【完結保証】 武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~

蛮族、武田義信が略奪しまくる話
田島はる
田島はる

父と子

公開日時: 2022年11月22日(火) 19:26
文字数:1,347

 足利義昭の仲介もあり、北条家と再度同盟を結ぶことに成功した。


 駿河の一部を失ってしまったが、国衆の領地なので義信の懐は痛まない。


 着地点としては上々と言えた。


 武田軍を退かせていると、飯富虎昌が上機嫌で言った。


「北条も退けたことですし、これでようやく駿河の……いや、東海三国の統治に専念できますなぁ!」


「いや、どうやらそうも言っておられぬらしいぞ……」


 義信が文を見せる。


 差出人は信玄からだった。


「父上からの招集だ。いろいろと話を聞きたいゆえ、甲斐に参上せよ、とのことだ」


 義信の言葉に、家臣たちが顔を見合わせた。


 三河の時と同じく、どうにも嫌な予感がする。


「北条との戦を回避したというのに、お叱りを受けるのか……」


「いやいや、今度こそ、駿河、遠江平定を祝してお褒めの言葉を頂けるのやも……」


「バカな……。お館様と若の仲は皆が知るところであろう」


 不安を見せる家臣たちの中で、飯富虎昌が義信の手を取った。


「何が起きても不思議ではありませぬ……くれぐれもお気をつけて」


 大げさに義信の手を握る飯富虎昌に、義信は涼しい顔で息をついた。


「さてな……どうなるにしろ、備えはしておくさ」


 今回の招集には、義信もどこか不穏な気配を感じていた。


 三河の時といい、信玄からの呼び出しに良かった覚えがない。


「今回も手土産を持っていくとするか……」


 では、何を持っていこうか。

 頭の中で吟味しながら、義信は軍を解散させるのだった。






 躑躅ヶ崎館に戻ると、すぐに信玄のいる部屋に通された。


 信玄がじっと義信を睨みつける。


「遠江に続き、駿河の平定、ご苦労であった。……して、なにゆえ召喚されたかわかるか?」


「今川を乗っ取り、駿河と遠江を平定した褒美を頂きにまいりました」


 義信の冗談を無視して信玄が続ける。


「今川の若造のことよ。儂はあやつを討てと言った。……なぜ討たぬ。義理の兄にあたるからか。それとも、お主の慕う義元の忘れ形見だからか」


「義兄殿を討てば、今度は駿河の国衆が北条に寝返りかねません」


「なにも表立って殺せとは言っておらぬ。……鷹狩りにでも行かせて、大怪我を追わせれば、勝手に事切れよう」


「お忘れですか? 義兄殿の正室は北条の娘……義兄殿が命を落とせば、正室も北条へ戻ることとなります。……そうなれば、我らは人質を一人失うことになるのです」


 義信の言い分に思うところがあるのか、信玄がしばし考えた。


「…………そうでなくとも、氏真を討たぬ限り、何度でもあやつを担ぎ上げ、今川の当主の座を脅かさんとする者が現れるだろう。……それでも討たぬと申すか」


「無論です」


 義信の答えを聞いて、「やはりか……」と信玄がどこか諦めの混ざった様子で呟いた。


「口ではなんとでも言えよう……。儂を説き伏せるのなら、言葉ではなく形で見せてもらおう」


 信玄は、「氏真が武田に牙を剝かないと」目に見える形で示せと言ってきた。


 謀反の証拠を用意するならまだしも、裏切られない証拠を用意するなど、不可能に近いだろう。


 もちろん、なんの用意もなければの話だが。


「わかりました」


 義信が立ち上がると、襖に向かって足を進める。


 やがて、義信が襖を開けると、そこにいた人物を見て信玄が目を見開いた。


「なっ……あなたは……」


「久しいな、晴信。……いや、今は信玄と名乗っているのだったな」


「父上……」

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