俺はひたすら走って城の裏手までやってきた。
俺を探している兵士たちを避けていたらここまできてしまったのだ。
城の裏手は水堀の幅が狭くなっていて、見張りもほとんどいなかったが、崖のように急な作りになっていて、侵入が難しい。
俺は森の中にいる間にオークになり、ジャンプして城壁の上に飛び乗った。
オークの跳躍力があれば、これくらいは軽いもんだ。
人に見つかる前に元の姿に戻り、城内に入り込む。
といっても、裏手には建物はない。
広大な馬場があって、その先に厩舎や武器庫、礼拝堂なんかが点在している。
本城はその向こうだ。
礼拝堂か……魔族たちはいったいなにに祈りを捧げるんだろう。
そんなことを思いつつ、俺は城壁の内側に沿って本城へ向かう。
が、その途中、厩舎の脇まできたところで、
「ぶうぶう!」
「ぶー! ぶー!」
「ぶひっ! ぶひひっ!」
厩舎の中にいた豚たちが突然騒ぎ始めた。
「お、おい、なんだ。静かにしてくれ」
俺は止めるが、豚たちはますます声を大きくする。
まいったな、まさか俺のことを仲間だと思ってるんじゃないだろうな。
と思ったら、
「なんだ、騒がしいな」
「食われるのがわかるんじゃないか」
やばい、人がきた!
俺はとっさに豚化する。
やってきたのは料理人らしき二人の魔族だった。
二人は厩舎の外にいる俺を見て、
「なんだ、逃げ出してるのがいるぞ」
「こいつ、どっから出やがった」
「まあいい。こいつにしよう。出す手間が省けた」
そういって二人は俺を引っ立てていく。
痛っ! そんなに叩かなくても歩くっての!
俺は料理人たちに連れられて本城のほうへ向かう。
途中、見張りの兵士たちともすれ違うが、不審に思われることはなかった。
「にしても突然だよなぁ。明日宴会なんてよ。おかげで今から準備しなきゃいけねえじゃねえか」
料理人の一人がぼやくように言う。
「まあ、仕方ないだろ」
もう一人が俺の尻を叩きながら答える。
「ハピネ様も急に来られたんだ。本当だったらまだ猶予はあるってのにな。ラッシュ様としちゃ早いところカタをつけてしまいたいことじゃあるんだろうよ」
「わかんないねえ。どっかに逃げちまえばいいのに」
「逃げたら一生追われる身だ。俺ならそっちのほうが嫌だね」
「それで最後の贅沢をさせてあげようってわけか」
「というより、処刑の前に宴会を開くのも、昔からの伝統らしいな」
どうやら、俺はハピネの最後の食事のための食材にされかけているらしい。
マジかよ。どこかで隙をついて逃げ出さないと。
とか思ってる間に屠場についてしまった。
家畜を殺して、捌いて食肉にする場所だ。
料理人の一人が俺の前で餌を出してきた。
あ、これ知ってる。後ろでもう一人が包丁を準備するんだ。
一人が豚の気を引いてる間にもう一人が俺の息の根を止めるって手順。
ヤバいヤバい。
「ぶひひん!」
「ぐおっ!」
俺は突進して餌を出してきた料理人を突き飛ばす。
「おい、おとなしくしろ!」
背後で叫んでるもう一人の料理人にも体当たり。
「ぐあっ!」
二人ともすっ転んで気絶してしまった。
「ふー……」
危なかった。
ソテーかソーセージかはわからないけど、ハピネの胃に収まりたいわけじゃないんだ俺は。
とはいえ、おかげでだいぶ本城の近くまで来ることができた。
だが、城の中は兵士の数もグッと増えるだろう。
さてと、ここからどうするか。
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