「ほら、さっさと来い」
黒い布をフードがわりにして顔を隠した俺は、鎖を引っ張って言う。
鎖の先には手錠がついている。
手錠は二組。ついているのはハピネとヒルド二人の手首だ。
ちんちくりんの小娘は俺に引っ張られて、反射的に声を上げる。
「ちょっと、ぶー太! 無理やりしないでよ! 痛いじゃないっ」
「あぁん?」
「――すみませんすみませんなんでもありません歩きますすみません」
俺がちょっと低い声で返すと、クソガキは両腕を掲げるように土下座する。
人を散々死の恐怖で縛っておきながら、自分は死ぬのが怖いらしいな。
今や、完全に立場が逆転していた。
オーク化した俺に気絶させられてお漏らしして、隷属魔法も偽物だったとバレてしまったお嬢様は、もはや俺を奴隷にしておくことなんてできなかった。
まあ、オークに襲われているのに、使用人がみんな逃げて屋敷からいなくなってしまうような、人望のないご令嬢だ。
人を使うなんて無理なんだよ。
残ったのはメイドのヒルド一人だけ。
俺はハピネとその二人を手錠で拘束し、屋敷を出る。
「おら、さっさと歩け。お前の兄貴の屋敷まで、さっさと案内しろ」
「そんな急がせないでよ! 長年住んだ屋敷なのよ。お別れくらい――」
「あぁん!?」
「――すみませんすみませんなんでもないですこっちですすみません」
ったく、立場を弁えろっての。
ハピネは諦めた様子で、ヒルドと一緒に歩き出す。俺は二人の手錠から伸びる鎖を握ったまま、後からついていく。
まるで犬の散歩だ。
まあ、犬ほど従順でも可愛らしくもないけどな。
さて、なんでこんなことをしているかというと、べつに俺をこき使ってきた小娘に対する嫌がらせというわけではない。
目的地まで、逃げ出さずに案内させるためだ。
向かうのは、ハピネの兄であるラッシュの屋敷。
そこに、俺のモーフジェムを解呪できる道具があるのだ――。
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