まだ夏の暑さが残る季節。雲一つない青空に黒煙を噴き上げながら、山間部を機関車が力強く駆け抜ける。二等車席の窓際にたたずむ少女は、紅い花が彩られた黒い栞を静かに眺めていた。
「素敵な栞ね。」向かいの席に座るコーネインがベルに話しかける。
「人から贈り物を頂いたのは、これで二人目です。」
「じゃあ、私が三人目ね!」
コーネインは白いダリアのクッションをベルに手渡した。
「本当に買っていたのですね。」
ベルがクッションを受け取る。もちもちしていて、肌触りもよい。
「ありがとうございます。」ベルが頭を下げる。
「これからどんどん活躍して、お姉さんを楽にさせてね! 頼んだわよ!」
コーネインはベルと二人で仕事をこなしたことが嬉しかったのだろう。その後も彼女はしゃべり続けていた。他愛もない会話に、仕事の反省点を混ぜながら。
しばらくして、黄色い花に覆われた山々が遠目にも見えなくなると、車内は静寂に包まれた。どうやら、コーネインは眠ってしまったようだ。正しい姿勢のまま、長い耳が垂れ下がっている。
——カタン コトン
列車の揺れる音が聞こえる。ベルは列車の窓を静かに開けると、四角い窓から身を乗り出した。日は傾き始めており、夕日を浴びた山々が茜色に染まっている。夕焼けに溶けてなくなる黒煙を眺めながら、ベルは静かに呟いた。
「レオ。どうすれば貴方ともう一度、出会うことができるのでしょうか?」
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