コンコン。軽く二回、中指第二関節を木の板にぶつける。
「あら、よく来てくれたわね。素敵な格好ね」
出迎えてくれた、シャルルさんはいつもの二十五倍増しでセクシーだった。
ざっくりをとうの昔に通り越して胸元の開いたシャツ、普段はしていない黒縁に型取られたメガネ。ズボンは、シャツの裾に隠れることにより、中でどんなパーティーが開催されているか想像してしまう。
ありがとう神様。今日僕は色んな意味で“せい”を全うするかも知れません。
しかしどちらを見ても今日の主役となる姫様が居ない。
「ララはまだ寝てるんですか?」
「ええ、そうみたいなの。坊や起こしに行ってくれる?♡」
えええええええ。
これは保護者の同意をもらったという解釈で構わないのだろうか。
いやしかし、立場的にシャルルさんが下にも見えたし。
なんて下心を満載にしながら階段をリズムよく登る。
蝋燭の光が扉の下から溢れてる部屋を見つけた。
コンコン。
――ガチャ。
「――っすー、、っすーー」
一定のリズムを刻みながら肺呼吸を無意識下でおこなっている音だった。
聖母のように優しい月明かりが八十センチ四辺の窓から差し込み、ララの透き通るほど白い肌を更に白く際立たせていた。
艶やかでピンク色した長い髪の毛も一緒に休んでいるようにベッドに凭れ掛かり、ベッドに吸い付いているようだ。
眠れる最強の美女を眺めながら机の椅子に腰掛ける。
「――なんでだろ、君とはどこかで会った気がする」
感傷に浸りながら、彼女越しの満月を眺めていた。
「――クス……ルークス。ごめんなさい」
あの天真爛漫なララの悲哀に満ちた声に、思わず覗き込む俺を馬鹿にしているかのように、それはそれはぐっすり眠っていた。
でも何故だろう。この子だけは何故か守ってあげたい。本能的にそう思える自分が不思議だった。
程なくして、シャルルさんが居る客間に戻った。
四人掛けのダイニングテーブル。シャルルさんの対角線に座る。
「あら、早かったのね。あんまり早い男は嫌われるわよー?♡」
「それもしも、男の人とそうなった時に絶対言ったらダメですよ?」
その忠告に、ニンマリと笑顔で
「そんな男つまんないもの」と言い放った彼女は今まで何人の男を虜にし、泣かせてきたのか好奇心で知りたくなった。
「じゃ俺はつまらない男か判断してほしいものですね」
「きゃ♡坊やのオオカミさん」
昨日殺し合いをしたことなど頭のどこにも記憶していないだろう会話をしていたら、ふとさっきの言葉が浮かんだ。
――「――クス……ルークス。ごめんなさい」――
「シャルルさんは昨日ララに俺の事を何か話しましたか?」
シャルルさんはいきなりなんだと言う顔をしている。
「いえ? 空腹で動けなくなったララ様をおぶって帰ったわ。家に着いて、ご飯を猛烈な勢いで掻きこんだと思ったらそのまま机で寝ちゃったわ」
「俺の名前は? シャルルさんは基本俺のこと坊や呼びですよね」
「ええ」
これまた、なんだ急にと言う顔をしているシャルルさんに更に質問する。
じゃあなんで俺の名前を。
「帰る時、彼女は何か言ってましたか?」
「さあ、おんぶした時は寝てたから……」
本人に聞くのが一番早いか。
すると2階から扉が開く音がした。
その直後、長い眠りから覚めた姫君が降りてこられた。
「もう睡魔との戦いには勝ったのか?」
ちょっぴり意地悪気味に尋ねると、小さくベーっと舌を出して答えながら歯磨きをしに洗面台の方に消えていった。
「それじゃ私は夕ご飯買ってくるわね、二人で仲良くお留守番するのよ」
そう言って、芳醇な甘い香りを残してシャルルさんは買い物に出かけてしまった。
歯磨きを終えたララがトコトコと小さい足取りでダイニングテーブルの目の前席に座った。
「まずは初めまして、俺はルークス・アルフレッド。出身は言っても分かんないと思うけどクリアナ王国って所で、歳は十九歳! 好きな女の人のタイプは可愛い人です」
「――クリアナね……」
そう小さくつぶやき言葉を繋げた。
「はじめ……まして、昨日も言ったけどあたしの名前はララ・ダスティフォリア!」
「歳はあなたとあなたと同じ十九歳! すきな男の子は人を見た目で判断しない人だよ!」
同い年という事実には驚いたが、髪の色のように暖色になって膨れていくほっぺたはを見るのはなんとも愛らしく、また懐かしい気分になった。
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