それから俺の逆らえない奴隷の日々が始まった。
俺に与えられたのは例の地下牢だった。
白骨死体は片づけられ、藁も処理され、代わりに椅子やベッドが運び込まれた。牢屋の隅にあったトイレには仕切りも増設された。
食事は一日三度。俺が故郷で食べていたのよりずいぶん豪華なものが、ヒルドというメイドによって運ばれてきた。
どうやら彼女の分と一緒に作ったものらしい。ハピネはもっと豪華なのを食ってやがるんだろう。
三度三度の食事に暖かい寝床。
それだけならむしろ、以前より快適とさえいえる生活だ。
もちろんこれで済むわけがない。
「ぶー太! 起きなさいぶー太!」
毎朝。
俺はキャンキャンやかましい小娘の声で起こされる。
時間は完全にランダム。小娘が目を覚まし、身支度を整えて、ここに到着した時間が俺の起床時間だ。
目を擦りながら牢から出ると、
「届かないでしょ! 頭下げて!」
「いでででで!」
ハピネがぴょんぴょん飛び跳ねて俺の髪を掴んでくる。
思わず上半身を折ると、ハピネは俺の首に首輪をつけてくる。
そして鎖を握って、犬の散歩でもするみたいに連れ出すのだ。
「ぶー太」
牢屋から地上に出るとハピネは俺の名前――こいつが勝手につけた名前を呼んでくる。
「…………」
「いつものことなんだからわかってるでしょ! 早くしなさい!」
べしん! と尻を叩かれる。
くそ……大して痛くないが腹は立つ。
けど、逆らうと白骨死体になってしまうので、俺は結局言うとおりにする。
ハピネの前で、手と膝をついて四つん這いになるのだ。
「それでいいのよ」
うんうん、と満足そうに頷きながら、ハピネは俺の胴体に腰を下ろす。
「ほら、早く食堂に向かいなさい」
「……はい」
言われるままに俺は黒と赤の市松模様の床がチラチラする屋敷を四足歩行する。
まだ十歳の小娘だ。そこまで重くはない。
だが、俺は馬でもロバでもない。
こんな格好でものを運ぶのに向いた身体はしていない。
小娘の尻の重みが今日もしんどい。
汗だくになって食堂に到着。
ハピネは満足そうに俺から降りると、用意されていた豪華な朝食を食べる。
その横で俺は鎖に繋がれたまま、そこそこの朝食を食べる。
これがこのクソ小娘の日課だった。
朝叩き起こされてから、夜寝るまで、俺はこうしてハピネの移動のたびに四つん這いにさせられ、彼女を乗せて歩かなきゃいけない。
それ以外の時間は、彼女の近くで、鎖で繋がれおとなしくしていなければならない。
休憩できるのは彼女がお昼寝する午後の一時間だけ。
いっそ、わざと転んで階段から突き落としてやろうかと思ったが、そんなことをすれば白骨死体だ。冗談じゃない。
俺はひたすら、首輪をはめられ、四つん這いにさせられ、ハピネを運ばされた。
一日が終わると疲れ切って、牢屋で泥のように眠る。
その繰り返し。
くそ、こんな生活、いつまで続くんだ……。
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