「――じゃーーーーん! これが僕の形成変化だよー! 見て見てーー!」
その眩さに思わず手で目を覆わずにはいられなかった。
光はどんどん小さくなっていく。
その光の塊は最後には、俺達の目の前に収束した。
数秒後、徐々に視覚を襲う光線が弱まる。
そして、手を下ろそうとしたその時。
さっきまでしょんぼりしていたはずのララが大声で叫び出す。
「ああーー!! ダメダメ! ルークスルークス絶対まだまだ手を下ろしちゃダメダメだよ!!」
普段の倍以上の復唱単語だな。
何をこの華姫様はそんなに慌てているんだ。
俺は注意に一切耳を貸さず、腕を下ろし前方を確認する。
「――……ゎーぉ」
目の前に現れたのは神でもドラゴンでも無い、可愛らしい普通の女の子だった。
水色のセミロング丈の髪、少し幼さが残るが可憐な顔つき、年齢は俺たちと同じかちょっと下ぐらいか……。
初対面の人と会った時は目を見て挨拶しましょう。
これは節度を重んじる俺も大賛成の礼儀だが、この時ばかりはそうも言っていられなかった。
眼前には、さっきまで確実に無かったはずの山脈が突如現れ、山頂は桃色の雪でも降ったのだろうか。
桃色の雪化粧が施されている。
元戦場にゆっくりと沈黙が流れる。
俺の目線で気づいたのかは分からないが、今まで偉そうな口調で物事を述べていた水神様の顔がみるみる赤く染まる。
しかし、俺は山頂から目線を外す事が出来なかった。
勘違いしないで欲しい。
俺は勇者を目指す者。
勇者とはあらゆる者の頂に君臨する者だ。
即ち、いかなる時も上を見て頂点を目指すのが定石。
そして、現在は戦いが終わったと言ってまだまだ油断は出来ない状況だ。
もし、目を伏せて前方不注意で、残敵にやられたとあっちゃー助けてくれたララに顔向け出来ないだろ? うん。そうそう。
何より生物学的に雄に分類される俺にとっては当然の行動なのだ。
少ないチャンスを活かさない者が勇者を目指すなど、ちゃんちゃら笑える話だ。
ルークス・アルフレッドに悔いは無い!!
という言い訳を、格闘士を解放したララの右ストレートを一応視界には移しつつ考えていた。
「ふっ……男ってやつは。ーー!!」
何故かカッコつけながら、渾身の一発をもらった俺は岩山の岩壁にめり込んだ状態で目を覚ました。
ララのローブを肩から掛けられ、大声で泣いている水色の髪の女の子。
それを俺から隠すように抱きしつつ頭を撫でるララ。
「ううぁぁぁぁーーーんん! こんなんじゃもうつがいに行けないぃぃーー!! もぉーー森に帰りたいいいぃぃ!」
人間で言う、『お嫁にいけなーい』のドラゴン版って感じか。
てゆーかアナタが勝手に『形成変化《クラスチェンジ》』とか言い出して変身したんでしょうが。
こっちはいきなり裸体を見せられて、挙句格闘士に殴られたんだぞ!!
……ありがとうございます。
「ルークスサイテーだね。あたし目を隠してって言ったのに! もー知らないからね」
ララはジト目でこちらを軽蔑している。
「待て待て! いきなり目の前に光の塊なんて落ちてきたら、普通見たくなるのが人間ってもんだろ!」
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