「ほう? これは…!」
生物に袋叩きにされる[スクアッシュ]。チカラは使ってはいるものの、追いつかないレベルで攻め込まれている。
「烏合の行進か。一体ずつにしか順番にチカラを使うことしかできない[スクアッシュ]では、勝てないようだな…」
[リバース]がやめ、の合図をすると、そこにはボロボロになった[スクアッシュ]の姿があった。
「まだ半分以上、生き物は残っているぜ?」
それら全てが、要を睨んでいる。
「どうやら、[デモリッシュ]、お前の出番のようだな。あの[クエイク]はくれぐれも傷をつけるなよ?」
「パリュリュアアアアアア!」
シャチの式神だった。[デモリッシュ]がもう一度、空気をたっぷりと吸い込んで叫ぶと、生物たちは次々に破壊されていく。
「まさか! この威力、相当の式神!」
「そうだ。[デモリッシュ]は空気の振動を引き起こし、物質を分子レベルで破壊する。式神は物質ではないため、例外的に破壊されないが…。スペックも悪くないのだよ」
急な突進を[クエイク]にかました。
「ぬう、やるな!」
確かに[クエイク]が防御しきれないほどであった。だが次の一撃は軽く、簡単に[クエイク]ははね返せた。
「貴様、手を抜いているな?」
「当たり前だ。お前を破壊してしまっては、意味がない」
「くだらん。霧生は自分の命と[リバース]の存在をかけて、我と戦った。お前は我を従えようと企んでいるというのに、同じことができないと言うのか?」
「ならば、本気を出させてもらうぞ、[デモリッシュ]!」
「パリャパリャパラヤアアアアアアアアア!」
また息を大きく吸い込んだ。
「おい、[クエイク]!」
勝手に挑発したので、霧生は焦った。だが[クエイク]は、
「我に任せよ。時によっては、我が身を盾に使え」
としか返事をしない。
だが霧生も、無理矢理いうことを聞かせる気はない。[クエイク]とだって絆は育めている。何を言おうとしているのかはわかる。
「行くぞ!」
[クエイク]は式神なので、[デモリッシュ]は吸い込んだ空気を無駄に吐き出した。
「パリョアアアア!」
二体の式神が激しくぶつかり合う。その衝撃で、[デモリッシュ]の歯が折れ、[クエイク]のヒレが千切れた。召喚師にしか聞こえない轟音が、暗い校庭で鳴り響く。
「ピリオアアアアア!」
「なかなかの力だが、我には通じぬ」
[クエイク]は、地面から溶岩を湧き出させた。そしてその中に身を隠す。[デモリッシュ]は空中を泳いで溶岩をかわしたが、赤いマグマのせいで[クエイク]を見逃してしまった。
「パリャアア?」
泳いで見当をつけるのかと思いきや、[デモリッシュ]は霧生の目の前にやって来た。
「しまった!」
召喚師に攻撃してはいけないという規則はないのだ。[デモリッシュ]の狙いは、霧生本人。これは非常にマズいと、霧生の本能が大ボリュームで非常ベルを鳴らす。
[リバース]が霧生と[デモリッシュ]の間に入り込もうとしたが、霧生がそうさせなかった。
(式神では、あの破壊のチカラを防げない! おそらく式神を透過する! だから俺を狙うのか!)
「パリュアアアアアアア!」
大きく息を吸い込む。目に見えるレベルで、[デモリッシュ]の体が膨れ上がる。
「待て!」
急に要が叫んで、[デモリッシュ]の行動を止めた。
「どうした? 俺を倒すんじゃないのか? 急に止まってどうしたんだ? それとも破壊してはいけない物でも、あるのかよ!」
さっきの[クエイク]の言葉を咄嗟に霧生は思い出していた。だから霧生は、[クエイク]の札を突き出している。
「式神は、不思議な存在だ。札が破壊されれば、式神も破壊される。その逆もあるらしいな。そしてどうやら、撃ってこないところを見るに、本当のことのようだ」
今[デモリッシュ]がチカラを使えば、間違いなく霧生を跡形もなく吹き飛ばすことができるだろう。しかしそうすれば[クエイク]の札も壊れることになる。だからチカラを使えないのだ。
「今だ、[クエイク]!」
溶岩の中から姿を現した[クエイク]は、出会い頭に[デモリッシュ]の尻尾を引きちぎった。
「パ、パ、パ、パロオオオオオオオ……」
この一撃で、撃沈する[デモリッシュ]。新しい札さえ用意すれば、十分に助かるレベルに[クエイク]が抑えたのだった。
「霧生、お前は相当な実力者だ。[デモリッシュ]すら、打ち倒すとは…。これほどに予想外の出来事はない」
「もう、終わりか?」
「これが正真正銘のラスト。[パニッシュ]!」
今度は、人間大のタコ型の式神だった。
(この崖っぷちの状況で繰り出してくるってことは、相当なチカラを持っているはずだ。まずは、様子を見てみるか)
いつも以上に慎重になる霧生。ここで負ければ全ての努力が無駄になるからだ。まずはいつも通り、消しゴムをスズメバチに変えて、向かわせる。
スズメバチが[パニッシュ]の広げた腕の吸盤の上に止まると、毒針を突き刺した。だが、平然としている。毒は式神には効かないとしても、針の威力すら受け付けない様子である。
「それは、無意味だ! [パニッシュ]はその吸盤で、あらゆるエネルギーを吸収できる。そして自身の力に加えるのだ」
「[アブソーブ]と似ているな…」
「夜宵の[アブソーブ]は複数存在するかわりに、叩けば爆発するだけだ。しかし、[パニッシュ]は違う。永続的にエネルギーを蓄え、永遠に成長していくのだ」
霧生はこの時、奇妙なことに気がついた。
要の顔が、輝いてないのだ。どこか悲しげな表情で、[パニッシュ]のチカラを説明している。
「そして[パニッシュ]は、俺の悲しみそのものだ。どんなことをしても、何をやっても悲しみは消えない…」
要は語り出した。自分の過去を、霧生に独白した。
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