ぐ、お……これは、けっこう痛いな。
背中にザクザクと刺さった矢の感触を俺は感じていた。
とはいえ、身体のサイズがサイズなので、致命傷というほどでは全然ない。
しかしすごい状態だな。
視点がまるで違う。
高い塔の上にでも登って周囲を見下ろしているみたいだ。
その塔自体が自分の身体だってんだから、感覚がよくわからない。
手に握りしめているのはハピネだ。
気をつけないと握り潰してしまいそう。
というか、強く握りすぎていたっぽい。
ちょっと痛そうに顔をしかめている。
「すまん、痛かったか」
「痛い、わよ! バカ! どうなるかと思ったんだから! この……」
ポカポカと俺の指を叩いてくるハピネ。
ちょっと涙目。
でも少し笑っているように見えるのは、グレンデルの視覚に俺が慣れていないせいだろうか。
「悪かった。すぐに脱出しよう」
俺は周囲を見回す。
なにやら喚いているラッシュ。
次の矢をつがえる兵士たち。
とっくに逃げ出した貴族たち。
ラッシュが座るはずだった座席の横に、拘束されたままのヒルドがいた。
俺はそちらへ向けて歩き出す。
おっと!
方向転換しようと上げた足が、処刑台の残骸を蹴り上げてしまった。
「うわああああ!」
兵士たちが悲鳴を上げて逃げ出す。
「おい! 早く矢を放て!」
叫ぶラッシュ。
しかし誰も言うことを聞かない。
俺が一歩を進めるたびに、ずしいん、ずしいん、と地響きが発生する。
俺の耳には遠く聞こえるが、地面すれすれにいる彼らには轟音に聞こえるだろう。
俺も普段のサイズのときは、自分が地面すれすれにいるなんて思わないんだけどな。
「ぶー太様……?」
ヒルドが俺を見上げて、目を丸くする。
俺は頷いて見せる。
彼女は鎖で座席の肘掛けに拘束されていた。
俺はその鎖に手を伸ばすが、指が太すぎてうまく摘めない。
「ぶー太、私をおろして」
ハピネの言うとおりにする。
地面に降りたハピネはヒルドと抱き合い、何事か言葉を交わし合う。
なんと言っているかは遠すぎて聞こえなかった。
ハピネは鎖を持ち上げると、俺に向かって掲げてくる。
これならなんとかつまめるか……よし。
摘めればこっちのもんだ。
俺は右手と左手それぞれの親指と人差し指で鎖を摘むと、左右に引っ張った。
鎖は雑草がちぎれるみたいに簡単にちぎれた。
ハピネがヒルドの身体に巻きついた鎖を解く。
よし、あとは二人を抱えてこの場を立ち去れば……。
「っ!」
背後に気配を感じて俺は振り向こうとした。
しかし、それより早く、大量の熱が俺の背中に浴びせかけられる。
「熱っ!」
「ぶー太!」
なんだ?
首を曲げて見れば、大量の火矢が俺の背中に突き刺さっていた。
さっき放たれて刺さっていた矢と併せて、俺の身体を火の玉にしようと燃え盛る。
「ははは! 化け物め! 燃えろ燃えろ!」
ラッシュがバカ笑いしながら叫んでいる。
くそ、なにしやがるんだ。
せっかく鏃のアンチジェムの効果で正気を取り戻したのに、矢を燃やしたりなんかしたら、また……。
「ぐっ」
ぐらっ、と頭が揺れるような感覚に襲われて、俺は膝をつく。
危ねえ……ハピネとヒルドを踏み潰すところだった。
「ぶー太!」
「はな、れろ……このままだとまた……」
炎が俺の背中に刺さった矢を一本、二本と焼き落としていく。
全部じゃないが、アンチジェムを混ぜた鏃も一緒に落ちてしまっているようだ。
マズいな。
このままじゃまた正気を失ってしまう。
その前にせめてオークの状態に戻って……。
ああ、ダメだ。
間に合わねえ。
意識が、また飲み込まれていく――
読み終わったら、ポイントを付けましょう!