「フォッ。フォッ。フォッ。元気の良い可愛らしいお嬢ちゃんじゃな。ここいらはガタイだけいい男か、それに一生を捧げる愚かな決断をしたババアしかおらんもので、あんたみたいな子が来てくれて嬉しいよ」
ジジイ。逃げろ。それを喰らったら多分死ぬぞ!
「はて、兄ちゃんどうしたんじゃ? わしの顔がカッコ良すぎて惚れたか?」
ジジイ。あんたのことは忘れないぜ。
「あんたみたいな出来の悪いジジイに一生を捧げた愚かなババアで悪かったな。先に地獄で待っててくれるか?」
「か、かああ……母さん!」
一方的に地獄で待ち合わせの約束をさせられたジジイは数発ビンタされると、その生涯に悔いはないという清々しい顔で倒れた。
「ごめんねーウチの出来損ないが迷惑かけちゃって。お兄ちゃんたちはギルドの方達かい?」
天に召されかけている爺さんの奥さんであろう。
まだ常識がある方のようで安心した。
が、
「お兄さん可愛い顔してるわねー♡」
「こんなむさ苦しいとこにこんなイケメン君が来るなんて! 顔的に北方の顔付きね。言ってくれたらこんなスッピンじゃなくてお化粧してきたのに〜」
困惑しながらフレアが、こちらに目線で助けてと訴えている。
「あの奥様。我々はこの洞窟のクエスト依頼がありシュメイラルからやって参りました。しかし、砂漠を横断中賊どもに襲われクエストの前金が強奪され、食料を買うお金が無くなり困っているんです」
のほほんとしているクセに嘘つくの上手いなコイツ。
さてはこの嘘で何人もの女性を泣かして来たのか?
「なーんだそんな事だったの、それならウチにおいでなさい! 汚いし何にも無いけどご飯と寝床は補償するわよ」
良かった、これで食料・宿問題は無事解決された。
「やったやったー! ご飯食べれる!」
「元気な子ねー。ほらあんた! いつまで寝てんの! ご飯の支度するから薪でも集めて来なさい!」
死にかけだったと思っていたジジイは、その命令を忠実に守るために街道をよろよろの体で歩き出した。
これが愛の形なのだろうか。
俺がもしも結婚したりしたらこんな犬同然の扱いを受けてしまうのだろうか。
そう将来を危惧しながら、おばさんについていった。
――「はい! ここが我が家よ!」
山をくり抜いて作られた土の壁、吊り下げられた一つのランプ、皿が数枚並んだだけの質素な台所。
お世辞にも綺麗とは言えないが、何故か懐かしい実家のような雰囲気があった。
「そして私の名前はアリバナよ。さっき出会った出来損ないのジジイが私の旦那のローフィよ。よろしくね」
「ルークス・アルフレッドです。シュメイラルでギルドメンバーとして働いています」
「あたしねあたしね、ララ・ダスティフォリア! ルークスと同い歳の可愛い女の子だよ!」
え、今の職業の説明だったの? コイツ羞恥心砂漠で落として来たんか。
「え、えっと、僕はリリンベルク・フレア・ラスタネーレと申します。現在はルークスさんとララさんとご一緒していますが、元々はし、しがない冒険者です」
「リリンベルクねー。顔もあっちの人特有の薄顔のイケメンだし、やっぱり北方民族の名前に由来するのかしら?」
「そうですね。確か母方の家系がノトウォーリスの方だったはずなので、その影響かも知れません」
「そう、ノトフォーリス地方。あなたも相当苦労したでしょうね」
何故か空気が重くなってしまったのを察知したアリバナさんは家の説明を始めてくれた。
「ささ、あなた達の部屋はここよ。男二人にしては狭いかも知れないけど我慢してね」
くそ、あわよくばララと同室の可能性もあったものを。
「ここが私の部屋よ、ララちゃんは私とここで寝ましょうね」
「はーい! おばちゃんおばちゃん優しいんだね」
「そうだねー……私達にも今のあんた達みたいな年齢の子供が居たのよ。だからかしらね」
少し表情が暗くなったおばさんは、料理を作るからと薄暗いキッチンに消えた。
「今日は色々あったから、クエストは明日からにするとして今日はアリバナさん達の行為に甘えるとしよう。ララ、ご飯食べ過ぎたらダメだぞ」
ここではボークスの二の舞にならないよう念を押しておく。
「わ、わかってるよ! ルークスの意地悪!」
楽しみに釘を刺されてたララはベーっと舌を出す。
「フレア、お前先に風呂入ってくるか? 砂漠の砂で気持ち悪いだろ?」
「そう、ですね。でも先に僕なんかが入ってもいいんですか?」
どこまで謙虚なんだコイツは。
「いーーから。俺は少しララと話があるから先入っててくれ」
「は、はぁ。分かりました」
よし邪魔者は居なくなった。
「ララ、少しいいか?」
砂っぽい居間にララを呼び出す。
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