「ううう、疲れた……」
「まだ全然歩いてないぞ」
早くも泣き言を口にするハピネに俺は苦笑して言う。
「頑張ってください、お嬢様。もう少しで宿屋があるはずですから」
ヒルドも励ますように言う。
が、ハピネは力尽きたように道端の樹に背中を預けて座り込んでしまった。
まあ仕方ないか。
これまでろくに遠出もしない生活だったんだ。
歩き通しはさぞ辛かろう。
ラッシュの屋敷を逃走して三日。
俺、ハピネ、ヒルドの三人は人通りの多い街道を避け、山の中の道を歩き続けていた。
幸いラッシュからの追っ手はなかった。
命じていないのか、見当外れのところを探しているのかはわからないけど。
なんにしろ俺たちは、誰に追われることもなく旅を続けていた。
向かう先はとりあえず、ヒルドの故郷だという村だ。
そこに辿り着いた後どうするのかはまだわからない。
この世界に俺たちの居場所なんてどこにもないかもしれない。
けど、それでも。
どうしようもなく行き止まりしかなかったハピネの運命に比べれば、ずっとマシだ。
「疲れたよぉ! もう歩けない! ねえ、ちょっとでいいから背負って、ぶー太――」
と言う途中で、ハピネは慌てた様子で口を閉ざした。
それから、あっちに目を逸らし、こっちに目を逸らし、最後にちょっと照れたような顔で、すごく言いずらそうに、
「……ブルータス」
俺の本名を口にした。
……違和感がすごいな。
俺は苦笑して答える。
「ぶー太でいいよ」
それからオークに変身し、ハピネを抱え上げた。
「あんたは大丈夫か?」
「ええ。わたくしは歩けます」
ヒルドは小さく頷いた。
「よーし、じゃあ行くぞ。落ちるなよ!」
俺はハピネを肩に乗せると、オークの体力に任せて駆け出した。
「わきゃああああ!? ちょっとぶー太! 速い速いっ!」
「わははははは!」
ハピネの悲鳴と俺の笑い声が山にこだましてどこまでも響いていった。
いったん一区切りです!
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