オールFでも実は本気出したら無敵なんです!!〜美人女神にお願いされたら異世界だろうが行くしか無い〜

長縄 蓮花
長縄 蓮花

10話 カナディール宣告

公開日時: 2022年6月3日(金) 17:25
文字数:2,162

「あたし“ララ“! ララ・ダスティフォリア!」

「お家もお金もなくて困ってたの!」


 それを聞いた瞬間、何故か心臓の鼓動速度が倍になった。

 ついにララに会えた高揚感だけではない。

 他に何か、俺の知らない奥底から湧き出すものだ。


 この子の力になってあげたい。漠然とそう思った。



「ではララ様、私の家でよろしければ今晩お泊まりになりますか?」

「え! ほんとにほんとにいいの!? ご飯も食べていいの!?」


 喜びようからして、数日ぶりの食事なのだろう。

 四歳児がママにクッキーを焼いてもらったように純粋な喜びを涙目で訴えている。



「ええ、構いませんわ。しかしこの男と少し話しがありますので、少しお時間をいただきますわね」

 と言うと、シャルルさんは俺の腕を引っ張って、ララと距離を置いた。



 あれだけのことがあった後で正直、何を話していいか分からなかった。

 するとそんな俺の気まずさを察知したのか先にシャルルさんの口が動いた。


「アナタの潜在能力がここまでのものだとは思わなかったわ。あんなにアナタを追い込んで、いざ力が解放したら抑えられませんでしたなんて、ヴァイスに聞かれたら笑われるわね」


 珍しく自虐的な発言をするシャルルさん。


「しかし、アナタの力には必ず代償があり、制限があるはずよ。それが分かるまでは、力は解放しない事」


「やむを得ず解放するとしても、必ず感情と力のコントロールをするように意識しなさい? 分かったわね?」

 その忠告はいつもの色気たっぷり増しの色魔なお姉さんというよりは、あまり帰省してこない息子を心配する母親のような温かみがあった。


 この力が有れば本当に勇者に。あの子の力になれるかも知れない。



「――まぁこんな感じね」


 話を聞いていた全員が感嘆した目でこちらをマジマジと見つめている。

「あーー。でも普段はこの力は使わないし、力の操作もまだまだなんで皆さんのお力にはなれないかもですが……」

 半分謙遜、半分事実を配合した言葉だった。



「ちょ、ちょいまち!てことは、ルークスは元々最高級の適性を持っていて、その扉と呼ばれるもので、普段は蓋をしているから、昨日の適性診断ではあのスレッドが出来上がったと言うこと?」

 キアは混乱した頭をなんとか正常に戻そうと質問する。


「そうね。今まで通り解放無しの坊やは無適性の雑魚と考えてもらっても構わないわ」

 構わなくねーよ! 俺の尊厳返せよ! 泣いちゃうぞ! と思ったがそれが無適性者に対する、もっとも考え方だった。



「まさか『華姫』がそんな少女だったなんて驚きだわ。」

 ヴァイスさんが腕を組みながら呟く。

「ヴァイスさんとシャルルさんはララのことを知っていたんですか?」


「ルークスちんはシュメイラルとオスタリアの戦争に関しては知ってるかしら?」

「今朝ルシアさんに少しだけ聞きました。戦争孤児のルシアさんをヴァイスさんが引き取ったって」

「そう。ルシアを引き取ることになったのも全てがあの戦争が原因よ」

「ララが活躍したっていう奴ですか?」

 ここにいる全員の顔が、何か忘れたい記憶を掘り起こしたように苦い表情になる。

 当然、キアもシャルルさんも同じように悲しい顔をしている。



「八年前、ある平原の見回りをしていたオスタリア王国の兵士三人が何者かに殺された。その後、オスタリアは援軍として一個師団を派遣。そしてその一個師団もあっけなく壊滅。それを受けてオスタリアはシュメイラル王国の暴挙だと批判し、侵攻を開始したの」


「その平原がカナディール平原と呼ばれていたから、オスタリア王国がその後行ったシュメイラルに対する宣戦布告の事をカナディールの宣告と呼んでいるわ」

 ヴァイスさんはいつものキャラに反した悲しい顔で淡々と話し続ける。


「宣戦布告後、言いがかりをつけられた形となったシュメイラルも当然反発したわ、そして国力総動員の全面戦争に発展した。私やシャルルといったギルドメンバーはもちろん、キアやルシアの両親のような一般人も巻き込んでね」

 

 キアは寂しそうにずっと俯いている。

 この反応は多分、キアもルシアさんと同じようにご両親がもうこの世に居られないのだろう。

 こうゆう時かけてやる言葉が見つからない自分が情けなくなり唇を噛み締めた。


「その戦乱で活躍したのがあの『華姫』だったのよ、どこから現れたのかは全く分からず、どこの部隊かも分からない。適性も誰も知らない、一際謎めいた伝説のような人だった」


「一つだけ分かっていた事は、彼女は最強だったという事だけね」


 あの天真爛漫な少女のララからは想像もつかないが、俺を止めたあの力があればそれも容易なのだろう。


「それで、戦争はどうなったんですか?」

「お互い多大な犠牲を払った戦争は、オスタリアが戦線から撤退したから“シュメイラルが勝利した“と私たちは主張しているけど、オスタリアは軍事的判断での撤退としていて、実際はまだ休戦中なの」



 そんなの普通に考えてシュメイラルの勝ちだと思うし、オスタリアの言い分の負け惜しみ感は否めない。

 これで負けてないと言い張るのは子供の鬼ごっこでタッチされたくせに『今のなし〜』と鼻水垂らして言ってるくらいにはみっともない。



「でも、オスタリアがそう言い張るには理由があってね」



「三傑と呼ばれる適性Aを持つ者三人のうち一人しか参戦していなかったの」

 


「その者は華姫と戦い初めて彼女に傷をつけた者でもあるわ」


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