魔族令嬢の奴隷にされたけど、面白半分に付与された外れスキル【豚化】を活用して反逆します

三門鉄狼
三門鉄狼

魔族令嬢の兄に捕まりました

公開日時: 2020年9月21日(月) 20:03
文字数:1,397

夕飯を食べ、風呂に入った。


そのあと少し仮眠しようと思ったが、目が冴えて寝られなかった。ハピネはグースカ寝ていたが。


やがて、時間が近づいたので、俺はヒルドを連れて続き部屋に隠れる。


宿の主人がハピネの兄のラッシュを迎え、隣の部屋にいるハピネのところへ案内する。

ハピネは兄からアンチジェムを受け取る。


余計なことを喋ればヒルドを殺すと脅してある。


魔物に襲われているところは助けたが、自分の身に危険が及ぶようなら容赦しないと伝えた。

俺が魔族に深い恨みを抱いていることをハピネは知っているし、ヒルドを見捨てるようなことはしないだろう。


階下が騒がしくなってきた。


どうやらラッシュがお供を連れてやってきたようだ。宿の主人の謙った声が聞こえてくる。


「こちらでございます」


階段を登ってくる足音と声。

大人数ではないが、足音は重い。

鎧を着ている兵士がいる?

護衛ならそれが普通なのか?


隣の部屋の扉が開く音。


「お兄様……」


「久しいな、ハピネ」


落ち着いた声音が彼女の名前を呼ぶ。


が、続いて、


「お兄様、これはどういう――」


ハピネの焦るような声。それが不自然に途切れた。


なんだ?


バギッ! と続き部屋からの扉が破壊された。


同時に廊下からの扉も蹴破られ、大量の兵士が突入してくる。


くそっ! ハピネのやつ、騙したのか?


「動くな!」


俺は声を張り上げる。


さっき宿の台所から拝借しておいたナイフを、ヒルドの首筋に押し当てる。


「近づくな。妹の大事なメイドの命がどうなってもいいのか?」


俺は窓を背にしてそう告げる。


ヒルドを連れて逃げるしかないか?

この場でアンチジェムは手に入らないが、ヒルドを材料に取引する余地はあるだろう。


そう思っていたが、


「無駄なことはやめろ、人間」


そう言って、続き部屋から男がやってくる。


闇色の肌に、ハピネと同じ銀色の髪と赤い眼。

頭からは、緩くねじれた優雅な曲線の二本角が生えている。

刺繍が大量に施された、高価そうなコートを着ている。


冷徹で見下すような目は、元からなのか、相手が『下等種族』だからなのか。


俺は気圧されそうになるが、すぐさま言葉を返す。


「無駄? そんなことはない。お前の妹はこのメイドをずいぶんと大事にしている。だから交渉の余地は――」


と、そこで俺は言葉を止めた。



ハピネが兵士たちに捕らえられていた。



は?

なんでだ?


この男は、ハピネの兄じゃないのか?

なんでこいつは、妹を拘束している?


「この二人も捕らえろ」


ラッシュが命令を下す。


「くそっ!」


動揺している場合じゃない。


俺はとっさにオーク化し、ここから逃走しようとする。


しかし――、


「ぐぁ!」


兵士の一人が持っていた槍に腕を刺され、動けなくなってしまう。


なんだ……?

身体の力が抜ける。

俺をオークに変異させるため全身を駆け巡ろうとしていたモーフジェムの力が、槍の穂先によって一気に抑制されてしまったみたいだ。


「これが……アンチジェム、なのか?」


俺の呻き声に、微かに笑みを浮かべるラッシュ。


やっぱりそうか。


くそ、それじゃハピネはやはりあの手紙で俺のことを兄に伝えたのか。


だが、


「お兄様! おやめください! 話が違います、お兄様!」


ハピネは必死にそう叫んでいた。


なんでだ?

この状況はお前の望んだものじゃないのか?


わからない。

なにがどうなっている?


「連れていけ」


ラッシュが命じ、ハピネは兵士たちに引っ立てられる。


俺と、同じように捕らえられたヒルドも、引きずられるように連れていかれた。

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