「どういうこと? まさか夜宵、霧生にやられたんじゃ?」
日霊は、自分の式神から突然離れていく[アブソーブ]を見て言った。こんなことが起きるのは、それぐらいしか理由がない。
「いいわ…。それならそれで、徹底的に相手をしてあげる。そして霧生! あなたがあの男たちを倒すのに相応しい召喚師か、見定めようじゃない!」
「クワワアアア…」
[シール]もやる気だ。この一戦に全てを賭けるのだ。
数分後、見覚えのある顔が日霊の前に現れた。
「久しぶり。まず断っておくが、夜宵は屋上で待機している。怪我は多分してないから、安心して欲しい」
「それは私があなたを倒して直接確かめる」
「それはできないな……。[アブソーブ]の鎧なしで、[リバース]と互角に戦えるか?」
「証明してみせるわ!」
日霊には、引く気はない。あるのは自分の式神を信じ抜く信念だけだ。
「行け、[リバース]!」
「打ち返せ、[シール]!」
[シール]は口を大きく開けて威嚇する。だがこれに怯える[リバース]ではない。叫び返す。
急に、[シール]がジャンプして噛み付いてきた。だが[リバース]は体をうねらせてかわす。空しく閉じた大きな口は、何も捉えていない。
今度は[リバース]の攻撃だ。爪で背中を引っ掻いた。今度こそ、相手の式神にダメージを与えられた。だが、相手には鋭利な尻尾がある。それが鞭打つと、さすがの[リバース]も距離を取らずにはかわせない。
「ココオオオオオオアア…」
[シール]は傷つけられて、怒っている様子だ。
「ガルルルアアアア!」
[リバース]も、チカラを封じられていることにご立腹だ。
二体の式神が、睨み合ったまま動かない。霧生も日霊にも、緊張が走る。
(次の一手で、全てが決まる……!)
先に動いたのは、[シール]の方だった。[リバース]は遅れたのだ。
(でも、待って。なぜ霧生は焦っていないの?)
そんな疑問が日霊の頭の中に生じた時、既に手遅れだった。[シール]は[リバース]の腕に噛みつき、得意のデスロールを披露した。
「グウウウウウウルルルル…!」
痛みを堪えて反撃しない[リバース]。まるで、何かを待っているかのようであった。
(一体何を…?)
その何かは、すぐにわかった。
[シール]の回転に耐え切れず、[リバース]の腕が千切れてしまった。
だがこれを霧生は待っていたのだ。千切れた瞬間から、[シール]の回転は[リバース]には届かない。[リバース]は[シール]の下顎を残った手で掴むと、その頭を床に叩きつけた。もがく[シール]は、口を開けることすらできないようだ。
「ま、まさか霧生…! これが?」
「[リバース]の覚悟を舐めてもらっては困るね。勝利のためなら、四肢を捥がれることだってあるだろう? だが! [リバース]は確実に、残った頭で勝利を掴む!」
追撃をかける。喉元を爪で切られた[シール]には、もはや戦う気力が残されていなかった。
「どうだ日霊! まだ戦うっていうなら、式神を破壊するぜ」
「くっ…」
選択肢がなくなった日霊は、負けを認めて[シール]を札に戻した。
霧生も、[リバース]を新しい札に入れた。
「さてと。日霊、まだ帰るのは早い。何で俺を狙ったのか、理由を聞いておきたい。負けた君には悪いけど、話す義務があるぜ?」
「仕方ないわね……。じゃあ、夜宵も一緒に…」
快諾した霧生は屋上で夜宵を拾うと、三人でレストランの中に入った。
「あなたの力を買って言うわ。あの男を倒して欲しいの」
「誰だい? そんな恨みを買っているのは?」
違う、と夜宵が言った。
「名前は、雨宮要。彼が私たちのボス。でもその目的は…」
「世界を我が物に、とかかい? それとも何だ?」
「アイツは、この世を終わらせる気だよ。雨宮の目的はたったのそれだけ」
「はあ、はあ?」
思わず霧生は聞き返した。
「いい? 雨宮は召喚師を脅して仲間に入れては、目的を達成できる式神を探しているの。[クエイク]は彼の前では、出さない方がいいわね」
「待て待て。話が大きくなり過ぎだ。何で世界を滅ぼそうとか言うわけ?」
日霊も夜宵も、首を横に振って答えた。どうやら聞かさせれていないらしい。
「雨宮をこのまま止められなければ、世界がいつか終わってしまう。でも私たちでは歯向かえなくて、それで言うことに従うしか…」
「もしそれが本当なら、藤の名を持つ召喚師は何でそんな物騒な奴に従ってるんだ? 海百合には、殺されかけたんだぜ?」
「藤四人衆は、自分たちの目的を実現したいだけだよ」
夜宵がそう言った。言われて霧生は、尚一が戦いの終わらない世界だの何だの言っていたことを思い出した。
「まあ、その黒幕が、世界を滅ぼそうとしていることには変わりはないのか。んで、海百合たちは隙あらば自分の夢を! って感じだな?」
日霊が頷いた。
「なら、俺が攻められるのを待っているのも面倒だ。一気に雨宮ごと叩き潰すぜ。その方が効率がいいだろう?」
「でも、肝心の雨宮がどこにいるのかがわからない」
「それは、最後の藤に聞く。四人って言ったな? 俺の前にはまだ、三人しか出てきていない。藤井海百合、清藤姫百合、藤崎尚一。残りは誰だ?」
「おそらく、山藤睡蓮。彼女は蜂島高校の生徒よ」
「なら、話は早い。なぁに、直接聞き出すだけだぜ」
やることは決まった。前の海百合の時みたいに油断はしない。
「でも、睡蓮がどんな式神を持っているかは…」
「わからなくていい。それも直接見て確かめるよ」
話が済んだので、霧生は自分だけ会計時に財布を開いた。日霊と夜宵には、一円も払わせなかった。
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