――ガシャン
「――。」
「――。」
「――……なんでだ」
ひんやり冷たい地面が下半身から体温を奪っていく。
ろくに換気もしていないであろう空間。
石造りの壁に重厚な牢。
各お部屋に一つだけ灯る、蝋燭の僅かな光だけが俺たちの視界を明るくしてくれる。
「あ、あ、ああのぉぉー。大変聞き辛く、その答えを聞くのが怖すぎる質問を一つだけしてもよろしいでしょうかーー……」
「――。」
「どーしたのー? ルークス君には裸を見られた貸しがあるけど、可愛いお姉さんが聞いてあげようじゃないか! 言ってみ言ってみ」
まるでこの異質な取り合せの三人でお山にピクニックに来たような、陽気な語感で質問を要求する可愛らしい年齢不詳な女の子。
どう考えても場違いだ。
そして、まずあれは事故だ。俺は悪くない。
視線を外さなかったのは……ふふっ。まぁいい。
残念ながら、こんな馬鹿な考えを持てる状況に俺たちは身を置いていない。
「まず何で俺たちこんな簡単に捕まってんの? 『あの子なりに決意したみたいだよ』とかあんたが言うから何か策があると思って抵抗しなかったんだぞぉぉ!?」
「えーー? 僕はただルークス君にダスティンの可愛い可愛い決意の顔を見せてあげようと忠告しただけだよー?」
ケタケタ悪ガキのように俺を指差す嘲笑するアクアリウム。
「あんたねぇーこの状況わかってる? 俺たちこのままだと首と体の分離まで二十四時間も無いんだぞ??」
「あははー。そうだったそうだった。君たち人間は頭部が体から離れただけで死んじゃうんだったねぇー。それ不便じゃないのー?」
「どうですかね」
えっ! スゲェー! 逆にアクアリウム様は死なないんですか!!? なんて質問は時間の無駄なのは分かってる。
そしてコイツを褒めてるようで、なんかムカつくから言わない。
飄々と答えてこいつに優越感を与えない。
コイツを神として崇めている人間が居たならば、人間を馬鹿にしたあの顔を全員に見せてあげたい。
信仰心なんてどこかに吹き飛ぶはずだ。
てゆーか吹き飛べ。
「なーーんてね、正直僕もあの子が何をしたいと思って自首したのかは、詳しいところまでは推察出来ないが、これだけは言える事がある。」
アクアリウムは前傾姿勢になり右手人差し指を額に当て目を閉じる。
「言える事?」
「あの子は君を守る事だけを考えて行動した。わざわざ自分から過去のトラウマを蘇らせ、残酷な運命に逆らってでもねー」
「俺のことだけを……なぜそんな事が言える?」
「さぁーーそれは鈍感な君が気付く瞬間の顔が僕は見たいから言わないけどーー。でもダスティンに限って何の策も無く、人を危険に巻き込む真似はしないのは、水華龍である僕が保証しよう!」
平均女性並みの膨らみを持つ上半身を目一杯張り、満足げに自分の意見を述べるアクアリウム。
「――。」
「まずは地上に残ったララに託すしか無いのか。君の力でここから抜け出す事は出来ないのか?」
「ルークス君、人の事は名前か愛称で呼ぼうねー? 僕はあなたでも君でも無いんだよーー? ちゃんとした名前を持つ乙女さ。ま、人間じゃ無いけどー」
どこまでも全力で脱力したドラゴンだな。と感心する。
「じ、じゃあアクアリウムと呼ばせてもらうよ」
そう呼ばれて嬉しそうに目を輝かせる。
乙女という部分は本当なのだろうか。
「じゃ、話を戻すけど僕の力でこの状況を突破するのは可能だよー? でも僕にも色々立場というものがあってね。多くの人々の生命維持や営みを恒久的に支えていくのが僕たち天龍界の総意だ」
「ここで君たちを逃しては、ココモア大洞窟事件の犯人が水神様と協力し逃亡、王都をうろついているって噂が伝播するよね? そのような状況を作り上げるのは、僕たち天龍界の流儀に反するんだよ」
いきなり現実的な反論をされて、すくんでしまう情けない俺だった。
「――おい。お前ら何者だ?」
蝋燭が届かない真っ暗な部屋の奥から、突然低音な音声が聞こえてきた。
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