「うぬう? なんだこれは?」
「残念だったなあ、伝説の式神。やはり式神には、召喚師が必要なんだよ」
霧生が近づいて、そう言った。
「勝ったと思っているんだろうが、それはただの勘違いさ。今、何をした? [リバース]の腕を破壊した? 違うな、[リバース]はワザと腕を切らせたんだ」
「な、何を言う?」
「そして今、お前の目を覆っているのは、ミズダコだ。千切られた[リバース]の腕は、タコになってお前の視界を奪った」
タコを引き剥がそうとジタバタする伝説の式神。動いてしまったから、手元が狂った。触手は[リバース]とは別の方向に振り下ろされた。
「馬鹿な? だが、腕はもいだ。我が有利なことには変わりはない!」
「それも違う。偽りの有利だな」
霧生は和紙と筆ペンを持っている。和紙に[リバース]と書いて、[リバース]の額に当てた。すると[リバース]は新しい札に戻る。そしてすぐに再度召喚され、失ったはずの腕が元どおりになっていた。
「式神だって傷つく。だがそれを治してやれるのは、召喚師だけだ。伝説の式神、お前がいかに[リバース]にダメージを与えても、俺がいる限り[リバース]は不滅だ!」
「そうか……。ならば人の子、お前を先に葬るだけの話…」
「それも叶わない。今お前の目は、タコに縛られているが…そのタコ、元は[リバース]の腕。チカラを解除したら、一瞬だけでも動かせるはずだ。そして一秒もあれば、お前の飛び出している目を切り落とすなんてわけがない!」
伝説の式神は、タコを攻撃しようと触手を曲げた。同時にタコは、[リバース]の千切られた腕に戻りその爪が、片方の目を潰した。
「なあああぁ!」
衝撃で、触手の手元が完全に狂い、もう片方の自分の目を潰してしまった。
「どうだ! 形勢逆転だな! お前は何も見ることはできないが、こっちは自由に攻撃ができる」
「自惚れるな! 我のチカラを忘れたのか?」
また、地震が始まろうとしている。
「忘れちゃいない。けどな、何も見えていない状況で揺らしても[リバース]は空を飛べるから当たらない。逆にお前が鍾乳石や壁にぶつかって自滅するだけだ!」
「調子に乗……」
伝説の式神の言葉は途中で止まった。いや、降ってきた鍾乳石が体に突き刺さり、遮られたのだ。
「るっがあああああああ!」
天井も崩れ落ちる。それの下敷きになる伝説の式神。もはや、動くことはできそうにない。触手の一部だけが、瓦礫の隙間から覗かせている。
「どんな伝説でも、人があってこそ成り立つものだ。伝説の式神、お前に足りなかったのは、召喚師との絆だったみたいだな…」
霧生は和紙を、はみ出ている触手に当てた。
「これで、素直に札に入ってくれればいいが……」
それすらも拒まれたら、もう本当にどうしようもない。だが伝説の式神は、生存本能からなのか、札に入った。式神がいなくなったので瓦礫はさらに崩れた。
「ついにその手に入れたか、伝説の式神を…」
ハイフーンは驚いてはいなかった。戦いの終始をずっと見ていたからだ。どちらが勝ってもおかしくはなかったが、最後の方は完全に霧生たちの流れだった。
「やっとな。新しい札に入れれば、傷も治る。後は名前だな。一々伝説伝説って叫んでちゃ煩わし…ん、何だ?」
周りが急に、揺れだした。しかしそれは地震というよりは、地下空間を押し潰そうとするような現象だった。
「おそらく、伝説の式神が戦いに負けたので、この場所も消えるのでは?」
ハイフーンが言った。
「じゃあ早く脱出しよう」
二人が地上に出ると同時に、地下への穴は塞がった。
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