俺は檻を殴りつける。
オークになった俺の拳はいともたやすく檻を破壊した。
そのまま外に出て、ヒルドを捕らえる。
「い、や……なに、ものです?」
メイドは震える声で言ってくる。まあわからないか。
俺は答えてやる。
「おれだ、よ。ぶーた、だよ」
くそ、発音しづらいな。
ブルータスって言うのがキツくて、ぶー太って名乗ってしまった。
こいつらにはその方が通じやすいからってことにしよう。
「ぶー太様? そんな……」
ヒルドは額の上に小さな角が一本生えた顔をこちらに向けて目を見開く。
はっはっは。驚いたか。いいねいいね。そういう顔をもっと見たいんだ俺は。
「こむすめ、は、どこにいる?」
俺はヒルドにハピネの居場所を問う。
こうなってしまったら仕方ない。この姿での検証はまだなにもしていないけど、復讐を実行しよう。
「し、知りませんっ」
「痛い目にあいたいのか?」
「ひっ!」
ぐい、とヒルドを捕らえた腕を持ち上げる。
メイドの身体は簡単に持ち上がり、宙ぶらりんになる。
ついでに反対の手で拳を握り、横の壁をどすんと殴りつけて見せた。石造りの壁にビシビシっとヒビが入った。
ヒルドはそれを見て蒼白な顔になるが、それでも、
「知りませんっ! 知ってても絶対に話しません! 殺すなら殺してくださいっ」
「…………」
職務に忠実、というレベルではない決意を、俺は彼女から感じた。
あのちんちくりん小娘にそこまでする義理があるか?
それとも、あの小娘はこのメイドにもなにか脅しをしているのだろうか。
家族に隷属魔法の呪文をかけたとか……。
うん、あのわがままお嬢様ならやりかねない。
俺はヒルドを連れて地上に出る。
メイドを殺したところで、ハピネを見つけられるわけじゃない。
だったら人質として活用しようと考えたのだ。
「出てこい、クソお嬢様! お前のメイドを殺されたくなければな!」
屋敷の中を歩き回りながら、俺は声を張り上げる。
しかしハピネは現れない。
代わりに護衛の兵士や使用人が現れては、俺の姿を見て逃げていく。
誰も、ヒルドを助けたり、屋敷に現れた侵入者を退治しようなんて考えないようだ。
まあ、突然こんな化物に遭遇したらそうなるだろう。
俺は廊下の床を激しく踏み鳴らし、調度品を破壊して、音を立てながら屋敷を移動していく。
あまり派手に騒ぐとハピネは逃げ出してしまうんじゃないかと途中で気づいたが、暴れる身体は止まらなかった。
心までオークになりつつあるのだろうか。
やっぱり検証なしで実行に移るのは間違いだったか。
けど、いまさら止めるわけにはいかない。
復讐は始まってしまったのだ。
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