「ルークスと申します。ギルドに入りたいと思い参りました」
落ち着け、ここは動揺を悟られないように行動するんだ。
「ねぇヴァイスさん、ルークスは遠い国から来てるみたいで、この国に身寄りも仕事も無いのよ。見た感じクエストにも耐えれると思うんだけど、ダメかな?」
「んーー。キアちんのお願いでもそれは資質次第ねー。いくらこの子があたし好みの可愛い細マッチョでも、戦場に出た途端何も出来ずに死にました、なんて話、酒のつまみにもならないもの。」
さすがここの責任者? なだけあって意外にも冷静に物事を判断するんだなと感心していた。
「ウフフ。ヴァイスは本当にケチんぼさんねー」
いきなり視界の上から、人の両手が降ってきた。
――ポヨン。
っっこれはっ。
甘い香りと左右の肩甲骨から、各々伝達されるこの感覚。
男のDreamを搭載した夢の果実が惜しみなく俺に突撃している!!
「シャルルさん!」
「あらシャルル、あんたまだこの街に居たんだねぇ、最近はあんたの、甘たるくて傲慢で主張の激しい香水の匂いが消えて、清々してたところなのに」
俺からは顔は見えないが、どうやらこの二人の知り合いらしい。
「ヴァイスのいじわる〜。シャルルこわ〜い♡」
そう言ってまたドリームが、俺の背中に突進してくる。
まずい!これ以上は俺の股間が自動操縦になってしまう!
「あの、少し離れてください!」
今までこれほどまでに、感情と乖離した発言をしたことがなかった。
「もー。シャルルさんは本当に、男と見るなりに即ちょっかいかける癖どうにかしてくださいよ。」
「フフ、ごめんね坊や、可愛いお姉ちゃんが自分の獲物が取られそうで心配しているから、また今度ね♡」
いつはち切れても不思議ではない胸元、肉肉しくもきゅっと締まった体型。
この世の全ての色気を集結させ、具現化したような人に自分から離れるという愚行を行なった自分を悔いた。
「んな訳無いでしょ!!」とキアが怒ったあと、この人の紹介をしてくれた。
「この女性はシャルルさん。この国一番の魔導士で、私の魔導の師匠でもあるお方よ。」
「回復魔導の分野においては、さっき滅多に見られないって話した適性Aをこの国で唯一保有する凄い人なの!」
それを聞いたヴァイスさんが不機嫌そうに割り込んできた。
「あらーー? こいつはそんな大層な女じゃ無いわよー??」
「仲間の事も考えずに高報酬のクエストばかり漁る金の亡者で、無駄に発達した脂肪を振りかざしてるだけの悲しい存在よー?」
と姑のように嫌味ったらしく言った。
「あらあら、あなたみたいな筋肉馬鹿でB適性しか持たない落ちこぼれに、私という美しい存在を理解したように話されるのは虫唾が走るわね」
こちらもまたチクリ。
「っと、こんな感じでこの二人は仲が悪いのよねー。元々は一緒のパーティーだったのに」とキアが呆れたように呟く。
「ま、こんな脂肪女のことは置いといて、まずはルークスちんの適性を見てみない事には始まらないわね」
そのまま三人に連れられて、ギルドの奥にある、地下へと続く階段を黙々と降りていく。
行き着いた先は、薄暗く光る蝋燭が壁一面無数に並び、真ん中に六芒星のように6つの頂点を持つ図形が描かれている、かなり不気味な部屋だった。
「それじゃルークスちんはその図形の真ん中にきて頂戴」
そしてヴァイスさんが、何かを呟き両手を合わせると、下に描かれた図形のそれぞれの頂点の、真上に各適性の名前が書いてあるカードが浮かんできた。
「その浮かんでいるカードは“スレッド”と言って、坊やの適性を記録するカードよ。」
そう言うシャルルさんの胸元が視界に入り、少しリラックスしたその瞬間、
一瞬にして体とカードが赤、青、黄色、緑、白、黒の炎に包まれた。
「あつっ!あつ……あれ? 全然熱くない」
すると、次第に各色の炎は消え、6つのスレッドが地面にパサパサと音を立てて落ちていった。
「成功よ。ルークスちゃんは何が適性なのかしらね〜、アタシ的にはアタシと同じ格闘士で朝から晩までみっちり稽古を付けてあげたいわ〜」
そんな恐怖の言葉を吐き散らかしながら、ヴァイスさんはスレッドをリズムよく拾っていく。
女神様、私はこれから勇者になる為に精進を怠りません。
なので格闘士だけは、あのゴリラと同じだけは、それだけはご勘弁ください。
そうでなければ私は勇者になる前に、いろんな意味で賢者になってしまいます。
「じゃ、ルークスちん、私達が先に見るわよ、覚悟はいい?」
3人が覗き込むようにスレッドを一枚一枚捲っていく。
パサッパサッ、パサッ。パサッ……。
(なんだろうな、俺的には剣術士か暗黒魔導士がいいな。カッコ良いいし)
……パ、ッサ。
三人の顔がスレッドを捲るごとに曇っていくのが対面越しに分かった。
(もしかして女神様が俺にくれたであろう勇者になる素質にビビってるのか?)
…………パッッッ…サ。
「ありえないわ」
「これはある意味、私よりレアかもねー」
「そんな、ルークス……。」
「どうでしたか、俺の素晴らしき適性とやらは!まぁ勇者になるべき人間なので、皆さんが驚くのも分かりますが、少しオーバーリアクション過ぎやしませんかね?」
そう言うとまた三人の表情が雲がかった。
「ルークス、落ち着いて聞いてね。」
「あなたは全ての適性が”F”だったわ」
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