魔族令嬢の奴隷にされたけど、面白半分に付与された外れスキル【豚化】を活用して反逆します

三門鉄狼
三門鉄狼

なんとか正気に戻りました

公開日時: 2020年10月6日(火) 20:03
文字数:873

「……ぶー太」


ダレ、ダ?

ヘンな、ナマエ、ヲ、ヨブ、やつハ?


ぶー太。

ソレハ、ダレ、ダ?

オレ、ハ、なんダ?


ワカラナイ。

わからない。

ワカラナイ。


ひたすらにハラがへる。

ひたすらにイカリがわく。


喰いたい。

殺したい。

壊したい。


目の前にあるものを、叩き壊した。


音を立てて飛んでいった。


少し満足。


けどすぐに物足りなくなる。


腹がハラがはらがヘッタ。


目の前になにかある。


持ち上げる。


食えそうだ。

うまそうだ。


口を開く。


「ぶー太」


だから、それは誰だ。


「助けて、くれるんだもんね」


たす、ける。

助ける……。



「動きが止まったぞ! 射て! 射てえ!」


ラッシュが弓を持ってきた兵士たちに向かって叫ぶ。


「し、しかしこれではハピネ様に当たってしまいます」


「構うな! このままだと、全員あの怪物に食われるぞ!」


「は、はい!」


兵士たちは弓に矢をつがえると、一斉に放った。


雨のように無数の矢が巨大な怪物に向かって降り注ぐ。


それは確実に、怪物の腕に掴まれたハピネをも、射殺す軌道だった。


しかし、


「グオア!」


怪物が腕を振るった。


それだけで、無数の矢はいともたやすく弾き飛ばされる。


そのほとんどがへし折れて、地面に落ちてしまった。


「ぶー太?」


怪物の腕の中のハピネは、声を上げる。


見れば、怪物の腕に一本だけ矢が刺さっていた。


先端のアンチジェムを含んだ鏃が、ざっくりと怪物の肌にめり込んでいた。


「グ、オ、オ……」


怪物の動きが止まる。


その目の中に、親しみのある輝きが現れたようにハピネには感じた。


「ぶー太! しっかりして!」


「たす、ける……」


怪物はなにかを呻いている。


「今だ! 放てはなてぇ!」


ラッシュがさらに声を上げ、兵士たちが第二射を放ってくる。


ふたたび降り注ぐ雨のような矢。


今度はそれらは、弾き飛ばされることなく、怪物の背中に突き刺さった。


「グゥオオオオッ!」


「ぶー太っ!」


ハピネは悲鳴を上げる。


「バカ! なんで避けないの!」


「…………」


怪物はゆっくりと身を起こす。


顔を上げ、その目がハピネのほうを向く。


「……こうすりゃ、正気に戻るかと思ってな」


そこにハピネは、たしかにぶー太の面影を感じ取ることができた。

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