違があったからだ。
「サ、サピロス……あの子が教えたの!?」
「正確にはラナンが送ってくれた情報。ソルが愛していたのは――」
「それ以上喋るな!」
サファウダは歯軋りしていた。
「あの子ったら……折角、エピックビルダー様に『サファウダ戦記の番人』という役割を与えられたというのに……バカな子ッ!」
「サファウダ、可愛い顔で興奮してはいけない」
「で、ですけど……」
「ククッ! 想定外もゲームの一つさ」
ゲームツクールはやれやれといった表情だ。
そして、俺を見据えて言った。
「本題に戻ろう、ガルア。アイデアや物語の作り方のコツも教える、私と共に面白い物語を作ってみないか?」
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