食事も終わり、薄暗く埃っぽい部屋に別れ男二人で就寝する。
「あああー疲れたなー。明日もローファストフィッシャーみたいなモンスターと戦うなんて。気が滅入るな」
と、あのテーブルでは威勢良く引き受けたクエストにビビってしまう。
「そ、そうですね、疲れてしまいますね」
「今日は早めに寝とこう」
そう言うと、5畳ほどの狭い部屋から灯りが消えた。
三時間は寝ただろうか。
深夜に尿意で起きてしまった。
「うぅぅー、さみーー。やっぱり山岳地帯の気温差は凄いなんだな、さっさと終わらせて部屋に帰りたい」
ふと窓の外を見る。
そこには、月明かりに照らされた純白のローブを纏った、女神の様なたたづまいのララが岩のベンチに腰掛け、ゆっくりとした鼻歌を歌いながらを夜空を眺めている。
普段のララとは全く印象が違い、妖艶で、艶やかな女性を体現しているようだった。
「あれがララ……?」
俺は何故か話しかけることが出来ず砂っぽい部屋に戻った。
――翌朝。
「パーティー諸君! おっはよーーございます!!」
ララの突然の朝礼が狭い部屋を何回も反射しながら俺たちの無防備な鼓膜を襲う。
「ううぅー。朝から元気だなお前は」
朝日に照らされ、空気中の砂が太陽光線を跳ね返している部屋は幻想的に思えたが、視線の先には、ララが準備万端と言わんばかりに腰に手を当て仰け反っている。
「ほらほら、おばちゃんが朝ごはん作ってくれてるんだから早く食べるよ!」
さすが栄養補給となると、別人のようにキビキビ働くな。
そう思いながら眠たい目とほぼ稼働停止状態の脳を、気合いで動かすため仕方なく起き上がった。
「あら! もう起きてこないのかと思ったわよ」
そんな皮肉めいた言葉をかけつつも、アリバナさんは美味しそうな朝ごはんを作って待っていてくれた。
「あれひとつ足りなく無いですか?」
「ああ、あの人は班長だから出勤が早いのよ。二時間前にはもう家を出たわ」
あの爺さんでもしっかり働いているんだなと心の中で褒めてあげた。
「よし、お腹一杯も睡眠も十分に摂ったことだ。そろそろクエストに向かうか!」
また俺たちは軽く円陣を組み気合を入れ、アリバナさん家を後にした。
街の人に道を聞きながら、ココモア大洞窟の坑道にやっと着いた。
横三十メートル、縦十メートルはある巨大なトンネルには無数の分岐ポイントが設置されたトロッコのレールが暗闇に向かって何本も伸びていた。
煤で真っ黒になったトロッコに顔を黒く塗りつぶした職人や、鉱石、魔石などが大量に乗せられて運ばれている。
「昨日、遠目から見たのとは迫力が違うな……」
思わず息を呑んだ。
「お仕事中すみません、ローフィーさんはどちらにいらっしゃいますか?」
工業都市の雰囲気に圧倒され、さすがに謙りすぎにも思える口調で尋ねる。
「お? アンタらがローフィーさんが言ってた護衛の人たちか! 付いてきな、何も知らねー素人が入ると危ねーからよ」
そりゃそうだ、こんなところで交通事故を起こしても多分保険はおりないし、キアの店のお代は一生払われ無いままだ。
ガタイが良く、頭に白いタオルを巻いた男らしい職人さんの案内で坑道を進む。
所々にランプが吊り下げられてはいるが、少しでもランプの射程外に離れると闇の世界に迷い込んだ気分になる。
枝分かれを繰り返すトンネルは進めば進むほどに道幅が狭くなり、進みづらくなってくる。
「ルークスルークスー。あたしの可愛いローブが真っ黒になっちゃってる!」
「ワガママ言うな、俺なんて顔中煤だらけなんだ」
「た、たしかに。これは何というか、か、過酷な作業現場ですね」
「ハッハッハッ、確かにきつい現場ではあるけどやりがいはあるし、結構金の払いも良いんだぞ! 最近みたいにバンバン、モンスターさえ出なけりゃ最高な職場だね」
やはりローフィーさんが言ってた通り、モンスターの被害は拡大しているのか。
後ろからフレアの慌てた声がした。
「モンスターです! やばい殺されちゃう!」
「フレア、ここはあたしに任せて欲しいの!」
そう言い、ララは暗黒魔道の詠唱を始める。
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