「あーあー。君には失望したよルークス君。なんで君たち人間はそんなに自己犠牲なんかに美徳を感じるのか、僕にはさっぱり理解できないねぇー」
空色の髪の毛を、なびかせた龍がそっと口を開く。
「そこの領長さんさぁー。今回の件、君たち駐屯兵団には落ち度が無かったと言い切れるのかなー?」
「なんだと?」
可愛らしい女の子を齢四十はあるおじさんが睨みつける。
「確かにルークス君が三傑の一人を連れて来たのは紛れもない事実であり、それの反省として愚かにも彼は自分だけ犠牲になろうとしている。だがそれ以前に君たち憲兵が動いていれば良かったんじゃないかなー?」
「フッ。素人の小娘が口出しできる事ではないわ」
再び馬に跨る男はアクアリウムの正論を一蹴する。
「そんな小娘ですら理解できる事が、いい年こいて見せかけの剣をぶら下げている憲兵様が分かっていらっしゃらない様だったので、つい首を突っ込んでしまいましたー」
「貴様! 誉れ高き憲兵騎士団を愚弄すると言うのか!」
両手を上げやれやれと言う表情でさらに挑発するアクアリウム。
「そうだ! このねーちゃんの言う通りだ! モンスター出現の提言書を何回あんたら憲兵に送ったと言うんだ!!」
「そーだそーだ! 事故が起きるまで何もせずに、責任だけ押し付けるのがお前ら腐った憲兵の仕事だもんな!」
両者にはどうやら相容れない大きな溝が存在するようだった。
「ええい! これ以上の愚行を犯すものはどいつであろうが王政侮辱罪で連行してやるぞ! 刑務所で一生臭い飯だけ食べて生きていきたい馬鹿者がおるなら前に出ろ!」
さすがにここまで言われては皆黙ることしか出来なかった。
そしてこっちの世界でもやっぱり刑務所の飯は臭いのかと気になった。
「――あなた達は本当に本当に国民のみんなを愛しているの? 好きなのはお金や権力だけじゃないの?」
ここでまさかのララが口を開く。
「ララ。ここは大人しくしてないと……」
俺は人の輪から前に出ていくララの後ろから小さく忠告する。
「大丈夫だよルークス。ここはここはあたしに任せて」
ここまで暴れ回ったララだ。
あの畜生領長が素直にお咎め無しの判断をするとは到底思えない。
「まぁ見てなよルークス君。あの子なりに何か決断したみたいだよ?」
「――?」
決断? 何か策でのあるのか?
「ありゃりゃ、ルークス君にはまだ難しかったかなー。この可愛い僕が説明してあげてもいいけど、それは君自身で気付くべきだねー。いやー乙女心は難しいねー」
ちゃっかり自画自賛した龍は意地悪な顔で舌をべっと前に出す。
それがまた可愛いかったのが悔しい。
「次から次へと、この雑民が。貴様らは薄汚れた格好で一生石でも掘っていればいいのだ。それが貴様らのような低俗な庶民が出来る、王国の繁栄への最大の貢献だ」
うーーわ。コイツも歪んだ人格だな。こいつの下で働いている後ろの奴らも大変だなと心で評価してみる。
「そんな訳ない! ここでここで働いている人たちは優しくて、暖かくて、仕事に誇りを持ってる立派な人達だよ! あなた達の心の方がよっぽど汚れてるよ!!」
朝焼けの工業都市に少女の心の叫びが反響していく。
「もう良い。貴様らは王都にて裁いてやるわ。この朝日が直接見れる最後の太陽だと思って存分に見ておけ」
てことは……一生地下牢生活が決定?
これで俺の異世界生活もお終いだ。
――なんて悲観的にはなっていなかった。
あのタイミングで出て行ったララの覚悟した目と、それを察したアクアリウムの言葉が俺の地下牢行きの可能性が極めて低いことを示唆しているからだ。
「この空色の髪の女も一緒に連行しろ。そうすればまた捕縛賞与金が増える」
薄汚いのはララの言う通りコイツだ。
多分危険の伴うモンスター狩りより、こうして社会的地位を利用した、度が過ぎた保安活動の方がよっぽど儲かるのだろう。
ギルドに討伐クエストが回ってきたのもこいつらの怠慢が原因だろうな。
俺、ララ、アクアリウムはそのまま、手に重々しい枷をつけられ連れていかれる。
「兄ちゃん! あんたらは何も間違った事はしとらん。むしろわしらの命の恩人じゃ胸を張って裁判に出るんじゃぞ!」
フッフッフ。だーーいじょうぶですってローフィーさん。
俺には何か策がありそうなララ様と何かに気づいた水上様がいらっしゃるので!
何の心配もありません!
――ガシャン
「そこで大人しく刑の執行を待っていろ」
「――。」
「――。」
「――……なんでだ」
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