「どーしたの? あたしより先にお風呂行きたいの?」
「それならそれなら! あたしは皆が入った後に入るから心配しなくて大丈夫だよ! 男の子が入った後は汚いなんてあたしは思わないから!」
大抵の思春期の女の子ならそんな酷いことを思うのだろうか。
心に少し傷を負った後、話を続ける。
「扉のことはフレアにはバレないようにしよう。戦争で活躍した華姫の話題は避けたほうが良さそうだ」
「そーだね。戦争の話は私も苦手だし」
「あと、体も触られたらダメだぞ。シャルルさんみたいに勘が良い奴だと困るしな」
ララはウンウン首を縦に動かす。
「で、なんでララは今日最後のお風呂で良いんだ? 性格的に一番先が良いとばかり思っていたんだが」
すると、ララの顔が真っ赤に燃え上がり爆発寸前の顔で俺を責め立てる。
「信じられない! ルークスがここまでデリカシーとか思いやりがない子だと思わなかったんだよ!! もう知らない!」
何が何やら。
女の子の扱いはガラスのように慎重にする必要がありそうだな。
「アッハッハッハ。あんた、目つき悪いけど頭は良さそうなのに鈍いねー。あんなこと言ってたら一生独り身だよ?」
アリバナさんが馬鹿にしたように居間に近づいてくる。
「独り身ですか。アリバナさんはどうしてローフィさんと結婚しようと思ったんですか?」
「あら、あんたがそんなロマンチックな話をするなんてちょっと驚きね。でも何かしら、その人為なら自分を犠牲にしてでも何かしてあげたいと思えるかどうかじゃないかしら?」
やはり推定結婚生活三十年のオバ様の意見は重みがある。
「フォッ、フォッ、フォッ、こんなシワクチャでも母さんにそこまで言われると照れてしまうのー」
いきなり薪を持ったお爺さんが笑いながら現れる。
ローフィーさんに聞かれた恥ずかしさから、アリバナさんもブツブツ言いながら年甲斐に無く顔を真っ赤にしてキッチンに戻った。
「兄ちゃん、あんた好きな子でもおるんか?」
答え方が難しい質問だ。確かに正直ララのことは気にはなるが、これが親御心や、妹の面倒を見る兄のような気持ちと相違が無いか? と聞かれたら分からない。
ましてや記憶の曖昧な俺だ。この感情は俺では無い場所から生まれる物かもしれない。
「まだなんで気になるか分からないんです」
するとローフィーさんは掠れた声を目一杯張り上げ笑った。
「想い人を好きな理由なんて分かるものがおるものか。顔がいいから。スタイルがいいから。みたいな理由で好きになるなら、とっくにわしは母さんと一緒におらんじゃろ?」
さすがに同意するわけにはいかなかったが、この夫婦の存在が説明できないこと自体が、好きという感情が言語化不可能である何よりの証明なのだろう。
「あんたにもきっと分かる時がくるわい」
少しだけ胸につっかえていた針が浄化される感覚になれた。
――「いっただきまーーす!」
ララの大号令と共に食事が始まった。
五人で囲むには少々狭いテーブルに、ふかし芋、鶏のグリル、薄味の野菜スープ、パンという質素ではあるが心温まるラインナップ。そこに数時間前激闘をしたばかりの魚が並ぶ。
あの砂魚。食べれるのか……。
「明日からはわしら炭鉱で働く者の護衛をしてくれるんじゃよな?」
「はい、皆さんの護衛とその他のお手伝いが俺らのクエスト内容です」
ローフィーさんが歯切れ悪そうに事実を述べる。
「実はな……最近モンスターの出現率が大幅に上がっているんじゃ。誰かの仕業では無いかと疑うほどに……じゃからアンタらが駆け出しのギルドメンバーならそのクエストを続行せんほうが身のためじゃ。」
それならクエストの難易度が跳ね上がる。
俺たちはまれに出るモンスターの退治が依頼内容だ。ましてや俺は初クエストだし。
「大丈夫だよ! あたしたちがそのモンスター倒して来てあげるから!」
「こんなに美味しいご飯を食べさせてくれた、おばちゃんたちの街に意地悪する奴らなんてあたしがやっつけてあげる!」
威勢良く言い張るララ。確かにここまでして貰って、モンスターが多いのでクエスト行かずに帰りますなんて言えるはずが無い。
「ローフィーさん。俺たちがそのモンスターを退治しますから安心してください。こう見えてなかなか頼りになる奴らなんですよ」
それを聞いて夫婦は手を取り合い静かに喜んだ。
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