――異常なまでな静寂に包まれた空間を豪華絢爛な装飾品、宝具がずらっと並ぶ。
複雑で煌びやかな刺繍、中央にシュメイラル王国の紋章が施された赤い絨毯がどこまでも続く。
その紋章の真上に鎮座する重厚な円卓に座るララ。
「――まさかまた貴様と会うとは思わなかった。その身姿からしてまだ呪いとやらは継続したままなのだな。どこまでも可哀想な女だ」
そうねちっこく話す男は、黒縁の高級なメガネ、後ろで一つ結びされた深緑の長髪、そしてどこか人を見下したような目付きをしている。
左胸には金色のバッチを誇らしげに付けている。
「何故八年間も姿を消していた貴様がこの国に現れたかは知らんが、また貴様はこの国に災厄をもたらすというのか?」
その男は掛けているメガネを純白のハンカチで拭きながらララに問いかける。
「――今日はね今日はね、皆に言いたいことがあって来たんだよ」
「なんだ? 貴様ら罪人のココモア大洞窟の修繕費を肩代わりしろとでも?」
馬鹿にした口調で男は続ける。
「あんな我が国の重要施設で騒ぎを起こすなど……。愚かで卑賤な貴様にはお似合いな行動だとは理解出来るが」
「あっははー。レナードさんは女の子にもガンガン行くんですねー。ウチだけに冷たいと思ってたからなんか安心です」
茶々を入れるのは、黒いローブに身を包み、目元までフードを被る幼女らしき者。
座高から推測するに身長は百二十あれば良いというところ。
レナード同様に左胸に金のバッチを付けている。
「黙れポルナリア、俺は単に思考能力が著しく低く、学習しない貴様らの様な人間を嫌悪しているというだけだ。フェリサル様の御前でこれ以上醜態を晒すな」
「レナード、そこまでだ」
爽やかに言い放たれたその一言にメガネの男は一瞬悔しそうにして、声の主に頭を下げる。
「で、君が先ほど申した、我らに言いたい事とは何だ? その件を聞いてから今回の事件の処遇を決めるとする」
一つだけ装飾の次元が違う椅子に座る青年。
その青年の頭上には金やダイヤがびっちりと密集した冠を載せている。
「――大きくなったねフェリサル。そんなにカッコよくなっちゃって、あたしはすっごく嬉しいよ」
目の前の青年に姉のような感情が湧いてくるララ。
「貴様! シュメイラル王国第二十一代国王にして元首であるお方に向かって何たる無礼を!」
「良いのだ良いのだ。ララとはこのような話し方の方が楽だ」
真っ白な歯を見せながら笑う国王。
「フェリサル。今から話す内容は今回のココモア大洞窟での事件も大きく関わることなの」
「――聞こうか」
深く息を吸い、傾聴の体勢になる。
「まずは今回の事件で私たちが戦ったのはオスタリア王国の三傑《トライデント》の二人、隷属の瞳と復讐の剣だよ」
「――!!」
「――何だと!?」
「へぇ、おもしろそ」
「オスタリアと戦闘しただけでなく、相手が悪魔と名高い隷属の瞳と若くして化け物と謳われた剣術士の復讐の剣だと!? 貴様気でも触れたのか!? 冗談でしたで笑える話ではないぞ」
「いーや冗談では無いと思いますよ」
「八年前の戦争の最大功労者である華姫様がここまでボロボロになっているのが良い証拠っすね」
フードから覗く鋭い前歯がきらりと光る。
「そしてアイツらはこう言ってた。『まだその時ではない』って。この意味皆ならもう分かるよね?」
円卓に緊張が凄まじい速度で駆け巡る。
「戦争か……」
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