「ルークス、ここはあたしに任せておばちゃん達を連れて逃げて。街のみんなも避難させないと」
――マジかよマジかよ。どーーすりゃいい!!
「おおおぉー? 華姫様がやる気になっていらっしゃるようだぞぉーー? リーィリンベルクよぉーー。あちし的にはちょっとまた遊んでもらっても良いけどなー」
くそが。
え、また?
――「三傑と呼ばれる適性Aを持つ者三人のうち一人しか参戦していなかったの」
「その者は華姫と戦い初めて彼女に傷をつけた者でもあるわ」――
コイツが……唯一あの戦争でララと互角に戦えた適性Aの持ち主……!!
「華姫様よぉー、あちしの事覚えてくれてるかぁーー? あの時はさいっこうの戦いが出来たよなぁーー。あんなに心が躍ったのはウルクエラ様と殺り合った時以来の興奮だったぜぇー」
ララまさかの一言
「ごめんねごめんね、お人形さん。あたしこんな泥だらけのお人形さんと遊んだことなかったと思うから人違いだと思うの!」
天然恐るべし……。
ええぇ。うそでしょー……。
挑発でわざと言ってるのか?
いやそれにしてはララが凄い申し訳なさそうにモジモジ体をくねってる。
うん。やっぱりあの子アホだわ。
心なしか、泥人形もちょっと俯いてしまってるように感じる。
やばい、こんなシリアス展開で笑ったらブラッキーナ先輩が恥ずかしくなってしまう。
笑うな。敵とはいえこの仕打ちはあんまりだ。
「――フッ」
ええぇ次は誰だよ。
てか普通に空気読めよ!
「てめぇーー! 何がおかしいリリンベルク! オメェーあちしにぶち殺されてぇーーのか!?」
人を簡単に殺せる爆弾抱えてる泥人形が人に説教している。
なんだこのカオスのな展開は。
「先輩いつも僕達に、華姫に傷をつけたって自慢してるじゃ無いですか。それが忘れられてるとは。あとこんなに離れた距離で操るボマーウォーカーに僕がやられるわけ無いじゃ無いですか」
フレアは馬鹿にしたように泥人形に向かって吐き捨てる。
「テメェーー! 帰って来たら覚えとけよ!」
なんか可哀想に。
でも裏を返せばブラッキーナでさえ認める実力がフレアにはあるってことだ。
「覚えてあげられなかったのはごめんね。でもここに居る人たちは絶対に傷付けさせないよ」
ララは少し目を細めて前屈みになる。
桃色の長い髪の毛が地面にスレスレを空中浮遊している。
「――格闘士 解放 閃光一蹴 十の五」
一度瞬きをした。
しかし次に目を開けた時には、視界には巻き上げられた砂埃だけしか写っていなかった。
光の速さはいささか言い過ぎかも知れないが、音速なんてノロマより確実に速い。
街中に響き渡る爆音が俺の耳も容赦無く襲う。
「―――っっ!! ララの奴やり過ぎだろ!」
爆風は山に消え、ララの後ろ姿が微かに見える。
「――ぇ?」
これしか出なかった。
足元にいた泥人形は消えていたが、
最強と疑っていなかったララの蹴撃を、細身の男が折り曲げた左腕一本で軽くガードしている。
「――ッ。やるねフレア」
「貴様に名前で呼ばれる度……虫唾が走んだよぉ!!」
思いっきり振り払われた左腕はララと共にその場の空気までも薙ぎ払う衝撃波を発生させ周囲のボマーウオーカーが次々と爆発炎上する。
「キャァーー!」
「だ、大丈夫じゃ母さんあのお嬢ちゃんなら守ってくれるはずじゃ」
そうだ、まだここにはこの二人が……。
「ルークス!! お願いだから早く逃げて!!」
姿は見えないが爆発の炎の中からララの悲痛の叫びが聞こえてくる。
「――っく! くそ! すぐ戻るから絶対死ぬんじゃねーぞ!!」
これは無適性者が手出しできるレベルじゃ無いと、改めて理解した俺は二人の手を引き、街に向かう坂を駆け降りる。
「に、兄ちゃんや、あの子の事が心配なら早く戻っておくれ。ワシらならーー」
「うっせぇーー!! 頼むから黙って走ってくれ!」
俺は荒い口呼吸を繰り返しながら、年の差五十はある、おじいちゃんを怒鳴ってしまった。
でも、ララが持ち堪えてるうちにこの二人だけは安全な場所に避難させる。
それが男のプライドを捨てまで、女の子一人を戦場に置いてきたクズでどうしようも無い無適性者の唯一の存在理由だからだ。
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