魔族令嬢の奴隷にされたけど、面白半分に付与された外れスキル【豚化】を活用して反逆します

三門鉄狼
三門鉄狼

スキル【豚化】の真の力を発揮します

公開日時: 2020年10月4日(日) 20:03
文字数:1,967

「連れていけ!」


ラッシュが苛立たしげにそう言って、兵士たちがハピネを引っ張っていく。


「待って! やだ! ぶー太! ぶー太ぁ!」


ハピネは手を伸ばして叫ぶ。


しかしその幼い身体は処刑台へと連れていかれた。


……待ってろ、ハピネ。


今、そのクソみたいな運命からお前を解放してやる。


「うおおおおおおおお!」


俺は咆哮する。


そのあまりの巨大さに、ラッシュが顔をしかめて耳を塞ぐ。


はっ、ざまあみろ。


俺の身体がモーフジェムの呪いによって変化していく。


やがて、灰緑色の肌を持ったオークになった。


しかし――。


「ぐっ……!」


俺の身体はすぐに人間に戻ろうとする。


檻の柵に含まれたアンチジェムのせいだ。


身体が言うことを聞かず、俺はその場に蹲った。


身体はそのまま縮んでいく。


「ははは! バカか! 気力でどうにかなるようなものではないぞ! その檻はモーフジェムで強化された兵士を閉じ込めるためのものだ! 破壊などできん!」


……だろうな。


この檻を持ってこさせるとき、ラッシュはこう言っていた。

手錠じゃこの化物レベルのモーフジェムには心許ない、と。


つまり、アンチジェムは、モーフジェムで変身する存在の強さに合わせて、強力なものが必要になるということだ。


そして、この檻はオークレベル対応。


なら――オーク以上の化け物になってやればいい。


「ぐ、う、お、お、おおおっ」


俺は腹の底から呻き声を上げる。


アンチジェムの檻に囲まれ、勝手に元に戻ろうとする身体に逆らい、モーフジェムを活性化させる。


モーフジェムは俺の心臓のすぐ近くにある。


ハピネがそこにそれを埋め込んだ。


そのときのことを俺は思い出す。


ヒルドにはがいじめにされ、ハピネに石を押しつけられた。


身体が太陽みたいに熱くなった。


そして気づくと、俺は豚に変わっていた。


ハピネはそれを見て楽しそうに、


『大成功! ぶー太が豚になった! ぶー太が豚になった! あはははは!』


そう声を上げていた。


ほんと、バカかよ。


そんな態度で、なんで俺と仲良くなれると思ってたんだ?


「く、はは」


俺の口から思わず笑い声が漏れる。


それを見たラッシュが怪訝な顔で言ってくる。


「なんだ? 苦しさについにおかしくなったか?」


「さてな――ぐうおおおおおおお!」


おかしいのかもしれないな。


俺を豚にしたお嬢様を助けるために、俺はオーク以上の化け物になろうとしてる。


ハピネに閉じ込められたあの塔の中で読んだ本に書かれていた。

モーフジェムとは、生物が辿った進化を遡らせる力がある。

俺に埋め込まれたジェムは、オーク族の道を辿らせるものだ。


「うおおおおおおおおおお!」


俺の身体が変化を始める。


すでに人間の二倍ほどの身長になっていたオークの身体がさらに膨れ上がった。


筋肉量は異常なほどに増大し、口から生えていた牙がさらに長く伸びていく。


額からは二本の角が生え出てきた。


オークとは、この大陸ではすでに滅びた種族だ。

神の使いである巨人とエルフが交わり、生まれたとされている。

オークが人間と交わってゴブリンが生まれ、猪と交わって豚が生まれた。

俺はまず豚になった。

そして、モーフジェムの本来の力を知って、進化の道を遡りオークとなった。

だがこれで終わりじゃない。


「な、なんだ、その姿は? なにが起こっている!?」


ラッシュは目を丸くして、その場に尻餅をつく。


無理もないだろう。


オークなら記録に残っている。


子供向けの絵本やなんかにもときどき敵役として登場する。


だが、その祖先が登場したことはないだろう。


俺だって、あの本を読むまで名前すら知らなかった。


どんな外見かだってわからない。


オーク以上の醜い姿になるのかもしれない。


だが、それでも俺はその姿に変化する。


「グオオオオオオオオオ!」


口から出る声が完全に人間離れしていく。


身体がどんどん巨大化していき、ついに檻を破壊した。


もはやアンチジェムの力は作用していない。


俺の中のモーフジェムは、その真の力を発動させていく。


オークという滅びた種族。

そのさらに古き姿がある。

地上に降り、エルフと交わってオークを生み出したのは、神の使いたる巨人だという。

それこそが、オーク族の本来の姿。

その巨体の。

その怪力の。

全ての源。

人の五倍の体躯を持ち、天を衝く二本の角を誇り、ある者は英雄と戦い、ある者は水底を支配し、ある者は国を滅ぼしたという。

その名を――


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


絶叫が轟く。


破壊された檻の破片が飛び散り、ガランガランと音を立てる。


ラッシュは腰を抜かしたまま這うように逃げていった。


周りで見物していた魔族たちも一斉に逃げ出す。


悲鳴が、怒号が、叫声が響き渡る。


その場は瞬く間に恐怖が支配する場となった。


圧倒的な存在感。


誰もが恐れるしかない。


誰もが平伏すしかない。


挑むことすら許さず、破壊と殺戮と絶望と破滅をもたらす者。


その怪物の名は――


――グレンデルという。

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