真実と偽りの境界

杜都醍醐
杜都醍醐

真菰の[ドレイン] その三

公開日時: 2020年9月2日(水) 14:00
文字数:2,245

「く…、[リバース]!」


 霧生がそう叫ぶと、[リバース]が現れた。


「やることはわかってるよな? あの[ドレイン]を攻撃しろ!」


[リバース]は腕を振った。[ドレイン]も素早く翅を動かして飛んだが、[リバース]よりもほんの少し遅かった。その一振りで[ドレイン]は崩れ落ちた。同時にアブにも腕が当たり、元のチョークに戻って床に落ちると砕け散る。


「ねー。もしかして、今ので勝ったと思ってる? だとしたら頭、残念極まりないわ!」

「だろうね。その式神、随分と脆いみたいだが。複数飛んでいるところを見るに、たいした弱点ではないらしい」

「んー。それも正解」


 だとすれば、やることはただ一つ。


「君のような綺麗な人に危害を加えるのは、気が進まないね。でも今は仕方ない。少し我慢してもらうよ?」


 幸いにもこの自習室には、机が沢山ある。それらの真実の姿を解き放てば…! この学校の物は、大事にされている。言うことを忠実に聞いてくれる犬の類には変化してくれるだろう。

[リバース]が口を大きく開いた。そして息を吸うと、一気に吐き出す。机も椅子も一斉に、種類は色々だが犬に変わる。そして真菰目掛けて、牙を立て、襲いかかる。


「きー、きゃああ! …なーんて、叫ぶと思った?」


 犬たちは確かに、真菰に噛み付いた。だがその牙は、真菰の体に触れると次々に折れていく。


「は!」


 蚊やガガンボ…[ドレイン]が複数、真菰の体にしがみついている。


「既に、対策済みってわけか。[ハーデン]から奪ったチカラで自分の体を硬くして…。噛み付かれても傷一つ負わないように!」


 なるほどこれは厄介だ。三人は確信した。だが芽衣はすぐに次の作戦を考えた。


([ディグ]なら、穴を開けられる。物理的に硬くても式神のチカラなら、いけるはず! [ディグ]の穴は、物を壊さない穴とダメージを与える穴の二つがある。それを使えば!)


 すぐに[ディグ]を召喚すると、真菰に向かって投げ…なかった。それをすれば、彼女にすぐに対策されてしまう。


「ふー。私はできる女なのよ? 三人相手でもわけ、ないわ!」


 霧生も対策を考えた。


「おい興介。この部屋のゴミを何でもいいから拾って俺によこせ」

「はい?」

「いいから早くしろ!」


 霧生の言葉が何を意味しているのかわからなかったが興介は言われた通りゴミを探す。床には散らばっていないので、ゴミ箱に手をかける。真菰が彼に注目してなかったため、すんなりとゴミ箱を漁れた。


 次に霧生は芽衣に命令する。


「芽衣。[ディグ]に、床に穴を掘らせろ。それも真菰に繋がるようにだ」

「わかった」


 芽衣は自分の服の中に[ディグ]を入れ、足元まで真菰に見えないように移動させた。そして床に到達すると、チカラを使わせる。


 これらのやりとりは真菰は見ていたが、重要とは思っておらず、


「もー。何をやっても意味、ないんだわ!」


 再び[ドレイン]を複数召喚し、コピーした[リバース]のチカラを使う。黒板消しが蛇に、机が犬に、椅子がイノシシに、偽りの姿を捨てて現れる。


「ひゅー。一気に決めるわ! コイツらの攻撃、果たしてあんたは耐えられるかしら?」

「やってみなきゃ、わからないよ? [リバース]!」


[リバース]の戦闘力は動物の比ではない。生き物にチカラは通じないので、力任せに腕を足を尻尾を振り、近づいて来る生物をなぎ払う。[リバース]のチカラで生き物に生まれ変わったものは、強い衝撃を受ければその姿を維持できなくなる。だからこの状況は簡単に突破できるはずだった。


「おい、どうした? [リバース]?」


 突っ込んできたイノシシを[リバース]は突き飛ばしたわけだが、イノシシは壁にぶつけられても平然としている。こちらに見せている牙も折れるどころか、ヒビすら入っていない。


「既に…[ハーデン]のチカラを使っていたのか。これはマズいね、思ったよりも!」


 群がって来る生き物は[リバース]が退けてはくれるが、ダメージが入っていないようであり、苦戦を強いられている。


「霧生、ボールペンのキャップがあったぞ! これでいいのか?」


 興介が良いものを拾い上げてくれた。それを霧生に差し出そうとしたため、


「俺じゃなくて、[リバース]に与えろ!」


 霧生の心配は真菰の[ドレイン]にゴミをはたき落とされることだった。だが[ドレイン]にはそこまでのチカラはなく、興介が振り払うと一匹、バラバラになって崩れ落ちた。


「むむー。私の[ドレイン]は、耐久力はないわ。だから人の力でも十分に倒せる。でもその分チカラは強力だわ!」


 真菰がそう言うと、一匹の[ドレイン]の吻が光り輝いた。


「何だ?」


 熱も感じる。バチバチという音もする。


「希望を焼いてやるわ!」


 次の瞬間、その光が飛んだ。光は興介の持っていたゴミを精密に撃ち抜いた。


「おわっ!」


 床に落ちたそれは、消し炭に変わっていた。


「どうよ? 他の式神のチカラだけど…。あんたたちの望みは今、プラズマによって消し炭になったわ!」

「プラズマだと?」


 唐突なチカラを見せつけられた。


「そんなの、どうすればいいの?」

「芽衣は黙って言ったことをやってくれ」


 しかし霧生は冷静だった。


「ゴミが炭に変わったからって、これで終わりなわけないだろう!」


[リバース]が消し炭に触れた。触ることができた。


「これでいい。芽衣、[ディグ]に導かせろ。それで終わりだ」

「わ、わかった」


 真菰はこのやり取りに違和感を覚え、


「何言ってるの? あんたたち、私に勝てると思ってるの?」


 動物は[リバース]が退けてくれる。霧生はプラズマを二度くらわぬよう、懐に仕舞った。

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