「水神様、我々はこれで失礼します。無礼を働いたのは事実ですが水害、干ばつの祟りだけはどうかご容赦を」
フレアはまたも深々と頭を下げる。
「ふふっ。心配しなくても僕の私思だけで操る事は不可能だし、もし出来ても母様に怒られてしまうだけだよ。あと僕は厳密には神様じゃなくて天龍なだけだよ」
「安心いたしました。我が主人にもそのようにお伝え致します」
「ではルークスさん。私もこれで失礼致します。先程の竜神様使役の件、私はあなたなら可能かも知れないと微かに信じてますよ」
「先程の爆発時……。華姫と同じマナ回廊をお持ちのようだ」
マナ回廊……?
俺達の扉がバレたのか?
……洞窟で俺が倒れかけたあの時か。
「あと、僕の剣を持っている酒場の娘には危害を加えるつもりは無いのでご心配なく」
「おい答えろ! リリンベルク・フレア・ラスタネーレ!! お前は何者なんだ!!」
フレアは癖毛の金髪を右手でゆっくりと掻き上げ口を開く。
「私はその通り、リリンベルク・フレア・ラスタネーレ」
「オスタリア王国三傑の一角にして復讐の剣を冠した者です」
やはり……フレアがあの三傑……。
横殴りの豪雨の中、口上を述べきった美麗な男は最後にララに憎しみの眼差しを向ける。
その目には憤怒と憎悪が入り混じる。
「ララ・ダスティフォリア。お前が全て奪ったんだ。僕は必ずお前から全てを搾取する。幸せ、安寧、家族、友人、恋人。全てを奪い去った後、最後に空っぽのお前を殺す」
そう言い残したフレアの後ろ姿は豪雨の闇へと消えた。
――「……ララ。」
天真爛漫でいつも周囲を明るく照らすララの目には雨か涙かは定かで無いが、確実に光るものが浮かんでいた。
三傑二人との激闘。
多分キアの店に預けた剣を扱うことがフレアの真骨頂なのだろう。
ブラッキーナがどこに潜んでいたかは分からないが、使役物との距離が離れれば離れるほど威力は減少するらしい。
この二つを総合的に考えると、奴らはまだまだ全力を出していない。
その点こっちは俺や街のみんなを救ったボロボロのララに、何も出来なかった最弱無適性者と、真の救世主アクアリウム様だ。
どう考えても一人だけレベルに見合ってない奴がこの場に居るのは火を見るより明らか。
「――なっさけねぇーなぁ……本当に俺は。」
ブラッキーナの言う通りだった。
俺は足を引っ張りにわざわざ戦場に戻ってきたんだ。
結果ララの負担になり、助けると誓ったはずの女の子にどれだけ救われれば気が済むんだ。
「違うよ違うよ。ルークスは悪く無いの。全部あたしが悪いの」
「いやいや。普通にルークス君が悪いと思うなー」
事の顛末を見ていたアクアリウムが口を挟む。
「君さー、ダスティンの事助けるのが君の役目なんじゃないのかなー?」
「――!!」
「なんで、アンタがそんなこと知ってんですか?」
この事はララとシャルルさんしか知らない超極秘の事情だ。
それならば考えられるのは……。
降り止まぬ雨に打たれながら、青白い龍に問いかける。
「まぁ、ゆっくり話そうか」
その直後、黒々と上空を広がっていた雲は消え去り、沈みかけの月がまた姿を現し、辺りに柔らかな光をもたらす。
「ちょっと待っててねー。この姿になるの久しぶりだから……詠唱なんだったっけ?」
この姿?
もしかしてこの龍はもっと凄い姿になれるのか?
これより凄いってそれはもう本物の神様だぞ!
「あっそうだ」
「我成るべき己の姿形を顕現する者なり 神聖魔導 『形成変化』」
天空を舞う青白い龍の鱗が逆立ち眩い極光を放ち、周囲はまるで昼間のような明るさだ。
怒り狂ったアクアリウムに殺されるのか?
俺なんかが太刀打ちできるはずも無いのに……!
「――じゃーーーーん! これが僕の形成変化だよー! 見て見てーー!」
「ーーマジかよ」
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