だが見逃せない物が、堤の近くに転がっていた。
「あれは、携帯?」
しかも画面を見るに、通話中である。その話し相手は雨宮要と表示されていた。
霧生は携帯を拾い、ダメ元で耳に持っていく。まだ何か聞こえる。マイクに向かって声を出す。
「お前が本物の雨宮か?」
「正解だ。百ポイントくれてやるよ、霧生。どうやら俺が直に動かねばいけないらしい。堤をやられたのは予想外だった。敵ながら拍手を送ろう」
「どこにいる?」
「榎高校の校庭だ。そこで待っている。まあ、たどり着ければの話ではあるが…」
電話はそこで切れた。
「たどり着ければ? 榎高校ならここから歩いて十分もかからないぞ? 周りはもう暗いが、だからといって道に迷うワケもない…」
耳を澄ませなくても、足音が聞こえた。
「霧生。勝ち逃げなんてさせない。キミはアタシに負けなければいけない存在。アタシが一番優れた召喚師であることを今から証明する…」
「悲しいことですわ。だってこれから、争いが起こってしまいますもの。ワタクシは平和を愛していますのに」
「これ以上先に行けるか? 無理だろう。また始めようぜ、終わらない戦いを! でも今度はお前の負けで幕開けかもなぁ!」
「正直ワタシね、君たちの力を侮っていたよ。だってそう思うじゃん普通、戦う予定なかったら、取るに足らない召喚師としか」
霧生は、言葉の意味を理解した。海百合、姫百合、尚一、睡蓮………藤四人衆が目の前に集合している。これは確かに、学校に行くのが苦行かもしれない。
「おいおい、待てよ? 雨宮の目的、知らないのか? 世界を滅ぼそうとしてるんだぜ? 今ここで俺の足を止めたら、もうきっと雨宮を止めることのできる召喚師は現れないだろう。それじゃ終わりだぞ?」
「そんなこと最初から知っている。でも、どうでもいい。アタシたちはアタシたちで、目指しているモノがある。最終的には雨宮は倒さねばならない存在。アタシたちが部下というのは偽りで、ハナっから協力する気はないのが真実」
海百合は冷たくそう言うのだ。だが霧生も薄々気づいていた。
「だろうな。特に海百合、君の[リメイク]を使えば、雨宮の目的達成なんて簡単なはずだ。でもそれをしていないということは、それなりの理由がやはりあったということか」
四人は平然と頷いた。説得は不可能。霧生はかなり焦った。
(ここで四人が同時に相手か。これは脊髄に応えるぜ…)
その時だ。霧生の後ろから声がした。
「抜け駆けなんて、ズルイじゃないか! 霧生! これで二度目だぜ? お前が勝手に行動するのはよう!」
「もー、何で一言も言ってくれないのよ? 理解に苦しむわ! そんな無茶に格好つけると、かえってダサいわ!」
「僕は何でも手伝ってあげるよ。今! ここで引いたら式神が泣く。退けない戦いってのは、これだ」
「ウチは怖いけど、ここまで来たら、行かない方が怖い。全力はもちろん出すよ。でも勝てるかどうかは別だけどね」
現れたのは、興介、真菰、第助、熾嫩。それに、
「霧生! 本当にあなたの脳みそは筋肉なの? みんなと協力するって言ったじゃんか! 酷いったら、ありゃしない!」
芽衣もいた。
「すまないね…。みんなを巻き込みたくなかったんだ。だって本来ならこの戦いは、俺が原因で起きたんだからよ。俺が終わらせるのが筋ってもんだろう?」
「水臭いこと言うなよ、お前だけで生きてるんじゃないだろう?」
興介が肩を叩きながら言う。
「でも、この状況を切り抜けるのには、みんなの協力があってこそだな!」
「いいや、霧生! 先を急いで! 雨宮の奴が同じ場所に留まってくれるとは限らない」
芽衣が言った。
「いや、でも…」
「藤四人衆は僕たちが相手をする。君は元凶を叩け!」
五人の決意は、団結力と同じくらい硬かった。霧生は先に学校に向かうことにした。
「すまない…」
「いいのいいの、気にしないで! 誰かが行かないといけないから」
背中を芽衣に押されて、走って向かう。
「何? キミたちがアタシたちを足止めできるとでも言いたいの?」
海百合がそう言った。相手が誰であろうと手加減する気はない。それがよくわかるセリフだ。
「案外、やってみないとわからないわ!」
「ウチらはそう簡単に負けない!」
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