「睡蓮から手に入れた情報は、これだ」
霧生は放課後、自分の教室に芽衣たちを集め、作戦会議を開いた。黒板に雨宮のことについてまとめを書く。
「直接繋がっている召喚師はおそらく四人。[リメイク]の海百合、[リカバー]の姫百合、[リセット]の尚一、そして[リライト]の睡蓮だ。もっといるかも知れないが………。榎高校を襲ったのは巴と灸だけだったんだな?」
「ああ」
興介が頷く。
「と、いうことは…だ。動かせる召喚師は、今は多くないということ。攻めるなら今がチャンスだ」
「でも逆にそれって、こっちも後がないことがバレない? もし撃退されたら、本当に終わりだよ…?」
熾嫩がマイナスなことを言う。
「元々終わってたようなもんだろう? 何も失いやしないさ。僕は賛成だ」
第助は、霧生の考えに頷いた。
「まー、私もだわ。また誰かやって来ることを考えると、面倒って感じよ。元凶を叩くのが一番だわ」
真菰も第助と同じ意見だ。
「なら、一気に行くだけだぜ! なあ、霧生?」
霧生の胸をドンと叩いて興介が言う。
「よし。じゃあ明日にでも行くぜ。早い方がいいだろう?」
「作戦は?」
芽衣の問いに霧生は、
「式神を召喚して攻撃、だ」
「何その脳みそ筋肉大作戦?」
「雨宮の式神がわからない以上、これで行くしかないだろ!」
芽衣は、反論しなかった。他に良いアイディアを思いつけなかったからだ。
この日はこれで、解散となった。
「さてと」
霧生は一人、地図を広げた。芽衣たちには明日行くと言ったが、戦いに巻き込みたくなかったので、今から一人で行くのだ。
一見すると無謀に見えるが、霧生はそうは考えていない。今までの経験と、自分の式神。その二つが彼を支えているのだ。
数分歩けば、雨宮が潜んでいるアパートについた。カーテンこそかかっているが、ほんのわずかだが光が漏れている。それはつまり、今そこにいるということ。
「ようし、[リバース]!」
換気扇の隙間、新聞受けの口を通して、[リバース]のチカラで生み出したスズメバチを侵入させた。大量の消しゴムを消費したが、その代わりに凄まじい戦闘力を誇る軍隊が手に入った。
アパートの一室が何やら騒がしい。きっとどこからもなく現れたスズメバチに驚いているのだろう。
(出て来るか? 式神のチカラか力量が高ければ、あれぐらい捌くのわけないかもな…)
しかし霧生の心配とは裏腹に、ドアが開いた。
「何なんだ、この!」
殺虫剤を撒き散らしながら、若い男が出て来た。
「あれが雨宮か! [リバース]、蛇をくれ!」
ここまで来てコソコソ隠れながら戦う、なんてことはしない。蛇を掴むといつでも投げられるようにし、出て来た男に近づいた。
「そこまでだ、雨宮!」
「雨宮? 何だお前は?」
男は、キョトンとしている。
「とぼけるなよ。俺たちが何度死にかけたことか。ここまで来るのに、随分と苦労したんだぜ? 本当はみんなでボコボコにしてやりたいけどな、それはちょっと気が引ける。だから俺だけで来た!」
「……さては噂に聞く、霧生嶺山だな? そうだろう?」
霧生は頷いた。
「なるほど。お前がここまで来たということは、だ……。海百合たちが敗北したということか。やっぱりアイツらに頼らない方がいいって俺は言ったんだ。言わんこっちゃない」
「おい、誰に向かって喋っている? お前の目の前には、俺しかいないぜ?」
「雨宮に向けて、さ。俺は日比谷堤。残念ながらお前が目指した住所は、俺のところだ。万が一こういうことになった時、つまりは誰かが藤四人衆の連絡網を勝手に覗いた時、俺のもとにたどり着くように仕組んである」
この男は、堤であった。霧生がここまで来たということが何を意味するのか、堤にはわかっていた。
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