「……ぶー太」
ダレ、ダ?
ヘンな、ナマエ、ヲ、ヨブ、やつハ?
ぶー太。
ソレハ、ダレ、ダ?
オレ、ハ、なんダ?
ワカラナイ。
わからない。
ワカラナイ。
ひたすらにハラがへる。
ひたすらにイカリがわく。
喰いたい。
殺したい。
壊したい。
目の前にあるものを、叩き壊した。
音を立てて飛んでいった。
少し満足。
けどすぐに物足りなくなる。
腹がハラがはらがヘッタ。
目の前になにかある。
持ち上げる。
食えそうだ。
うまそうだ。
口を開く。
「ぶー太」
だから、それは誰だ。
「助けて、くれるんだもんね」
たす、ける。
助ける……。
○
「動きが止まったぞ! 射て! 射てえ!」
ラッシュが弓を持ってきた兵士たちに向かって叫ぶ。
「し、しかしこれではハピネ様に当たってしまいます」
「構うな! このままだと、全員あの怪物に食われるぞ!」
「は、はい!」
兵士たちは弓に矢をつがえると、一斉に放った。
雨のように無数の矢が巨大な怪物に向かって降り注ぐ。
それは確実に、怪物の腕に掴まれたハピネをも、射殺す軌道だった。
しかし、
「グオア!」
怪物が腕を振るった。
それだけで、無数の矢はいともたやすく弾き飛ばされる。
そのほとんどがへし折れて、地面に落ちてしまった。
「ぶー太?」
怪物の腕の中のハピネは、声を上げる。
見れば、怪物の腕に一本だけ矢が刺さっていた。
先端のアンチジェムを含んだ鏃が、ざっくりと怪物の肌にめり込んでいた。
「グ、オ、オ……」
怪物の動きが止まる。
その目の中に、親しみのある輝きが現れたようにハピネには感じた。
「ぶー太! しっかりして!」
「たす、ける……」
怪物はなにかを呻いている。
「今だ! 放てはなてぇ!」
ラッシュがさらに声を上げ、兵士たちが第二射を放ってくる。
ふたたび降り注ぐ雨のような矢。
今度はそれらは、弾き飛ばされることなく、怪物の背中に突き刺さった。
「グゥオオオオッ!」
「ぶー太っ!」
ハピネは悲鳴を上げる。
「バカ! なんで避けないの!」
「…………」
怪物はゆっくりと身を起こす。
顔を上げ、その目がハピネのほうを向く。
「……こうすりゃ、正気に戻るかと思ってな」
そこにハピネは、たしかにぶー太の面影を感じ取ることができた。
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