「何はともあれやっと解放されたんだ。早く宿で寝たいもんだな」
「確かに君達昨日から寝て無いもんねー。大丈夫? 死んじゃわない?」
嘘でしょ。
睡眠不足ごときは憂いてくれるのに、あの暴力は最後まで様子を見たんですか?
「地図だとここら辺だと思うんだが……」
もらった地図を再確認するため立ち止まる。
「あのー、お仕事中すいません。この地図に載ってる宿への行き方分かりますか?」
「え?行き方も何もアンタの目の前に見えるでしょ」
そう言われ目線を上げて確認すると、外壁の装飾が一棟だけ桁違いに豪勢な建物が目に入る。
通りの建物は基本的に煉瓦造りで白や黄色単体の塗料で塗られている。
しかしここだけは壁色は白ベースだが、各所に金箔の施しがされている。
湾曲したオシャレなデザインのベランダ、金製の獅子像と銀製の獅子像門番をしていたりと他とは一線も二線も画す建物が俺たちの到着を待っているらしい。
「それにしてもアーバンクラインホテルに泊まるなんて何かのお偉いさんかい? そうは見えないけど……」
ちゃっかり嫌味を言われたので、お礼で買おうと思ってたりんごをそっとカゴに戻す。
「そんなにこのホテルは有名なんですか?」
「あったりまえだよ! ここは代々王国直系のホテルだからね。各国の首脳や王族の滞在用に利用するのが一般的で、アタシらみたいな平民には縁遠い場所さ」
そう言い終わるとおばちゃんは店の業務を再開しだした。
「いやー、国王様も太っ腹だねぇー。よっぽどダスティンの交渉が上手くいったのかな? それともネゴシエーターはナラスラーバちゃんかなー?」
ナラスラーバという単語を聞きまた立ち止まる。
「やっぱり君はナラスラーバの事……いや、ララの中にある二つの人格を知っているんだな?」
「んー話すと長いからさー。ホテルでゆっくりしてから話そうよ。ルークス君もさっき眠たいって言ってたじゃんか」
ヘラヘラとはぐらかされた気がしない事も無いが、アクアリウムの言う通りここは大人しくホテルで休憩するのが賢いだろう。
「はいはい」
「――うっひょー。流石王族御用達のホテルだ。金に糸目をつけてない感満載って感じの雰囲気だな」
異世界の中の異世界な雰囲気に若干興奮気味な俺を周囲のおじさま、おばさま方が蔑むように見てくる。
「そーだねー。これこそ欲に塗れた人間が行き着く果てといったところだろうねぇー。浅ましー」
天龍界ならではの着眼点で批評するアクアリウム。
「あ、あの、僕達ここに来いって言われて来たものです」
若いボーイさんに恐る恐るコンタクトを試みるも、完全な場違い感を持っている俺の声は悲しくも裏返る。
「……えぇっと。本当にこのホテルでお間違い無いでしょうか? 他のホテル様でしたらお向かいにございますが」
そう言いながらボーイが指差す先には築千二百ですか? と初見ながら心配になる程荒んだ建物が見える。
……完全に舐められてる。
どうしようここに竜神様呼んじゃおうかな?
とまで考えていると続けて嘲笑まじりの質問をされる。
「ぷふっ。では。一度お名前を教えて頂いてもいいですか?」
「ルークス・アルフレッドです。こっちの女の子は……妹のアクアリウムと言います」
「ほほぉールークス君は妹属性があったんだねぇー。言ってくれたらそんなふうに振る舞ってあげたのにー」
右手親指と人差し指を顎に当てながら勝手に性癖分析されるのは不本意だが、少しだけ興味を持ってしまった自分が情けない。
「――ルークス。ルークス……。あ、あ、あぁぁ! た、大変申し訳ございません!! 王国管理局関係のお客様でありましたか……!」
そうなのか?
正直俺にはさっぱり分からない。
まぁ台帳に名前があるということはそういう事だろう。
「そーーなんですよーー! 僕たち、あ! の! 王国管理局の関係者様ですー! ごきげんよー。この僕にそんな態度で大丈夫かなボーイ君?」
ああ、俺性格悪いなぁー
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