「――――オラッ!!」
辺り一面に可視化出来るほどの衝撃波を発生させ、渾身の右ハイキックが綺麗な弧線を描いてモンスターを眉間から破壊した。
しかしここで問題発生。
初めての実戦、キアが喰われる焦りから、あれだけシャルルさんに念を押されて注意されていのに、出力の計算をしなかったのだ。
「あ……やば」
まるで遺言の様に儚く諦めの成分含んだ言葉を残して、俺は樹齢600年はあるであろう大木に激突した。
「……ル、ルークス!?」
「いってて……」
目の前で起こった一瞬の救出劇。
大歓声をあげて盛り上がるわけでも無く、皆状況を理解するために首を傾げていた。
「――ルークスちん、あなた一体……」
ヴァイスさんは、俺の踏み込みで抉れた地面を目を丸くして呟いている。
「誰かイフラルの手当てを! アタシの回復魔導じゃこの大動脈出血は止められないの! 適性B以上の人は!?」
どうする。回復魔導か、今の俺なら出来る可能性はあるが、流石に命の掛かった状況でぶっつけ本番はリスクがデカすぎる……。
「あら、女の子を果敢に救った後の英雄とは思えない顔ね、坊や」
「シャルルさん!! ってどうしたんですかその体!?」
キアが驚くのも無理もない、あのシュメイラル一の回復魔導士が、何故か傷だらけで出勤してきたのだから。
「いつにも増して香水臭いあんたの傷のことは後で聞くとして、早くこの子を助けなさい」
「あらー、満を辞した第二の英雄の登場なのにヴァイスひどーい」
「ま、さっさと終わらせてお酒でも飲みたいわねー」
昨日傷の痛みか、ヴァイスさんに命令されたことが気に障ったのか少し気だるそうに詠唱を始めた。
「静謐なる我が神よ、真に在りし姿を造出せよ 『回復魔導 翠回』」
地面に赤い絨毯を編むように広がっていた血液を、一滴残らずイフラルの体内に還していくシャルルさんは、さながら慈悲深く領民を愛する女神と錯覚するほどだった。
「このまま安静に一時間も寝ていたら起きると思うわ」
この一言を皮切りにここにいる全員の歓喜の心が爆発した。
「すげーーな兄ちゃん! あんた無適性とか言うからどんだけ弱いかと心配してたけど、あんだけつえーなんてよ!!」
「そーだそーだ! イフラルの奴が『今世紀最大の雑魚が今日からギルドに入ってくるから遊んでやろーぜ』なんて言うから騙されちまった!」
覚悟はしていたがなんて言われようだ。と頭をガックリ地面と平行にしている俺に、キアが少し乱暴に抱きついてきた。
よほど怖かったのだろう、いつも気丈に振る舞い周りに気を遣ってるキアが人目を憚らず赤子のように肩を震わせ泣いている。
「……ありがとうルークス。……っぐす。モンスターに食べられそうになってルークスと目があった時、初めて『死』を感じたの。その恐怖の感情からルークスが助けてくれた時、嬉しかった」
「本当にあの時のルークスの後ろ姿は男らしくてカッコ良かったよ!」
しかし、この時俺には邪悪な心が芽生えていた。
抱きついているキアの山々と俺の胸板がピッタリくっつき、ゼロ距離のお見合いを始めている……!
まてよ。
女性は心を痛めた後、それを癒すために異性を求めてしまうと聞いたことがある。
うん。聞いたことあるよね?うんうん。あるはずだ。
それならだよ?
もはや流れならどさくさに紛れて『キス』とかできるんじゃないか?
シャルルさんの登場で錯覚していたが、改めて見てみるとキアも中々いや、上々のスタイルの持ち主なのだ。
それに加えて深紅のサラサラショートヘア、これまた深紅の大きな瞳、桃色に輝く唇。
これは俺のファーストキスの相手は……。
「はいはいキアちん。イチャイチャはこの辺でおしまいよ、ルークスちんには聞かないといけないことが山ほどあるんだから」
このゴリラめ。俺が一生キスできなかったらお前を呪うと心に決めて事情を説明した。
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