魔族令嬢の奴隷にされたけど、面白半分に付与された外れスキル【豚化】を活用して反逆します

三門鉄狼
三門鉄狼

魔族令嬢の兄が取引を持ちかけてきました

公開日時: 2020年10月9日(金) 20:03
文字数:1,243

ハピネの手が伸ばされる。


振り上げた腕の動きが一瞬止まる。


「今だ! 撃てえ!」


ラッシュの声が響き、兵士たちが投射装置の巻き上げ紐から手を離す。


蓄えられた力が一気に解放され、巨大な矢が怪物へ向かって飛んだ。


それは頭を狙い撃つ軌道。


命中すれば、いかな巨人といえど、脳をぶちまけて絶命するだろう。


しかし、


「ぐ、うおおおおおおっ!」


俺は。

飛来する矢を掴み取る。


巨大な矢は普通サイズの人にとっては脅威だが、重くて速度が遅い。


グレンデル化した俺にとってはキャッチできるレベルだった。


「なっ」


ラッシュが目を丸くしている。


悪いな、何度も。


やっぱり俺は素直に殺されるわけにはいかないんだ。


このお嬢様は、もう絶対に諦める気なんかなさそうだからさ。


俺は掴んだ矢を握りしめる。


メキッと折れるそれを自分の胸に突き刺した。


「ぐ、う、あ……っ!」


「ぶー太!?」


痛え……。


巨人になっていても、痛いものは痛いな……。


だが、鏃に含まれたアンチジェムが、心臓近くに埋め込まれたモーフジェムの力を一気に中和していくのがわかる。


意識がはっきりしていく。


それに伴って身体もゆっくりと元のサイズに戻っていく。


「のれ、ハピネ」


俺は手を差し出す。


ハピネはなにも問うことなく城壁から手のひらに跳び乗った。


俺は跳躍。

一気に馬場へ移動し、ラッシュたちがいるところへ戻る。


矢を放った巨大な兵器をひと蹴りで破壊し、周りにいた兵士たちを蹴散らす。


捕まっていたヒルドを助け出す。


戦いにすらならない。


俺は右手にハピネを、左手にヒルドを乗せたまま、その場を去ろうとする。


「待て!」


ラッシュの声に、一瞬脚を止めてしまったのがいけなかった。


どすん! とラッシュが放った矢が背中に突き刺さる。


至近距離で放たれた矢は、グレンデルからオークのサイズに戻りつつあった俺の肌に深くめり込み、モーフジェムの効力を過剰に奪った。


くそっ、ここまでパワーダウンしなくてもいいんだよ!


「取引だ、人間種」


ラッシュは第二射をつがえ、俺に向けながら言ってくる。


「取引?」


「そうだ。ハピネは置いていけ。そいつだけは逃すわけにはいかない。キューブリア家の次期当主として、私はそいつの命を断たねばならない」


俺は振り向き、ラッシュを見る。


彼は俺の頭を真っ直ぐに狙っていた。


この距離なら矢は外れようがないだろう。


「そのメイドは好きにしていい。魔族が人間種の慰み者になるのは業腹だが、致し方あるまい。さして身分の高い者でもないようだしな」


「…………」


ああ、すごいな。


マジで言ってるのか、こいつは。


ハピネの豚奴隷扱いがマシに思えるクズっぷりじゃないか。


「ハピネ」


俺は小さくつぶやく。


「お前、こんな世界で、よくそこまで真っ直ぐに育ったもんだよ」


「え?」


不思議そうな声を上げるハピネを俺は地面に下ろした。


「よし、いいぞ。そのまま立ち去れ。二度と姿を現すな」


なにを勘違いしたのか、満足そうにそう言ってくるラッシュ。


俺に向けられていた矢の鋒がぶれる。


今だ!


俺はヒルドも下すと、ラッシュに向かって一気に駆け出した。

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