真実と偽りの境界

杜都醍醐
杜都醍醐

睡蓮と[リライト] その四

公開日時: 2020年9月13日(日) 15:00
文字数:1,563

「海百合! 全く、情けないね…」

「そんなこと言ってる場合じゃないぜ?」


 睡蓮が霧生の方を向くと、なんと[リライト]が[クエイク]に持ち上げられていた。


「ウェオオオオウウウウウ!」


 これは式神のチカラではないので、いくら[リライト]がもがいたところで、[クエイク]から逃れられるわけがなかった。そして[クエイク]は、[リライト]を睡蓮めがけて放り投げた。


「あああああっ!」


[リライト]の下敷きになる睡蓮。札を突き出して、式神を札の中に戻すことで防御もできたのだが、そこまで頭が回らなかったのか。それとも、[リライト]を札に戻せば、チカラは使えなくなるので、カラスがレンガに戻り、降ってくることを考えると札に戻せなかったのか…。霧生にはどちらかわからなかったが、睡蓮が起き上がろうとしないことは確かだった。



「勝ったんだよね、霧生?」


 芽衣が聞くと、


「おそらくだ。[リライト]の方は札に戻っていったし、[リメイク]はまだ残ってはいるが、[クエイク]も参戦すればまず負けない」


 本当に強い相手であった。海百合の実力はあらかじめ知っていたし、睡蓮の方は未知数だった。

 霧生は気絶している睡蓮の懐に手を伸ばし、生徒手帳を取り出した。そしてそれを開く。


「やっぱり藤四人衆は、雨宮の連絡先を知っているぜ。アジトの住所や電話番号、アドレスも書いてある」


 携帯のカメラで撮影する。さすがに他の召喚師の情報はなかったが、欲しかったものは手に入った。これで雨宮のところへ、直接行くことができる。


「まだ…」


 海百合が起き上がった。


「海百合! まだやる気なのか! もう俺には戦う理由はない」

「アタシは、全ての召喚師の上を行く……。最強の召喚師になるためには、こんなところで負けられない………」


 海百合を立たせているもの。それは、意地であった。召喚師として、負けることが許せない海百合は、自分のプライドを守るために起き上がるのだ。


「まだ終わってない…。[リメイク]、さあアタシの方へ。これから勝ちにいく…」

「もうやめろ! そんなボロボロの状態で、まともに戦えるわけがない! これ以上君を傷つけるわけにはいかないんだ…!」

「敵から情けはもらわない」


 海百合は、霧生の思いやりを切り捨てた。


「どうするの、霧生?」

「やるしかない。下がっていろ、芽衣!」


[リメイク]が海百合の側についた。霧生も[リバース]と[クエイク]を召喚し、戦う姿勢だ。


「[リメイク]…。やってしまいな」


[リメイク]が校門に触れるとそれが、姿を変える。戦車になった。


「おいおいお…。これは……ヤバい!」


 あと少し動くのが遅れていたら、砲弾に吹き飛ばされていた。


「だが! [クエイク]!」


 戦車は地割れに飲み込まれた。しかも地面の裂け目は溶岩で満たしたので、完全に蒸発させた。

 まだ海百合は止まらない。大きめの消しゴムを取り出すと、[リメイク]のチカラで手榴弾変える。そして霧生めがけて投げる。


「今度は、[リバース]!」


[リバース]が霧生のハンカチから生み出したのは、蛇だった。蛇が尻尾で手榴弾を弾き、海百合の方に飛ばした。そして爆発したが、直後に海百合が[リメイク]のチカラを解いたので、消しゴムの破片が飛び散るだけだった。

 長引かせるのは、得策じゃない。霧生はそう判断し、早々に決めることにした。

 制服の上を脱ぐと、イカに変えた。そして墨を吐かせた。


「何だ…」


 攻撃が目的じゃない。目くらましだ。

 そして霧生は一気に距離を縮めた。海百合が動き回れるほどの体力を残していないことが、この作戦を選ぶキッカケになった。


「うお!」


 腹の真ん中に、拳を当てた。威力は加減したし、直前に[リバース]に生み出させたデンキウナギに、少し放電させた。


「…………………………………」


 海百合は無言で、足を崩した。霧生はその体を支え、優しく地面の上に横にした。

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