真実と偽りの境界

杜都醍醐
杜都醍醐

第十三話 最後の藤

睡蓮と[リライト] その一

公開日時: 2020年9月13日(日) 12:00
文字数:2,592

「……以上だ」


 霧生は前回の反省活かし、まずは榎高校の仲間たちと話した。日霊と夜宵から聞いたことは全部、芽衣たちに教えた。


「それ、本当かよ? 嘘なんじゃねえのか?」

「その可能性もあるかもしれないが、俺の世界では女性は嘘をつかない」

「ひえぇ…」


 今の発言には、興介はドン引きだ。


「まさかまた、一人で行くとかしないでしょうね?」


 芽衣が言うと、


「当たり前だ。仮に海百合が出てきたら、俺一人じゃ敵わん。だが、みんなで行くっていうのも目立つ。ならばここは、俺と芽衣が蜂島高校に行き、興介、真菰、第助、熾嫩はこの学校で待機! どうだ?」

「賛成だわ。海百合の顔なんてもう、絶対に見たくないわ!」


 と真菰。


「守りの任務か。それはそれで面白そうじゃないか!」


 と興介。


「僕はそれでいいよ。僕は何やっても海百合には勝てないからね…」


 と第助。


「第助が残るならウチも」


 と熾嫩。


「何で私だけ、霧生についてくのー?」


 芽衣だけはちょっと反発した。


「いいか、芽衣。相手は最近召喚師になった俺たちが相手なら…って感じで油断してる。そのチャンスを活かすには、俺と芽衣しかいないんだ!」


 そんな説得で納得する芽衣ではなかったが、


「でも待って。雨宮……。旅館の宿泊客の名簿で最近、見たような?」

「じゃあ決まりだ」

「何で?」

「真実を確かめたいだろう? 俺は例え世界が偽りの姿だとしても、守り抜く。それだけだ」


 強引に話が持っていかれた。だが芽衣からすれば、霧生は頼もしい存在。


「わかった。じゃあ、行こうか」


 二人は出発した。



「うぐぐ、クソ! [ディフューズ]が通じない?」


 そんな悔しそうな台詞を吐くのは、懐かしの灸。彼と巴は、勝手に取った行動の尻拭いをするために榎高校にやって来たのだが…。


「ぐわああ! [ブリリアント]のプラズマを堂々と受けるだと?」


[ディザーブ]に投げ飛ばされる巴。


「もー、二度も私を倒せると、思ったなんて…。愚か過ぎるわ! 私は前とは違うわ!」


 二人は、真菰相手ならどうにかなると思っていたのだ。しかし真菰には、


「俺の式神[ハーデン]なら、氷を弾くことぐらい、わけないぜ?」

「僕の[ディザーブ]は、何でも与えられるんだ。それが敗北であってもね!」

「[スポイル]は、ウチの式神…。もうプラズマなんかに屈しない…」


 頼もしい味方がついていたのだ。


「巴! もう姫百合に何を言われても構わないから、に、逃げよう!」

「チクショウ! この屈辱は絶対に忘れねえぞ!」


 二人の召喚師を、余裕で退けた四人。


「気になるのは、霧生と芽衣だ。そろそろ敵の本拠地について戦いが始まっている頃だろう。善戦しているといいが…」


 興介は心配した。何しろ相手は海百合に加えて、詳細不明の召喚師。

 だが四人は霧生たちを信じている。絶対に勝利して凱旋する。

 四人に今できることは、それを待つだけだった。



「蜂島高校。俺は二度目だぜ」


 少し離れた歩道橋の上で、霧生は校門を見ながら言った。


「私は初めてだけど、結構立派でお洒落な高校なんだね」


 芽衣は妹の実衣が通っているこの高校の情報は、ほとんど知らない。中学時代の受験期に少し名前が聞こえた程度である。そして受けてもいないので、入ったこともない。


「そもそも、何で歩道橋? 直接行かなくていいの?」

「海百合には近づかれたら終わりだ。できれば出くわしたくないから、ここで様子見をする。芽衣も海百合のことは見たことあるだろう? それっぽい人物がいたら教えてくれ」

「携帯でメールでも送ればいいんじゃ?」

「それは、ダメだな…」


 海百合の[リメイク]は、触った物質を全く異なる物に作り変えることができる。目の前で携帯を広げようものなら、一瞬でハンカチに変わってしまう。だから遭遇したら連絡するということはできない。


「まあ目的は山藤睡蓮一人。海百合は出会わなければラッキーだが、一緒に行動していた場合は、俺が何とかしよう」


 前回は第助と[ディザーブ]がいたから…というより不用意に近づき過ぎた。だから海百合に対処できなかったと霧生は考えている。


「距離さえ取れれば! [リバース]の敵じゃない。それに今は[クエイク]もいる」

「でもその肝心の睡蓮って人は、どうやって探すの?」

「それは…」


 霧生は一呼吸置いて、


「これから探すんだ」

「本気?」

「無謀してるんじゃないぞ? 既に[リバース]がミツバチを生み出している。それが探してくれているんだ」


 霧生の指には、女王バチが止まっている。

 だが、いきなり雲行きが怪しくなる。


「何? 破壊されたのか?」


 しかし、[リバース]は首を横に振る。


「じゃあどうしたんだ? ミツバチは?」

「ちょっと霧生、何が起きているの?」


 歩道橋から降りながら会話をする。


「どうやら、ミツバチが元の姿に戻されてしまっているらしい…」

「単に破壊されたんじゃないの?」

「違うみたいだ…。[リバース]がそうじゃないと言っている。睡蓮の式神のチカラなのか?」


 階段を下り切ると、校門に向かう。


「もうコソコソとか言ってる次元の話じゃないぜ。行くしかない」


 女王バチを飛ばす。すると校門近くの、リボンで後ろ髪をまとめている少女の方に飛んでいく。


「なるほど。あの子が、か…」

「え? もしかして?」


 少女は霧生たちに面と向き合って、


「えっと…。霧生嶺山に楠芽衣だっけ? 君たちここで何してるの?」

「人探しだ」

「はは、奇遇だね。ワタシもなんだ。いや正確には、探していた、だったかな? もう見つけてしまったからね」


 間違いない。霧生たちは確信する。


「ワタシは、山藤睡蓮。霧生…君とは戦う予定が組まれてないんだけど、君がって言うなら仕方ないね」


 クスクスと小声で笑いながら、睡蓮は喋る。


「しょうがないだろう? 雨宮ってのが地球滅亡を企んでいるんだ。理由なんて知らないけどな、これは止めないと心が痛むぜ」

「雨宮? あは、そこまで知ってるなら、生かしておくわけにはいかないね!」

「ちょっと待ってよ、あなたは何が目的なの? 雨宮に協力して、何になるの?」


 芽衣が聞いた。意外にも睡蓮は、


「ワタシの目的? そんなの簡単だよ。ワタシね、その他大勢の人たちが大っ嫌いなんだ。式神を召喚できないし見れも触れもしない人なんて、この世に必要あるぅ〜? 生きてる価値すらないじゃん!」

「なるほどな…。それが君の目的か。要するに無能な人間の排除。雨宮に便乗しなければ実現できそうにないな。もっとも俺が知ったからには、絶対に阻止させてもらう!」

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