「者ども! 動くな! 我々は王立憲兵騎士団の者だ!」
歓喜の街に仰々しい男の声がこだまする。
白馬に乗り,銀色の鎧を装着している男に、夜明けの日差しが眩しく反射する。
それが二十名以上は居るだろうか。少し光景は幻想的にも感じられた。
「あれは……王立憲兵か。使役鷹の知らせを受けた近くの駐屯地から来たようじゃな」
良かった。憲兵が来てくれたら一安心だ。
「シュメイラル随一の鉱山で何故このような事が……。おい! ここの責任者はおるか!」
ローフィーさんが皆の前に出る。
「私は王立憲兵騎士団 第二百九支部領長 クリス・ジャイリスだ」
偉そうに名乗る憲兵にローフィーさんが身分を明かす。
「憲兵様、私はシュメイラル国王 フェリサル・エリア・インベラーネ様よりココモア大洞窟の採掘責任を任ぜられております。カライス・ローフィーと申します。以後お見知り置きを」
深々と頭を下げるローフィーさん。
それを見た憲兵は大声で喚き散らす。
「この状況はどうなっている!? なぜココモア大洞窟のような国境に面している訳でもない場所でこんなにもの被害が出る! 説明しろカライスとやら!」
説明は俺がして欲しいものだ。
なんで,この洞窟でこんなにものモンスターが出現しているのに、立派な装備をしていらっしゃる憲兵様が退治せずに、ギルドに任せているのか。
「はい,憲兵様。最近のモンスター出現に関する騒動はご存じでしょうか? 本日その騒動の親玉と思しき者と遭遇。その際我々の護衛に当たっていた、この方々が見事撃退してくださったのです」
そう言い、俺とララを指差し紹介するローフィーさん。
「撃退? それならばなぜこのような被害が出るのだ!」
正直まずい状況だ……。モンスター出現の元凶三であるブラッキーナは撃退は俺達の功績だが、フレアは元々、俺たちが呼び寄せた怪物だ。
そしてあろう事か奴の憎しみに火を付けたのも俺だ。
そして俺はこの国というかこの世界に戸籍も無く、最近ギルドに入った得体の知れない謎の男。
……終わった。
仮に死刑と言われても、素直に輪っかに首を通している自分が目に浮かぶ。
「そ,それは……」
口籠るローフィさん。
多分俺達の身を案じているんだろう。
しかしボークスでフレアを誘ってここに連れて来てしまったのは事実だ。
「それは。俺がココモア大洞窟のモンスター討伐の仲間として、ここに連れてきた者が敵国のものであり、その者との交戦によりこのような被害を出してしまいました。責任は私個人の物です」
「――ルークス……」
あんだけ役に立たなかったんだ。
ここでララの身代わりになるくらいなんて事ない。
「敵国の者だと!? 何処の奴らだ!!」
偉そうにしていた領長様の顔色がみるみる悪くなっていく。
「オスタリア王国 三傑の一角である、復讐の瞳です」
「ば、ば、馬鹿も休み休み言え!! そのような悪魔が現れるなどありえるか!!」
領長は動揺したのか手綱の操作を誤り、白馬が前足を天高く振り上げる。
「事実です。その者に加え、モンスター出現の元凶である、同じくオスタリア王国 三傑の一角 隷属の瞳が参戦。その者達とこの場所で交戦致しました」
びっくりし過ぎた領長は馬から転げ落ち、以下団員も動揺を隠せないのか、隣のものと顔を見合わせて動かない。
「あ、あ、あの悪魔の所業でシュメイラルを震撼させた、あ、あの隷属の瞳が……」
「――で、では貴様はそのようなものを、このシュメイラル随一の鉱山都市に招き入れたのか……?」
地面に這いつくばる男は必死に言葉を振り絞る。
「はい。そこに関しては言い訳の余地もありません」
俺があそこで招かなければ、ララがこんなにボロボロになる訳じゃないし、この街に被害が出ることも無かった。
俺が犠牲になれば。
全て……
「あーあー。君には失望したよルークス君。なんで君たち人間はそんなに自己犠牲なんかに美徳を感じるのか、僕にはさっぱり理解できないねぇー」
空色の髪の毛を、なびかせた龍がそっと口を開く。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!