Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep13.魔剣アレイク

公開日時: 2023年2月25日(土) 08:30
更新日時: 2023年3月1日(水) 17:51
文字数:2,441

 ゲレドッツォとの魔王城奪還戦から数日がたった。

 俺の呪いの装備は外されている。

 ハンバルの聖属性の魔法『ケンバヤ』によって外されたのだ。

 本当に何者なのだ、あのトロルは……。


「そんな悠長なことを考えている場合じゃないか」


 そう俺は曲がりなりにも人間であるので、一種の軟禁状態だ。

 魔王城の一室でブツブツと俺は文句を言っていた。


「魔王も人間だろうに、全く意味が分からない」


 新生魔王軍の総帥は、2代目ドラゼウフを名乗る女勇者となった。

 勇者であった人間が何故魔王などに、それにサッドやラナンは何の疑問も持たないのだろうか。


「所詮、見た目を着飾っても野生と変わらぬか」


 魔族、魔物に法も秩序も倫理もない。

 力関係が全てだ。究極の上下関係とも言える。

 大方、女勇者いやドラゼウフの力に屈服し指示に従っているのだろう。


「どうするのだ……いやどうなるのだ」


 一方俺はというと、戻る場所もなく、かといって死ぬことは出来ない。

 どういう理由、経緯であれ魔族達に手を貸してしまったのだ。


 ――ジレンマ。


 今の状況は、その一言が相応しい。

 俺はまだクヨクヨと思い悩んでいた。

 悪党ならば、どれだけ楽であったろうか。

 このまま魔族や魔物と一緒になれば……。


「いやよそう」


 俺は一言そう述べた。


――コンコン……


 ドアをノックする音が聞こえた。

 ドクロを模したドアノブが動くと女魔族が入って来た。

 ラナンだ。


「出なさい。魔王様がお呼びよ」


 魔王が?

 一体どういう用件だろうか。

 俺はドアを出るとラナンが言った。


「それにしても鎧兜を脱ぐといい男ね。人間にするにはもったいないわ」


 ラナンの軽口に少し苛立つ。

 そういえば魔王城でも、いきなりキスを迫るなど突拍子もない行動で出た。

 魔物の中にも、サキュバスやセイレーンのように人間をたぶらかすものもいる。

 ラナンはそういった系統の魔族なのであろう。


誘惑魔法テンプテーションの類か。あまり俺をおちょくるな」


 その言葉を聞いたラナンはムッとした顔になる。


「アンタ自分の立場解ってる?」

「そのつもりだ。さっさと案内しろ」

「エラソーに……さっさとついてきな」


 ラナンの先程までの猫なで声が変わりキツイ口調となる。

 俺と最初出会ったときと同じ話し方だ。

 逆にそっちの方が不自然でなく、何故か心地よい感じがした。


「何笑ってるのよ」


 俺の口元が笑っていたのか、ラナンは俺に語りかけた。


「いや……何でも」

「呪われた装備をし続けて、魔の瘴気に脳がやられたんじゃないのかい」

「お前の誘惑魔法テンプテーションの影響だ」

「私は他の妖魔と違って、そんな下品なことはしないわ」


 ラナンの毒舌が飛ぶ中、俺は暗い廊下を黙って歩いて行く。


         ***


「よく来たね」


 黄金の玉座に座るのは魔王だ。

 ラナンは跪いているが、俺は未だに立ったままだ。


「跪かないのかい? 頭を下げないのかい?」

「堕ちた勇者に誰が――」

「ちょっと! あなたね!」


 怒るラナンを見て、魔王は笑みをこぼした。


「いいよラナンちゃん。ボクはこういうハネッ返りは大好きさ」


 魔王の手には血のように赤い刀身を持つ剣が握られていた。

 何だあの剣は?


「ここに呼んだのは他でもない。ゲレドッツォをよくぞ倒してくれた」

「それだけか」

「褒美を上げるんだよ」

「褒美だと?」

「この『アレイク』さ」

「アレイク……」

「キミはこの剣を扱うに相応しい『バグ』がある」


 魔王は微笑んでいた。そこにはもう女勇者の風格はない。

 闇に堕ちたのか、それとも何か目的があるのか、漆黒の決意を目に宿しているように見えた。

 それにしても『バグ』とは一体何なんだ。


「バグ?」

「それを知るには早い」


 魔王はそう述べると、アレイクと呼ばれる剣を俺に渡した。


「……」


 俺は恐る恐る手に取る。何故か自然と手が伸びたのだ。

 剣を柄を握ると――


「うっ……?!」


 アレイクを握った瞬間、俺の体は倦怠感を強く感じるのを覚えた。

 この武器は一体……。


「ボクが勇者だった時に入手した伝説の魔剣だ。斬るごとに使用者の生命力を削るが威力は絶大、呪われたキミに相応しい武器とも言えるだろう」


 まただ。

 また呪われた武器を俺は押し付けられた。

 勇者のイグナスと勇者だった魔王……状況は違うが二度も勇気ある者に武器をあてがわれたのだ。


「指令を出す。この大陸にあるゴルベガスへ向かえ」


 有無も言わさず、魔王は俺達に命令を出した。

 ゴルベガス。この大陸にある街の名前だ。

 魔王が出る前は、ゴールドラッシュやカジノで栄えた観光街だ。

 別名『ミリオンダラー・シティ』と呼ばれる眠らない街である。


「そこでどうしろと」


 何とかアレイクを腰に収めるが、魔剣の瘴気で疲労感を覚えたのか、俺は自然とラナンのように跪いた姿勢となっていた。

 魔王はやっと跪いたかという表情で満足気味だ。


「そこに人間や反抗的な魔物を集めて、反乱をもくろむ妖魔がいる。そいつを殺せ」

「魔王様」


 俺の隣で跪くラナンが言った。


「我々二人でその妖魔を殺せと?」

「そうだね、暗殺といってもいい。人間によく似たラナンちゃんと、人間のガルアさんなら街に潜入して、そいつを見つけ出し殺すことも容易いだろうと思ってね」


 俺とラナンだけでその妖魔を見つけ出し殺せと?

 幾ら何でも無茶が過ぎる。


「相手は妖魔なのに、何故人間の街に住み着いているんだ」

「人間のボクに聞かれてもね。サッドのような変わり者の魔物もいるしなんとも」


 そういえばサッドも何故か人間に擬態していた。

 魔物の中にも人間に興味を持つ者も確かにいる。


 イグナス達との冒険でも、途中ある街に寄った際、人間に化けたウェアウルフを倒したことがあった。

 そのウェアウルフは人間に化け、村の若者を夜な夜な惨殺し快楽を覚える魔物であった。

 ひょっとすると多くの魔族、魔物が人間の形をして生活を送っているのかもしれない。


「さァ行くんだ。ボクはあいつのシナリオを潰していかなければならない」

「シナリオ?」


 魔王の言うことが理解出来なかったが、俺は次のクエストに進むしかない。

 イベントが発生したからには、クリアしなければならない。

 例えバッドルートとしても、それが俺の出来る最大限のことなのだ。

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