「フレア、ここはあたしに任せて欲しいの!」
暗黒詠唱を始めるララ。
俺の身長ほどある大きな体。
松明の光を綺麗に反射させる、鋼の甲羅を持つ十本足の蜘蛛の様な化け物。ぎょろっと出た眼が気持ち悪い。
「待てララ! こんな所でお前の暗黒魔導なんて打ったらトンネルが崩壊してしまうぞ!?」
ララの暗黒魔導だ、おそらくシャルルさんや、フレアの比にならない威力に違いない。
「大丈夫大丈夫! 先生の力を信じなさい!」
「これが調整だよ、ルークス君」
「空間を揺らす神々の巳技よ。我目の敵を封じたまえ 『暗黒魔導 圧滅空所 十の一』」
ランプの薄明かりでよく見えなかったが、ララの詠唱後モンスターの体が一瞬で圧縮され、体液が八方に撒き散らされた。
「よ、よかった」
安堵の声が思わず流れ出た。
「兄ちゃんたち! まだ居るぜ!」
案内人の叫びと共に、コウモリによく似ているが体長は皆が想像するデカさの六倍はあるだろうモンスターが、通路一杯に羽を広げて猛スピードで迫ってくる。
再びララが先頭に立ち、化け物コウモリの大群に立ち向かう。
しかしこの薄明かりだ、超音波の跳ね返りで全ての物の位置が把握できるコウモリと違い、俺ら人間にはそんなびっくり芸当は出来ない。
「フレア! その松明をこっちに向けて!」
フレアは持っているたいまつを慌ててララと迫り来る化け物の方向に向ける。
こんな微々たる光……。ちょっと視界が良くなってもララに見えている範囲は目の前一メートルが限界だろう。
「シャァーーシャーー」
コウモリの気色悪い鳴き声がだんだん迫ってくる。
「ルークス見ててね」
「――格闘士 解放 『百烈の拳 十の三』」
「――やああぁぁ! せい! はああぁ!」
こちらに来るはずのコウモリが何か見えない壁にぶつかり、壁の毒の効果か何かで気絶しているようだ。
ララの拳が止まって見える。高速に、そして正確にララの拳が標的に向かって発射され続けている。
モンスターの死骸が真下にどんどん落ちていく。
「す、すごい、ララさんにこんな力があったなんて……」
フレアはララの異常な戦闘力に驚き見入っている。
こうして狭い暗闇での戦闘は数十秒という短い時間で終了したが、俺を含めた皆がララの力に感心し、敬服したことだろう。
「はいっ! これがあたくしララ・ダスティフォリア先生の授業でした!」
「ーーいや! ……あんなんでわかるわけねーーだろ! あいにく俺は天才肌じゃないんだよ!」
するとすかさずララは不貞腐れて切り返す。
「ええーーだってそれはあたしがどうこう出来る話じゃないし」
コイツは人の立場になって教えてあげることが出来ない鼻につく天才タイプらしい。
「ま、まあここはララさんが頑張ってくれたんですし、け、喧嘩はやめましょうよ」
この暗いトンネルでさえ何故か顔がまっさらなイケメンが間に入り、仲裁する。
ララはモンスターの体液で汚れた手を服で拭いながら、プンスカしながら奥へと一人で消えていった。
「お、おいねーちゃん! アンタが強いのは分かったが、明かりも持たずに奥へ行くもんじゃーねーよ!」
案の定数秒遅れて、ゴンという鈍い音とララの痛みを訴える悲痛な叫びが聞こえてきたのが少し嬉しかった。
「ローフィーさん! アンタが言ってた護衛の方達を連れてきたぜ!」
狭いトンネルを抜けるとそこには、数十メートルの高さのどデカい空洞があり真ん中に大きなエレベーターの様なものがある。
そして空洞の側面には俺たちが通ってきたような小さなトンネルが無数に掘られていた。
「すごいな。この規模で掘削作業をしているなんて」
「おお! 兄ちゃんたちワシの愛する職場によく来たな」
クッタクタの白いタンクトップに白いタオルをキビにぶら下げた冴えないおじいちゃんが上から降りてきて出迎えてくれた。
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