「ふう、ここまで逃げれば安泰ですね。しかし、厄介な相手です。式神が直接相手となると、どうしても[スリップ]じゃあ勝てないですからね…」
式神にそれぞれ特別なチカラがあり、それが個性だとすれば、一体一体基本的なスペックも異なる。[スポイル]は自身が戦いに参加できるタイプのようだが、[スリップ]は違う。
「いて!」
急に後頭部に、バレーボールが飛んできた。
「誰ですか! 廊下で球技大会をしているのは?」
振り向いて大声で叫ぶ良和。だが今度は、悲鳴を上げたくなった。
なんとそこには、希美が相手をしているはずの、興介と第助がいるのだ。しかも式神を召喚してあり、手にはまだ他にも様々なボールがある。
「すまなかったね。では、優勝者を決めないか?」
第助が[ディザーブ]にバスケットボールを渡した。受け取ってすぐに投げるのではなく、[ハーデン]が一度、触れる。
「もしかして、これ、やばいヤツじゃないですか!」
今頃気付いたのか、だがもう遅いと言わんばかりにボールを投げる。
「ですが! [スリップ]! ボールの軌道は意のままに………」
そうなるはずだった。だがボールは、二人の方に軌道修正したのに、良和めがけて飛んでくる。
「ぶわっ!」
ものすごく硬いボールが、腹を直撃した。その一撃は、良和の膝を崩して床に倒した。
「せっかく僕が与えようというのに、断るのかい? 悪いけど、君にその権利はないんだよ」
「く、くそ!」
だがまだ負けを認めたわけではない。良和は立ち上がろうと手に力を入れる。すると、手の数ミリ横に竹刀が突き立てられた。
「ああ!」
「ほほう。お前の式神、軌道を変えられるのはやっぱり飛び道具だけのようだな? 竹刀は俺の温情で手に当たらなかった。だが、お前も召喚師だろう? 次の一撃は保証できない」
「ま、ま、待ってくださいよ! 俺は何も喧嘩を売りに来たんじゃ…」
「……携帯、鳴ってるみたいだぜ?」
興介がそれを指摘すると、良和は心の中で少し余裕が芽生えた。
(この連絡は、間違いない。希美だ。入れ替わった二人…俺が追っていた真菰と熾嫩を倒したから、合流しようって合図だ…!)
ゆっくりと立ち上がる良和。大声で怒鳴る。
「切り札ってのは、最後まで取っておくものなんですよ!」
威勢の良さに一瞬驚いた興介と第助。その隙を突かれて、良和に逃げられる。
「追うぞ、第助! [ディザーブ]は札に戻せ」
「わかってるよ」
二人も後を追う。だが、良和が昇降口に向かっているので、足をゆっくりにした。
「俺と希美が力を合わせれば、お前たちなんて敵じゃないんですよ!」
そう言いながら外に出ようとしたら、誰かが腕を引っ張る。
「希美か…って、うわああ?」
残念なことに、腕に噛み付いたのは[スポイル]だった。
「な、何で? 希美は?」
「あっちで伸びてるよ」
熾嫩が言う。彼女は希美の携帯を使って、嘘の内容のメールを良和に送りつけたのだ。仲間からの連絡が、敵の仕掛けた罠とは夢にも思わない良和は、見事に引っかかった。そして[スポイル]が力任せに良和を、地面に叩きつけた。
「やっぱりな。真菰たちの仕業だと思ったぜ。こんな時にメール? 電話の方が早いってのに?」
作戦に気がついたのは興介だった。だから走って昇降口に駆け込まなかったのだ。
「さあ、この二人から札だけ取り上げよう。何か聞きたいこともみんな何かしらあるだろうからね。全部聞いてしまおう」
第助の提案で、気を失っている二人を誰も使ってない教室に運んだ。
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