魔族令嬢の奴隷にされたけど、面白半分に付与された外れスキル【豚化】を活用して反逆します

三門鉄狼
三門鉄狼

捕まったメイドを助けます

公開日時: 2020年10月7日(水) 20:03
文字数:1,406

ぐ、お……これは、けっこう痛いな。


背中にザクザクと刺さった矢の感触を俺は感じていた。


とはいえ、身体のサイズがサイズなので、致命傷というほどでは全然ない。


しかしすごい状態だな。


視点がまるで違う。

高い塔の上にでも登って周囲を見下ろしているみたいだ。

その塔自体が自分の身体だってんだから、感覚がよくわからない。


手に握りしめているのはハピネだ。

気をつけないと握り潰してしまいそう。


というか、強く握りすぎていたっぽい。

ちょっと痛そうに顔をしかめている。


「すまん、痛かったか」


「痛い、わよ! バカ! どうなるかと思ったんだから! この……」


ポカポカと俺の指を叩いてくるハピネ。


ちょっと涙目。

でも少し笑っているように見えるのは、グレンデルの視覚に俺が慣れていないせいだろうか。


「悪かった。すぐに脱出しよう」


俺は周囲を見回す。


なにやら喚いているラッシュ。

次の矢をつがえる兵士たち。

とっくに逃げ出した貴族たち。


ラッシュが座るはずだった座席の横に、拘束されたままのヒルドがいた。


俺はそちらへ向けて歩き出す。


おっと!


方向転換しようと上げた足が、処刑台の残骸を蹴り上げてしまった。


「うわああああ!」


兵士たちが悲鳴を上げて逃げ出す。


「おい! 早く矢を放て!」


叫ぶラッシュ。


しかし誰も言うことを聞かない。


俺が一歩を進めるたびに、ずしいん、ずしいん、と地響きが発生する。

俺の耳には遠く聞こえるが、地面すれすれにいる彼らには轟音に聞こえるだろう。


俺も普段のサイズのときは、自分が地面すれすれにいるなんて思わないんだけどな。


「ぶー太様……?」


ヒルドが俺を見上げて、目を丸くする。


俺は頷いて見せる。


彼女は鎖で座席の肘掛けに拘束されていた。

俺はその鎖に手を伸ばすが、指が太すぎてうまく摘めない。


「ぶー太、私をおろして」


ハピネの言うとおりにする。


地面に降りたハピネはヒルドと抱き合い、何事か言葉を交わし合う。

なんと言っているかは遠すぎて聞こえなかった。


ハピネは鎖を持ち上げると、俺に向かって掲げてくる。


これならなんとかつまめるか……よし。


摘めればこっちのもんだ。


俺は右手と左手それぞれの親指と人差し指で鎖を摘むと、左右に引っ張った。


鎖は雑草がちぎれるみたいに簡単にちぎれた。


ハピネがヒルドの身体に巻きついた鎖を解く。


よし、あとは二人を抱えてこの場を立ち去れば……。


「っ!」


背後に気配を感じて俺は振り向こうとした。


しかし、それより早く、大量の熱が俺の背中に浴びせかけられる。


「熱っ!」


「ぶー太!」


なんだ?


首を曲げて見れば、大量の火矢が俺の背中に突き刺さっていた。


さっき放たれて刺さっていた矢と併せて、俺の身体を火の玉にしようと燃え盛る。


「ははは! 化け物め! 燃えろ燃えろ!」


ラッシュがバカ笑いしながら叫んでいる。


くそ、なにしやがるんだ。


せっかく鏃のアンチジェムの効果で正気を取り戻したのに、矢を燃やしたりなんかしたら、また……。


「ぐっ」


ぐらっ、と頭が揺れるような感覚に襲われて、俺は膝をつく。


危ねえ……ハピネとヒルドを踏み潰すところだった。


「ぶー太!」


「はな、れろ……このままだとまた……」


炎が俺の背中に刺さった矢を一本、二本と焼き落としていく。


全部じゃないが、アンチジェムを混ぜた鏃も一緒に落ちてしまっているようだ。


マズいな。

このままじゃまた正気を失ってしまう。


その前にせめてオークの状態に戻って……。


ああ、ダメだ。

間に合わねえ。


意識が、また飲み込まれていく――

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