「貴様がこのままだと、ララ・ダスティフォリアは数ヶ月後――死ぬ」
なん……だって?
「どういう事だ……?」
涼しいを超えて普段なら寒いと感じるはずの空間に居ながら俺は体中から汗が噴き出てくる。
「そのままの意味だ。貴様はあの女神からダスティフォリアの手助けをするように言われている。しかし肝心の助けの内容を貴様は知りもしない」
「そ、それは……ララが自分から話してくれるのを待っていようかと思って」
「――フフ……フフフ、ホォッッーーホッホ!」
「何がおかしい」
「すまない。貴様の呆れるほど能天気で、極度の楽観主義者の考え方に感銘を受けただけだよ。ここまで頭が回らんとはな」
不敵な笑みを浮かべてララは話し続ける。
「あの性悪な女神だぞ? そんな甘っちょろい設定で満足するわけがないだろう」
お前もな! と言いかけたが確かにコイツのいうことは正しい気がする。
「じゃあお前の口から今聞かせろ! 勇者になった俺が果たすべきララの願いって奴の内容は知ってるんだろ!?」
不本意ではあるが仕方ない。
ララの命がかかってるんだ。しのごの言ってる余裕は無適性者の俺には無い。
「だからもう少し頭を使って言葉を発しろアルフレッドとやら。あの性悪女だ。私から言うことは出来ない誓約になっている」
また誓約か。くそ。
待てよ。
何で俺にはその誓約とやらが無いんだ?
いや、俺が知らないだけなのか……?
「じゃあそもそも勇者って何なんだ! お前みたいに華姫のようにオスタリア人を殺して勲章物の活躍をしたらいいのか!?」
本来のララには決して言わないセリフを、イライラした口調で目の前の女にぶつける。
「それだ。アルフレッド。貴様は漠然としか勇者を目指していない」
「数多の人を殺せばいいのか? 扉をコントロール出来たら勇者になれるか? コントロールして生み出された、せいぜい適性Aの力で勇者になれると本気で思っているのか?」
返す言葉が無かった。
俺が無意識に逃げていた部分。
『勇者=強い』と言う固定概念に縛られ、本質的な勇者を知ろうとして来なかった。
「貴様が勇者の定義を知る事こそがダスティフォリアの願いを叶える最重要なファクターだ」
勇者の定義を知ることがララの命を救うことに繋がる……。
「そしてその定義をダスティフォリアは知っている」
やはり強引にも聞くしか無いか。
拳を目一杯握り締める。
「お前はその願いを叶えてあげたいと思うのか?」
目の前の女あまりに突然の質問に目を丸くし、一拍おいて笑いながら答える。
「フッ。そうだな」
「あの願いの最大の協力者であり、最大の敵でもある。と言うところだな」
コイツも同じ性悪なだけあって、人のことを考えない抽象的な発言が大好きらしい。
――「呪いなの」――
そうだコイツなら。
「お前ら、あるいは俺達は歳を取らないのか? 十九歳で同い年のお前が8年前から容姿が変わらないのはなぜだ?」
女はベンチの背もたれに寄りかかり足を組みながら答える。
「我々はこの世界に転生させられた人形のようなもの。あの女神は我々がどう考え、どう判断し、どの運命を辿るかを見ている」
「戦闘など自分の意志が関わる生き死には容認するが、老化、老衰が運命の決定に影響を及ぼす様な真似は決してしない。奴の人形であり続ける事こそが我々の呪いだ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!