「ここでしばらく反省しなさいっ」
屋敷に連れ戻された俺は、本棟から離れたところにある塔に放り込まれた。
重そうな扉が閉められ、外から錠が下ろされる音がした。
念のため押してみたが、開きそうにない。
くそ、あのちんちくりん小娘め。自分で人を豚にしておきながら、豚の習性が発動したら怒るなんて理不尽だろ。
しかし文句を言っても仕方ない。白骨死体にされなかっただけマシだと思うことにしよう。
俺は塔の中を探索する。
塔は三階建てで、一階は物置になっていた。
埃の積もった古びた家具が大量に放り込まれている。
その中にベッドがあったので、寝るのには困らなさそうだ。
二階は空き部屋。なにもなし。窓があったが、小さすぎて脱走はできなさそうだ。
三階も二階と同じような作りだったが、大きな違いがあった。
大量の本が置かれていた。
「これは……」
俺はいくつか本を手に取ってみる。
どれもすごい埃で、しばらく触っていない様子。
あの気まぐれお嬢様のことだ。きっと読書でもしようと思い立って大量に買い込んで、ろくに読まずにここに放り込んだんだろう。
どの本も魔族の文字で書かれていて中身はさっぱりだった。
「ん、これは読めるな」
その中に一冊、人間族が書いたらしい本があった。
そんなにすらすら読めるわけじゃないが、ちょっとだけ習ったことがあるので、わかる単語もある。
なんの気なしにパラパラとめくってみる。
魔族が使う魔法についての本のようだ。たぶん、魔族と戦う貴族たち向けに書かれたものだろう。
だとしたら、隷属魔法について書いてるところはないだろうか。
その発動条件や、解除方法なんかが見つかればありがたい。
そう思ってページをめくっていて、俺は手を止めた。
そのページには挿絵が載っていた。
人が豚に変身している途中の絵だ。
俺はそのページに書かれた文字を読む。
「変化する、石……モーフジェムか。豚に変える力……持つジェム……これ、豚化のことだよな」
俺は読める単語を拾っていく。
書かれているジェムの特徴は、間違いなくハピネが俺の胸に埋め込んだモーフジェムと一致していた。
もしかしたら、ハピネはこの本で豚化ジェムのことを知ったのかもしれない。
……なにか役に立つことが書いてあるかもしれない。
俺はその本を持って一階に戻った。
ベッドの下を掃除して、そこに本を隠しておくことにする。
いつまでここに閉じ込められるのかはわからないけど、読めるだけ読んでおこう。
そして数日後、俺はとんでもない事実を知った。
俺の身体に埋め込まれたモーフジェムの効果は、ただの【豚化】ではなかったのだ。
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